15.突然始まるラブコメ
勉強したくねぇ。
<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ>
綺都「生徒指導室から逃げ出した馬鹿二人。」
美織「ふざけんなお前も同罪だろが!」
翼 「そうやっていつも濡れ衣を着せおって!!」
綺都「もう返答したら負けだと思っている。」
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「「「保健室かよっ!!!!!」」」
「はいはい保健室ではお静かにねん。」
釜崎先生がパンパンと手を叩く。
叩くと同時に付けられているブレスレット状の腕時計がジャラジャラと音を鳴らす。
「全くあんた達何をやらかしたのよ。」
「実はさぁ釜ちゃん~。昨日…」
「待てっっ!」
「ぶっっ、」
綺都は釜崎の言葉を聞いて衝動的に無遠慮に物を語る美織の口を手のひらで防いだ。
昨日何があったか、釜崎先生は知らないのか?
知らないということはまだ志藤先生は他の職員達に昨日の事件を教えていないということになる。
抵抗しまくる美織を必死に押さえながら綺都は隣にいた翼に小さく耳打ちした。
「まだ釜崎先生が知らないということは、きっと他の先生には昨日のことを知らされていないんだと思う。上手くすれば誤魔化せるんじゃないのかな。」
そう言うと翼は目を見開いて「おお、なるほど。」と手のひらをポンと叩いた。
翼のとなりにいた梓馬は綺都の言葉が聞こえなかったためなんのことだかさっぱり分からずに目を点にしている。
「つまり今回のことを無しにできるということか。」
「まぁ、可能性は無いとは言えないけど。」
「??なんの話っすか?」
「昨日の事件が無かったことになりそうなのだ。」
「なるほどっすね!」
「納得早すぎないか桐ヶ谷……あだっ!」
右手の側面に激痛が走り綺都は反射的に美織の覆い被せてた右手を離した。
見てみると側面に歯形がくっきりとついている。
綺都は親指で優しく歯形を部分を撫でながらキッ、と美織を睨み付けた。
「噛むとか野生か。ちゃんと呼吸出来るように下方に隙間開けておいた筈だけど?暴れるから呼吸困難になるんだろうが。」
対する美織は息をあげながら途切れ途切れに呟く。
「一般人の呼吸量と、私の、呼吸量は違うっ!ここ重要!」
「なんて贅沢なっ!!」
「あとさっきの話だけど、生徒指導の志藤先生がもうわかっちゃってるからどっちにしろ先生達には昨日の事件伝達されると思うんだけど……。」
「あ。」
よくよく考えてみればそうだ。
生徒指導の先生が生徒の詳細を言うのが普通だ。
根本的なことを忘れてしまっていた。
なによりも
「神崎に正論言われたことが一番悔しい……。」
「なんでだよ!私にも人間の知能くらいあるわ!」
「これは流石の俺でも悔しいと思うぞ上杉。」
翼がポン、と優しく綺都のうなだれた肩を叩く。
ソファーのところで釜崎先生が白衣を脱いでその上から黒いジャケットを着て出ていこうとする。
「どこかへ行かれるんですか?」
綺都がそうきくと釜崎はウフフ、と少し悪寒が走る笑いをしてから答えた。
「昼から友達の結婚式があるの。だから今日は早引きするのよ~。あ、美織ちゃん出るとき暖房と電気消しててちょうだいね、お願いよ。んじゃね!」
と言い残し釜崎先生は出ていってしまった。
え、待ってまさかこの密室でこの個性の殴りあいのメンバーと授業終わるまで一緒にいなきゃいけないの?
一瞬そう考えた綺都は首を勢いよく振りそんなことを考えなければいいと心の仲で呟いてソファに腰を下ろす。
頼む時間よ何も起こらずに早く過ぎてくれ。
そんなことを思いながら綺都はチラッと机越しの目の前のソファに座っている翼の方に視線を向ける。
対する翼はどこから持ってきたのか緑茶が入ったマグカップ片手に保健室に置いてある癌のチラシを読んでいる。
初めて見たときのインパクトが強すぎて顔をよく見ていなかったが、改めてまじまじと見てみると彼はかなり整った顔立ちをしている。
白磁のような白い肌に真っ直ぐと筋通っている鼻筋、切れ長の大きな瞳に筆で描いたような眉。
その中性的な顔立ちは長い前髪によってみえづらいが、逆にそれが更に彼の可憐な容姿を際立たせている。
揉み上げ部分が他の所よりも長いのでチラシを読んでいる翼はそれをうざそうに耳にかける。
女みたいな前下がりショートが似合う男って実際にいるもんなんだなと思いながら綺都は彼の行動を眺める。
流石に長く見すぎたのか綺都の視線に気がついた翼はチラシに注がれていた切れ長の瞳を綺都に向けた。
少しばかり驚いた綺都は目をそらそうとする。
そんな彼を見て翼はフッ、と笑いチラシを閉じた。
「上杉綺都、正直昨日は貴様のことを見くびっていた。」
「俺もいきなり奇襲しかけられたから驚いたよ。」
「まさか武道を心得ているとは……。」
「小6まで空手と剣道してたからね。」
「あの梓馬を簡単に蹴散らせたのは俺の兄と貴様、上杉綺都だけだぞ。喜べ。」
「殺戮兵器って言うなよ…。てかお兄さんいるんだな。」
「ああ、3つ年上の兄がいる。俺とは対称的に能天気で天然だ。女の話を全く聞かなくて将来が……いやまてよ、最近同級生の女子の話をよく聞かされるな。名前が面白いとかどうとか。」
へえ、3つ年上か。
俺の姉さんと同級生だなと綺都は心の中で呟いていつの間にか机の上に置かれていたほうじ茶を啜る。
「俺の姉も3つ年上だよ。地元の柳高校っていうとこの普通科に通ってる。広瀬の兄さんはどこの高校なの?」
「……兄上もそこの高校の普通科だ。奇遇だな。」
「マジか。お兄さんの名前聞いてもいいかな。」
「礼儀の礼と書いて広瀬礼だ。」
「うちの姉の名前は上杉花透。花が透けるで花透。少しだけコンプレックスな名前らしい。」
「そうか?幻想的で綺麗な字体だと思うが。」
そう一瞥して翼はズズズ、と音をたててマグカップに入っている緑茶を飲む。
思ったよりもあんまり上品な立ち振舞いはしないんだなと思いながら綺都もほうじ茶を飲む。
「というか神崎は?さっきからおとなしいけど。」
「あいつなら、ベッドで爆睡しているぞ。」
顔をしかめた綺都はベッドの方に視線を向ける。
確かめる必要は無かった。彼女の女らしくないイビキが恐ろしいほどに聞こえてくる。
何故今までこんな轟音に気づかなかったのだろうと綺都は自分に対して呆れてため息をこぼした。
「……いつのまに寝たんだよ。」
これなら自分の隣で寝ている梓馬(お前もいつの間に寝たんだよ)の方がまだ可愛らしい。
「のちに、上杉綺都。」
呼び掛けた翼は持っていたマグカップを長机の上に置いてゴホンと咳をひとつついて正面にいる綺都を真っ直ぐに見つめた。
「なに?」
すると翼は目を細めながらこう言った。
「貴様、美織のことをどう思っている?」




