第八十三話:魔女、怒る
魔力が爆発した。
カルガスの足元の石板が衝撃波で丸ごと捲れ上がり、砕石が四方八方へ飛び散った。
彼は右拳を振り上げた。
ナックルが魔力の注入を受けて膨れ上がり、逆棘が一本一本逆立ち、全てを破壊する勢いで魔女へ叩きつけられた。
また一つの衝突。
今度は剣先だった。
魔女が西洋剣を水平に突き出し、剣先がカルガスのナックルの中央を突いた。
細い剣先が巨大な金属ナックルに当たる。
どう見ても剣が弾き飛ばされるか折れるはずだった。
だが弾き飛ばされたのはカルガスだった。
彼の拳の勁力が剣先に触れた瞬間、何かに吸い取られたかのように消え、深紅の魔力光がナックルから退き、続いて全身が後方へ吹き飛ばされ、背中が石壁に激突し、蜘蛛の巣状のひびを刻んだ。
魔女が剣を引き戻した。
剣先が斜めに地面を指した。
彼女のスカートの裾が最後に一度揺れ、静止した。
カルガスは壁にめり込んだ体を引き抜いた。
口角から一筋の血が滲んだ。
彼は向かいの女性を見つめ、頭の奥底から一つの荒唐な考えが浮かび上がった。
秘銀級の頂点に立つ自分を、全く手も足も出ない状態に追い込める。
普通の剣術をこれほど常識を外れた次元まで発揮できる。
彼の全力爆発の前で表情一つ変えない。
王都全体で、エステラを除けば、咄嗟に二人目が思い浮かばない。
「てめえの本当の正体は」
カルガスは手の甲で口角の血を力いっぱい拭い取った。
「一体、誰だ?」
魔女は固まった。
少し考えた。
ウリエルに教わっていた。こういうときはまず名乗るべきだと。
ちょっと考えて、ウリちゃんの書いた台詞をちゃんと覚えているか確認した。
それから彼女は目を上げた。
それまで無表情だった顔に、極めて薄い冷笑が浮かんだ。
「我らは魔女旅団。四方を行き、いかなる悪も、必ずや法の裁きを受けさせる」
一語一語がはっきりと、そして威風堂々と響き渡った。
その場の二人は、どちらもはっきりと聞こえた。
セラフィーナは「魔女旅団」と小声で繰り返した、名門令嬢として培ってきた深い見識でどの組織の名前か思い出そうとしたが、何も出てこなかった。
彼女の肩が微かに震えた。
さっきまで神秘的で計り知れないと思っていた人物が、口を開いた途端に、なぜか言いようのない恥ずかしさを漂わせている。
この台詞の中二レベルと、さっきこの人が見せた圧倒的な実力の間の落差が大きすぎて、どう処理すればいいか分からなかった。
カルガスにはこの台詞の文学的価値を鑑賞する気分はなかった。
彼は頭を下げてナックルを握った手を見た。
ナックルの金属表面に亀裂が走っていた。
自分の魔力を流しすぎてナックルの耐久限界を超えていた。
亀裂が指の関節から拳面へと広がっていった。
魔力はまだナックルに注ぎ込まれ続けていたが、ナックルはもう受け止められなかった。
彼は最後の理性の欠片も怒火の中に放り込んだ。
「魔女がどうとか知るか」
彼は腰のポーチから注射器を引き抜いた。
「俺様はまだ負けてねえ」
注射器。
筒が普通より一回り大きく、中の液体は暗く沈んだ深紫色で、薄暗い光の下で不吉な油光を放っていた。
セラフィーナの瞳孔が激しく収縮した。
あれを知っている。
あの薬剤。
管理員が自分に注射したものだ。
研究員もそれによってあの怪物に変わった。
「それは——」
彼女が壁の根元から勢いよく体を起こした。
声がそれまで保ってきた冷静な外皮を破り裂いた。
「彼が注射しようとしてるの、さっき私に使ったやつよ! 人を——あの怪物に変えるやつ! 止めないと!」
カルガスが注射器を自分の首の側面に突き刺した。
親指でピストンを押し込み、深紫の液体が極めて短い時間の内に全て注入された。
注射器が手から滑り落ち、地面で砕け散った。
来た——これだ。
骨が膨張し、筋肉が断裂しては繋ぎ直される、一息ごとに喉の奥から鉄錆の味がした。
彼の上半身が膨れ上がり始めた。
骨格と筋肉が同時に増殖する。
肩甲骨が外へ広がり、鎖骨が太くなり、胸筋と背筋が制服を引き裂いた。
皮膚の下に青黒い血管が這い回った。
腕が一回り太くなり、拳がナックルと同じ大きさになった。
金属のナックルが内側から押し広げられ、破片がチリチリと地面に落ちた。
だが下半身はほとんど変化がなかった。
