第八十六話:第二幕、幕を下ろす
そして朝。
目を覚ましたウリエルの部屋には、なぜか旅団の三人が揃っていた。
魔人を消し飛ばし、拠点を壊滅させ、王都の誰一人傷つけず、山を真っ二つにした報告が早口で流れていく。
光柱が消えた後、夜空はすぐには暗くならなかった。
一筋の亀裂が天を横切り、雲を二つに割いた。
片方は焼けた白、もう片方は夜の帳。
遠くで真っ二つになった山がまだ煙を上げていた。
時折、岩石が冷えていく乾いた音が届いた。
まるで、山そのものが呻いているようだった。
セラフィーナが我に返ったとき、自分の手がまだ宙に上がっていた。
何かの技を真似しようとしているみたいに。
ゆっくりと手を引いて、掌を見下ろした。
掌紋の間に細かな灰塵と乾いた血の痕が入り込んでいたが、皮膚は無傷だった。
さっき石壁で擦りむいた傷さえ、もうとっくに塞がっていた。
涼しい風が正面から吹いてきた。
地下室のあの湿った匂いではなく、青草と泥土の匂いを含んだ夜風だった。
顔を上げた。
頭の上は夜空で、足元は砕けた石と瓦礫で、周囲は空き地だった。
今自分が立っている場所は、もとは道具小屋だったはずだ。
今は丸裸の柱が一本あるだけで、周囲の地面より数メートル高く突き出していた。
道具小屋は跡形もなく消え去っていた。数本あった古いエンジュの木も同様だ。
地面は何かで一拭きされたようだった。
石畳、土、地基の砕石、あの木々の根——全てが同じ高さに削り取られ、地表ごと数メートル消えていた。
王都第一高等学院は、もう存在していなかった。
以前の学院襲撃事件の後でさえ、大部分の建物が焼けただけで、大講堂あたりはまだ無事だった。
今は何もない。
学院の敷地が地表から完全に拭き取られ、整然とした基礎の切断面だけが残っていた。
切断面には基礎石材の紋様、排水管の断面、地下倉庫の隔壁の断口——全てが月光の下に晒されていた。
まるで建築の断面図のように鮮明に。
彼女は廃墟の縁に立ち、足元の滑らかな断面を見下ろして、長い間黙っていた。
さっきの光景が頭に浮かんだ。
魔女の剣技。
あの、極みまで緩やかでありながらどうあっても抗えない、不思議な速度感。
あの剣は、なぜあれほど遅く見えたのか。
そしてなぜ、どうやっても躱せなかったのか。
剣技への理解が、そもそも違う次元にある。
あの規模のエーテルは——本当に人間にできることなのか?
マナをあの域まで凝縮できるものなのか?
彼女は試しにもう一度マナを集めてみた。
目を閉じ、深く息を吸い、意識を体の内側に沈め、あの微かなマナの塊を探した。
核心から誘導し、経脈を伝って右腕へ流し、空気中のマナに呼びかけ、掌の前に集まるよう請う——
握り拳ほどの光の輪が浮かんだ。
半透明で、縁が不安定に揺らいでいて、明るさはろうそく一本ほどだった。
数秒間それを見つめて、それから手を下ろした。
背後から突然、足音が聞こえてきた。
革靴が砕石を踏む音がパキパキと鳴り響き、足取りは速く、明らかに全力で駆けていた。
セラフィーナは振り返らなかった。
その足音は嫌というほど知っていた。
子供の頃、追いかけっこをするたびにこの足音が聞こえた。
前にあることも後ろにあることもあった。
振り返らなくても、音だけで位置と距離が分かった。
後になって、この足音は遠くなっていった。
風に溶けるほどに遠く、王都の喧騒に紛れるほど遠く。
週に一度が月に一度になり、月に一度が半年に一度になった。
悪いことだったとは思わない。
ただ、この足音が聞こえる時だけは——どこか心待ちにしていて、逃げたいとは思わなかった。
「セラ!」
エステラの声だった。
いつもの、全てを掌握しているような落ち着いた冷静さは消えていた。
張り詰めて、急いて、わずかに震えていた。
近づいてきて、エステラが数メートル先の瓦礫の上に立ち止まった。
裸の柱とその上のセラフィーナを見上げた。
