12.「あ、教室の片付け忘れてた。」
<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ>
美織「……」
翼 「……」
綺都 (の、のびてる……。)
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「おい、神崎!広瀬翼!起きろ!!」
美織と翼の玉突き事故から約30分。
綺都は叩いたり蹴ったりして起こそうとするが二人が一向に起きる気配はない。
窓の外を見てみると日は落ちて薄暗くなり月が登り始めている。
「どーすればいいんだよ……。」
綺都はヘトヘトと座り込んで大きくため息を吐いた。
座り込んだその場から入り口付近に倒れているもうひとつの人影を見る。
先ほど綺都を奇襲してきた道着の少年だ。
乳様突起に回し蹴りをしたダメージが成長期の身体にとって大きすぎたのだろう、まだ気絶してびくとも動かない。
美織、翼、少年の中では彼が一番身体の締まりが良く筋肉質なのでもしも彼が意識を取り戻したらあのバカ二人を楽々運んでくれるかもしれない。
(どうにか起こせないものか……)
綺都は重い腰を持ち上げ少年の所へ歩く。
静寂な教室の中、カツ、カツと自分の上履きの擦る音がよく響くのがわかった。
少年のもとへくるとその場でしゃがんで彼の意識を確認する。
やはりまだ気絶しているようで二人同様起きる気配が全くといって皆無だ。
露骨にチッ、と舌打ちをした綺都は己の髪の毛を乱暴にガシガシと掻いた。
「おい、起きろ。起きてくれ。」
「……」
「いいのか?翼さんが額に大怪我しているぞ。」
「……」
やはりだめだ。
ことばでそそのいても普通起きるものはいない。
しかし今はもう何も術が思い浮かばないのだ。
綺都は藁にすがりつく思いでひたすら意識を失っている少年に語りかける。
「5時45分。もう部活も後半に入ったぞ。」
「……」
「いいのか?部長に怒られるぞ?」
「……」
「漢の名がすたってもいいのか?」
「それは困ります!!!!!」
「ぎゃーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
魂が宿った人形の様に突然勢いよく起き上がった少年を前に綺都は悲鳴を上げて後ずさる。
心臓が嘘みたいに速く鼓動を打っている。
「おまっ、い、い、いきな、り!!」
「失礼!気を失ってしまっていました……。」
そう言って少年は罰の悪そうに頭をうなだれる。
「と、とりあえず起きたならあの二人を運ぶのを手伝ってくれないか。」
綺都は重なっているオブジェのような二人を指さすとそれを見た少年は驚いたように目を見開いて綺都に顔を向けた。
「まさかあの二人、上杉少年がやったんですか?!」
「いや、まあなんか勝手に。」
「勝手に……!ぱねぇっす!!」
「あ、いや…ははは。ありがとう。」
適当に誤魔化して少年に笑って見せると少年は不思議そうに綺都を見て言った。
「でもなんで俺らを置いていかないんすか?俺たち上杉少年を拉致しようとしたんですよ?」
「そんな理由で親友と親友の大切な人間を見捨てるのは、おかしいと思うから……。」
「上杉少年……っ!!」
「神崎はこんなどうしようもないバカだけど、本当は誠実で奴で俺を変えてくれた人でもあるんだ。だからもしもここで二人を見捨てたら……。……いや、ごめん。綺麗事でまとめるのは違う気がする。怖いだけだ。もしここで裏切ったらいつか罰が来るかもしれないっていう自分を庇うだけの行動だよ。こんな木偶人形が人の優しさ考えられるわけないじゃないか。」
「……。」
「俺は今までの分、償いたいだけ。今まで人のために人生使ってきたらしい、から。自分のために、自分の意思で、自分が満足できるような誰かと楽しい生活送りたいだけ。」
自分で言ってて、実現出来てないことを実感すると悲しくなってくる。
押し黙ってしまった少年が気になって彼の方に顔を向けると彼は大きな瞳から滝のような涙を流していた。
「えっ……!?」
「う、上杉ざああああああああああああああああん"!!自分っ、感動したっす!!その仲間思いな器とっ、優しさっ!!っそしてあの強さっ!!うぇずぎざんばぁっ!ぜんぜん"ぉぐびょお"もの
"じやな"いっずずうっう!!!」
「お、おお……大丈夫か?」
「自分ぅをっ!!綺都ざん"の舎弟にじでぐだざぁぁい!!」
「はっ?舎弟!?バカか!?」
「じぶん本気っず!!」
「人を物みたいに扱えるわけないだろ!!」
「ヴォォオオオオオオオオオスキィィイイイイイイイ!!!!!」
良い年で泣きじゃくる少年の背中をさすってなだめながら綺都は時計の方に目を向けた。
ただいまの時刻は6時。門限まであと30分しかない。
(まずいな姉さんが心配するかもしれない…。)
「名前、聞いてもいいかな?」
「じぶんはっ、きりっ、き、きりが……」
「お、落ち着いてからで良いから。ごめん泣いてる時に。」
すると少年はふらついた足取りで黒板の所までいき白いチョークで文字を書き始める。
綺都は不思議に思いながら少年の端正な文字を一文字ずつ読んでいく。
桐ヶ谷梓馬
「あづま……」
随分と変わった名前だな、と綺都は文字を見て思った。
しゃくりが少しだけひいた梓馬はコクリと小さく頷いて白い歯を見せてはにかんだ。
こうして見ると健全で爽やかな少年だ。
そんな彼の顔を見た綺都はクスっと笑った。
「よろしく、桐ヶ谷。」
普段はこんな人懐こいような対応はしないが、もしもアイツならこうするんだろうなと思い浮かべると勝手に身体が動いていた。
綺都が手を差し出すと梓馬は腫れぼったい目で嬉しそうに笑って綺都の華奢な手を力強く掴んだ。
「いきなりこういうのもなんだが、この二人運ぶのを手伝ってくれないかな?」
綺都が申し訳なさそうに梓馬に尋ねると彼はにかっとほくそ笑み二人の方へと駆けていった。
そして彼よりも少し背の高い翼を軽々と左手で持ち上げると片方の右手で美織も持ち上げた。
「おお。」
まるで映画のワンシーンを見ているかのような気分で綺都がその光景を眺めているとその視線に気がついた梓馬が綺都の顔を見るなり「あっ。」という顔をして美織をその場に下ろした。
そして彼女を指さして綺都に対してどうぞ、というジェスチャーを送っている。
「えっ?俺が神崎運ぶの?」
「いや羨ましそうな顔をしていらっしゃったので…あれ?もしかして違ったすか?」
「はっ!?してないしてない断固しない!!!」
「青春すね綺都さん!」
「……これ、青春か?」
そう言って梓馬は高笑いしながら廊下へと出ていく。
薄暗く気味の悪い廊下の中、梓馬の笑い声が響いていた。