太ももも脛も元のままで、腰から下の体型が上半身と荒唐な非対称を形成していた。
立ち上がると体がわずかに前傾し、重心がぐらついてから安定した。
だがこの歪な醜態は、誰も笑えなかった。
彼がただ軽く右腕を一振りしただけで。
拳風が壁を掠めた箇所が半メートル幅の穴を爆ぜ開け、砕石が走廊の反対側へ数十メートル吹き飛んだ。
もうナックルは要らない。
この拳そのものが最大の武器だ。
「最強……」
カルガスの声はもう人声でなかった。
喉の奥から湧き上がる獣性の低吼と混ざり合っていた。
「俺様が今この瞬間……最強だ——!」
「最強」という二文字が空気に落ちた瞬間、魔女の表情が変わった。
その瞬間、魔女の表情に初めて変化が現れた。
そこに浮かんだのは、純粋な不快感だった。
まるで目の前で誰かが、極めて不適切な、訂正が必要なことを言ったかのように。
最強。
その称号は彼のものであってはならない。
その称号はウリちゃんに捧げるべきものだ。
かけがえのない宝物。
彼女の世界そのもの。
この人生で最も誇れる、大切な子。
他の誰にも奪わせない。
カルガスが魔女へ突進した。
上半身が重すぎて姿勢は不格好になっていたが、速度は前より速かった。
重心を前傾させ、一歩ごとに石板を踏み砕き、砕石が足元で炸裂し、全身が発射された流れ星のように突き進んだ。
彼は右拳を振り上げた。
巨大な拳面の深紅の魔力光は濃すぎて黒みを帯び、一撃を叩き込むと、溢れる魔力が地下通路全体を崩壊寸前まで揺さぶった。
魔女は元の場所に立ち尽くしたまま、正面から迫る拳風に向かって手にした西洋剣を掲げた。剣身に魔力は一切乗っておらず、剣柄の魔晶も相変わらず静かな眠りについている。
彼女はただ剣を体の前に掲げ、剣先をカルガスの拳面に向け、それから前へ軽く一押しした。
「ドン」と一つ、濃い煙が滾々と立ち上がった。
もうもうたる煙塵が晴れると。
たった今まで天下無敵と豪語し「最強」を名乗っていた異形の怪物カルガスが。
まるで処刑を待つ囚人のように、屈辱的に膝をついて魔女の前に跪いていた。
両拳は体の横で砕けた石板に深く食い込み、腕は痙攣するように震えていた。
あの横暴な力が、頭を上げることすら許してくれないのだ。
聖剣の魔女は彼の前に立ち、剣を鞘に戻した。
剣を使う気もなくなった。
彼女は腕を上げた。
五指を揃え、掌をわずかに下向きにし、手刀を真っ直ぐカルガスの肩へ叩き落とした。
ドゴォン——!
地下走廊全体が半寸沈み込んだ。
カルガスの体が砕けた岩石の中に直接埋め込まれた。
全身の膨張した筋肉がこの一撃の前で張り子のように潰れた。
彼は魔人化の自己再生でなんとか体を起こし、一言吐いた。
「無駄無駄無駄。全然痛くねえ」
直後、回し蹴りが飛んできた。
胸の前に庇った両腕を蹴り折り、返しの一蹴りが腰の側面を捉え、彼の全身を数十メートル先の壁へ叩き込んだ。
魔女は追撃しなかった。
ただ元の場所に立ち、自分の手の甲を見ていた。
指の関節に少し埃がついていた。
彼女は眉をひそめ、スカートを見下ろし、ハンカチを取り出して手を拭き、スカートを軽く払った。
一粒の汚れも付けまいとするように。
それから歩き出した。
急ぐでも緩めるでもない歩調で、カルガスの方向へ向かった。
ヒールが砕けた石板の上で澄んだリズムを刻んだ。
彼女の眼底が燃えていた。
セラフィーナのことを思い出した。
あの子はウリちゃんの彼女だ。
ウリちゃんに優しくしてくれる。可愛らしいし、いい子だし。何より、ウリちゃんが好きな人は自分が守るべき人だ。
この男は、あの子を殴った。
一撃で地面を何度も転がらせ、壁に叩きつけて血を吐かせた。
それから騎士団のことを思い出した。
この男は騎士団の鎧を着ている。
ウリちゃんは騎士団に連行されて三日間尋問された。
固い椅子で寝て、味のないマッシュポテトを食べて、髪は油でべたべたになり、目の下に濃いクマができ、肩が石のように固まって押しても沈まないほどだった。
家に帰ったウリちゃんの肩を揉んでやったとき、指が震えるほど心が痛かった。
濡れ衣を着せることに荷担した。
尋問と拷問に荷担した。
たとえ直接関与していなくても、責任はある。
それに、最強を名乗った。
考えれば考えるほど、腹が立つ。
【第八十三話・終】