すぐに飛びついてくることはしなかった。
代わりに軽く跳び上がり、どうにかして、その極めて狭い空間に強引に割り込んできた。
セラフィーナの目に宿っていたハイライトが瞬時に消え去り、見事な「死魚眼」が発動した。
背後から荒い息遣いが伝わってきた。
懸命に抑えようとしても抑えきれない、激しい上下動を伴っていた。
それから風が動いた。
エステラが両腕を広げてがばりと抱き寄せてきた。
セラフィーナは二歩後ろに下がった。
片方の足の半分が柱の縁からはみ出した。
逃げたわけではない。
ただ、二歩下がっただけだ。
両手を上げ、従姉が回してきた腕を掴んだ。
指を手首に引っ掛け、はっきりとした意思で。
そのまま力を込めて、その手が完全に閉じないように、おかしなところに触れないように、でもその腕を自分から引き離しもしないように、押さえ続けた。
エステラはその場で固まった。
腕を宙に浮かせたまま、抱きしめているとも言えず離れているとも言えない、何とも言い難い姿勢で、セラフィーナの指に行く手を阻まれていた。
「セラ」
もう一度、今度はさっきより低い声で呼んだ。
何かを確かめるように。
「……ええ」
セラフィーナが応えた。
抑揚のない、棒読みの一言だった。
「大丈夫ですよ」
彼女は顔を上げ、一秒だけ目が合った。
それから手を離し、スカートの灰を軽く払い、柱から飛び降り、市街地の方向へ歩き出した。
二歩ほど歩いて止まり、横に顔を向けた。
「誘拐の件は戻ってから話しましょう。行きましょう」
エステラはその場に立ち、彼女の後ろ姿を見た。
振り返って、地面まで平らにされた学院の廃墟を見た。
遠くでまだ煙を上げている、二つになった山を見た。
最終的に何も聞かず、後を追った。
翌朝。
ウリエルは窓の外のうるさいさえずりで目を覚ました。
寝返りを打ち、枕に顔を埋めた。
鳥のさえずりは続いた。
もう一度寝返りを打ち、布団を頭の上まで引っ張った。
さえずりは布団を貫通して耳に入ってきた。
目を開けると、カーテンの隙間から明るい陽光が一筋差し込んでいた。
夜が明けていた。
昨夜も一度明るくなった気がした——窓の外が急に白くなって、夜明けかと思ったら、ちらりと見てまた寝返りを打って寝た覚えがある。
今思えば、夢だったか、あの時間帯にたまたま太陽が出てきたのかもしれない。
あくびをしながらベッドから体を起こし、寝癖でくしゃくしゃになった髪をかいて、スリッパを履き、窓際まで歩いてカーテンを引き開けた。
眩しくて目を細めた。
窓の外はいつもと変わらなかった。
通り、街灯、向かいの建物の屋根、遠くの山々の稜線。
……ただ、あの山の形が昨日と少し違う気がした。
でかい峡谷が増えていた。
しばらく眺めて、まだ寝ぼけているんだろうと判断し、カーテンを下ろしてバルコニーへ向かった。
用を足して戻ってきたとき、何かがおかしいと感じた。
辛うじてリビングと呼べるその空間に、すでに四人が立っていた。
ティアンが切り分けたフルーツの皿をローテーブルに運んでいた。
ルミナが窓辺に立ち、両手を前で重ね、背筋をやりの穂先のように伸ばしていた。
フェンリアがソファのひじ掛けに腰かけ、尻尾をぶんぶんと振り回していた。
キラがローテーブルの向こう側に立ち、胸にノートを抱えて、視線を落ち着きなく漂わせ、ときどきティアンの方を盗み見ていた。
彼が出てきた瞬間、四人が同時にこちらを向いた。
「書記官」「書記官」「ウリちゃん、起きたぁ」「起きたッス!」
ウリエルは目をこすっていた手を宙で止めた。
「……いつ来たんだ、みんな」
手を下ろしながら、ルミナを見た。
「夜が明ける前でございます」
ルミナが答えた。
ウリエルは口を開きかけ、一瞬詰まった。
ルミナの当然だという顔を見た。
ソファのひじ掛けに腰かけて、他人の部屋にいることを全く問題だと思っていないフェンリアの大らかな態度を見た。
