Another-2
私が教室に帰ってきたら、皆からとても驚かれた。
「上杉ちゃん顔すごいよどったの!?」
クラスメイトがそう言い駆け寄ってきてくれる。
心配そうな顔をするクラスメイトに私は「大丈夫。」とだけ一瞥して自分の席に着き顔を伏せる。
先ほどの彼の言葉が嫌と云うほど頭のなかで鮮明にリピートされ続ける。
(うわあああああああああああ!!!!)
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。しかも向こうは無自覚って!!
自分だけしか意識してないって考えると更に恥ずかしい!!
女の子にはよく羨ましがられたり可愛いとか言われるけど初めて男の人から直で可愛いって言われた。
何なんだろうこのむず痒い感じは。
広瀬くんはああいうこと他の女の子にも言うのだろうか。
「ちょっとカスカ?大丈夫?」
机に突っ伏す私に声をかけてきた親友の紗織ちゃんが
私の火照った頬にピタリと冷たい飲み物をくっつける。
もう夏とは違って冷たいものを触りたくない時期となったのに今日だけはその冷たいのが気持ち良く感じる。
紗織ちゃんは私の前の席に座ってから苦笑いしながらペットボトルの蓋を開ける。
「どう?ちゃんと礼に渡せた?」
「うん…。」
「言うほど怖い奴じゃないっしょ?あの顎マスクも喉が弱いだけで空気が乾燥してたらいつでもすぐに着けられるように顎に着けてるだけだし。」
「そ、そーなんだ……。」
「目の下に着けてる絆創膏も昔怪我して残った傷がハートみたいな形に見えるから恥ずかしがって絆創膏で隠してるだけだし。」
「か、かわいい……。」
「みんな不良とか言ってるけど、全然優等生なんだから。」
そう言って紗織ちゃんはジュースをグビグビ飲む。
こんな寒い中冷たいジュースをイッキ飲みしたらお腹を壊すのではないだろうか……。
「紗織ちゃんの言ったとおり、すごい優しかったよ。」
「博愛だしね。アイツ。」
「……あのさ、」
「ん?」
「紗織ちゃんは広瀬くんに可愛いとか言われたことある?」なんて直で聞くのは少しだけ勇気がいる。
もし仮にあるって言うなら勘づかれそうだし無いって言ったらなんか自慢してるみたいになって不快感を与えてしまうかもしれない。
こうして考えている間にも紗織ちゃんは私の次に出てくる言葉を待っている。
あああどうしたらいいのどうしてこんなに要領悪いの私は。
もしも綺都がこの状況ならすぐにこんなの考えずにもっと良い策をおもいつくんだろうな。
「どうしたの?カスカ。」
「えーっと…………そのー、広瀬くんって、さ…。」
「うん?」
「天然、なの?」
「天然というか、鈍いっていうのかな?状況を考えずにすぐに口に出すことは度々ある。」
「彼が口に出す言葉は本音ってこと?」
「そうね。そうなるね。」
「はぁぁあ!!あいたすっ!!」
「うわっちょっ、デコ大丈夫!?」
痛い。
思い切り机に伏せたら額にクリーンヒットしてしまった。
紗織ちゃんが心配しながら私の額を優しく撫でる。
本音、本音を口に出すって。
あれって、ほ、ほ、本音だったんだ。
お世辞と思ってしまって申し訳ございません広瀬くん。
いつもと違う様子なのか紗織ちゃんは眉間にシワを寄せて私の事を不審な眼差しで見ている。
蛇に睨まれる蛙の気持ちが今ならわかる気がした。
「さては、なんかしたの?アイツ。」
「なにもされてないよ!?」
「いや!それはない。何を言われたのカスカ。」
「学校で化粧は止めたほうがいいと言われたくらい。」
「化粧してないでしょーが。嘘をつくんじゃない!吐け!」
「ごめん無理です!!」
「何で無理なの!親友に隠し事……
「おーい、紗織ー。」
教室のドア付近から聞こえた声に紗織ちゃんと私はふたりで視線を向ける。
「!」