最終的にため息をついて、ローテーブルのそばに歩み寄り、ティアンが差し出した温かい白湯を受け取り、一口飲んだ。
(まあ、うちの子たちだしな)
「報告してくれ」
ルミナが先に口を開いた。
「昨夜の行動についてですが、第一学院の地下拠点は完全に壊滅いたしました」
「呪縛教団中層拠点の責任者であり、騎士団に潜入していた教団構成員——カルガス・ビアホフの消滅を確認。魔人化した研究員は地上で私たち三人が連携して仕留めました。拠点内のその他の教団構成員は混乱に乗じて逃亡。旅団メンバーによる追跡を継続中です」
フェンリアがぱんと拳を手のひらに打ちつけた。
ローテーブルの上のカップがジャラッと音を立てた。
「あの一撃で怪物を跡形もなくぶっ飛ばしたッスよ! アタシたち三人、ホントに最高だったッス——全員で力を合わせてドッカーン!」
「ドッカーン」のところで、尻尾が毛を逆立てたようにビシッと真っ直ぐ立った。
耳もぴんと立った。
全身でソファのひじ掛けの上で一度跳ね、あやうく転げ落ちそうになった。
キラが前髪をかき上げた。喋るスピードは普段の少なくとも倍速になっており、その声には抑えきれない興奮が押し殺されていた。
「魔女様の昨夜の戦闘の方がもっと記録に値しますが、あの一撃は絶対に魔女様の仕業ですよね——ぐわぁぁぁッ何でアタシ現場にいなかったの!? あの西洋剣でタメてからの光柱とか絶対輝光級の力じゃん、いやいや輝光級どころじゃないでしょ勇者も魔王も目じゃないっていうかもう認知の外に出ちゃってる尊すぎ限界突破でしょ勇者でも魔王でもあの規模は無理なんじゃないですかもしかしたらもう認知の外に出てるんじゃないですか光柱の余波が夜空に一時間近く残ってたしあの精密な角度で王都の人口密集地を全部避けながら山を真っ二つにして平民に一人も被害を出さなかったってもう昼と夜が同時に現れるってこういうことで完全に神の御業じゃないですかこの制御力はもはや『強い』とかいう次元じゃなくてこれは完全に——」
自分の声が上擦ってきたことに気がついた。
指がいつの間にか握り締められて、興奮した小さな拳が二つできあがっていた。
慌てて口を閉じ、深呼吸して、手を下ろし、いつもの冷静な参謀の顔を取り戻した。
ただし、耳の先が真っ赤だった。
ウリエルはカップを持ったままキラのその怒涛の報告を最後まで聞いた。
早口すぎた。
しかしキーワードはいくつか拾えた。
手はガタガタと震えていたが、表面は凪のままで、水は一滴もこぼれなかった。
(よかった、王都には当たってない)
(ちょっと待て、光柱って何、昼と夜が同時に来るって何、山を割るって何)
昨夜の閃光が頭をよぎった。
もしかして、あれか。
深く考えるのをやめた。
心の中でそっと汗を拭い、顔だけは、必死に平静を装っていた。
それからティアンの方を見た。
ティアンはすでに果物の盛り合わせを並べ終えて、ローテーブルの傍らに立っていた。
両手をエプロンの前で重ね、温かで柔らかな微笑みを浮かべていた。
「男の娘ルームメイト」と呼ぶべきか、それとも「ボーイッシュな賢妻」と呼ぶべきか、一時本気で悩んでしまった。
「ま、母さん——じゃなくて、魔女の方は?」
ティアンは首をかしげた。
「セラフィーナちゃんを見つけて、悪い人を倒しましたっすよ。ウリちゃんが教えてくれた台詞も使いましたけど」
そして真剣な顔で付け加えた。
「あ、でも最後の一言、間違えちゃいましたかな。ウリちゃんが書いてくれたのは『I am Holy Sword Witch』だったんすけど、ママ、ついうっかり『I am the storm that is approaching』って言っちゃって」
ウリエルはちょうどティアンの白い頭をちらりと見た。
その瞬間、口に含んでいた白湯が盛大に噴き出した。
【第八十六話・終】
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