紗織ちゃんの名前を呼んだ主は先ほどパウンドケーキを渡しにいった際に広瀬くんの隣に座っていた男子生徒だった。
英語辞書を持っている。
おそらく紗織ちゃんに借りたから返しに来たのだろう。
あの男子生徒がいるということは……。
「ほらカスカ、礼いるよ。」
案の定先ほど近所のおばあさんのパウンドケーキを渡した張本人の広瀬くんが男子生徒の隣に立っていた。
広瀬くんは眠そうにして目をごしごしと掻いている。
男子生徒は私の視線に気がついたようで目があった後に、微笑んで私に会釈をした。
つられて私も会釈をする。
今時の高校生のわりには随分と礼儀正しい。(自分も同じ今時の高校生だが)
「ほらカスカ、行こ。」
「え、」
そう言って紗織ちゃんは私の手を引っ張ってそのまま二人の所まで行く。
別に行くのは紗織ちゃんだけでよくないだろうか。
二人の元へ来ると男子生徒は私を見て目を丸くした。
「え、二人って仲良しだったの。」
「そーよ親友よ。ねーカスカ。」
「うん…。」
そう私が一瞥すると男子生徒はほくそえんだ。
「そうだったんだ。俺、本多翔琉って言います。こっちは友達の広瀬礼。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。あっ、上杉花透と申します。」
「いいよそんなかしこまらなくて。よろしく上杉さん。ほら、ライちゃんも挨拶しなよ。」
本多くんはそう言うと広瀬くんの頭をひっぱたく。
それに対して広瀬くんは少し不満そうに前髪から覗いている切れ長の瞳で本多くんを睨み付け、私の方を見た。
「…カスカ?」
「あ、はいっ!」
「カスカ……。」
な、何故彼は私の名前しか呼ばないの。
どう対応するべきなのかすごく困るのですが。
するとしばらくして広瀬くんは自分のポケットからメモ用紙とペンを取り出して私に渡してきた。
「俺、名前覚えるの苦手だから。書いてほしい。」
「え……。」
いや確かにカスカなんて名前変わっているけども、自分の名前を書いてほしいって言う人は初めて見ました。
なんて事は絶対に言えないから私は忠実に言われたとおりに名前を書いて広瀬くんにそのまま渡した。
受け取った広瀬くんは目を細めながら私の名前をまじまじと凝視している。
……面接作文でもないのにこの緊張感は何なのだろう。
「透ける花で花透……。」
「は、はい。」
「……変わった名前だな。読めなかった。」
「す、すみません。良く言われます……。」
「でもなんか幻想的な感じがして、いいな。花透。」
「ありがとうございます……。」
「うん。よろしく花透。」
広瀬くんは眠そうな声でそう言うと背を向けて自分の教室へと帰っていった。
本多くんは「は!?待てよ!」と言って私に軽く手を振った後広瀬くんを追いかけて行ってしまった。
笑顔で二人を見送ったあと、紗織ちゃんがガシッと私の両肩を掴んでものすごい形相で私を見た。
「カスカ……すごいよどんな手を使ったの。」
「はい?」
「あのめんどくさがりで口数の少ない礼が!滅茶苦茶しゃべってた!!しかもわざわざ名前まで書かせた!!」
「そ、そんなにすごいことなのそれ。」
「宝くじ当たる並みにすごいことだと私は思う!!」
「それだと私情だよ紗織ちゃん!?」
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「いやーまさかあの二人仲良かったとはね。ビックリしたね。ライちゃん。」
「ん。」
「でもなんで名前わざわざ書いて貰ったの?」
「だってさっき失礼なことばかりしたから、挙げ句の果てに名前まで覚えてないとか、失礼過ぎるだろ。」
「あ、そーいう理由?気に入ったからとかじゃないのか。」
「名前なら気に入った。花透。」
「名前だけてww」




