第八十一話:神秘なる来訪者
神秘なる来訪者は、敵味方の区別なく、ただ空気ごと別世界に変えた。
数百メートル離れた地上で、キラも魔女も爆発音を聞いた。
キラが足を止めた。
前髪に隠されていない方の片眼が、爆発の方向を見つめた。
脳が高速回転を始めた。
騎士団は偽情報で別の場所に誘導したはずだ。
それなのに、なぜ戦闘が学院の方で起きている?
……つまり、別の部隊がいる。もしくは、教団にもう一つ別の拠点がある。
どちらにしても、フェンリアとルミナがあちら側にいる。
二人は強い。
だが、教団と、場合によっては騎士団まで巻き込んだ乱戦になれば、数で不利だ。
だから書記官は言った。
お前たち三人で行け、と。
キラは息を一つ吸い込んで、振り返り、魔女に向かって腰を折った。
「魔女様、私はルミナとフェンリアを支援しなければなりません。ここで失礼いたします」
魔女はうつむいて彼女を見た。
キラの耳はまだ赤かった。
前髪の下の眼差しは異常なほど輝いていたが、立ち姿と声音は必死に端正さを保っていた。
この子はさっきから道中ずっと手の甲に字を書いており、本人は気づかれていないつもりだったようだが、空中で指先を動かす仕草でとっくにバレていた。
魔女はそれを指摘しなかった。
何を書いているのかは分からなかったが、真面目にメモを取っているのだろうと思い、ただ目を細めて頷いた。
「気をつけてねぇ」
キラは体を起こし、もう一度お辞儀をしてから、爆発音の方角へ走り出し、街角の影に消えた。
魔女はその背中が消えるのを見送り、振り返って隣の路地へ入っていった。
路地は狭かった。
両側の壁は枯れた蔦に覆われ、頭上は二つの建物の間から覗く一筋の夜空だった。
魔女は路地の奥まで歩き、きちんと積み上げられた空木箱の横で足を止め、肩にかけた布包を一番上の箱の上に置いた。
指先で布包みの結び紐を解き。
中から、きれいに畳まれたスカートを取り出した。
黒と白が組み合わされた半袖のワンピース。
ウリエルから見れば、これも一種の軍装風コスプレ衣装だった。
サイズはウリエルが採寸したものだ。
大切な息子が用意してくれたプレゼント。
彼が机に向かい、うつむいてデザイン図を描いていたとき、時々手を止めてペンの端を噛みながら考え、それからまた描き始めた姿を、彼女は覚えていた。
あのスカートは布包に包まれてずっと持ち歩いていた。
そして今、ようやく着る時が来た。
魔女はスカートを手に取り、自分のズボンを見下ろした。
それから彼女の体が薄い光の膜に包まれた。
古い装束が光の粒となって散り、それから再び体の上に集まった。
聖剣魔女の衣装が身についた。
スカートは前回と少し違い、今回はウリエルが用意したものも着ていた。
続いて彼女は布包に手を伸ばし、西洋剣の柄を握った。
剣を抜いた。
納刀する際、澄んだ金属の響きが一つ鳴った。
それから彼女は剣の鞘を腰のベルトに掛けた。
全ての準備が整った。
スカートの裾がふくらはぎのあたりでふわりと揺れる。
彼女は頭を下げて自分を見て、満足そうに頷いた。
それから布包と脱いだ服をまとめ、虚空に手を伸ばして収納した。
そして右手を上げ、指先で空中を軽くなぞった。
空間が細い裂け目を開き、裂け目は一人が入れるほどの転送門に広がった。
魔女が中へ足を踏み入れると、転送門は彼女の背後で音もなく閉じ、路地は再び静寂に戻った。
この時、地下では。
セラフィーナにとって、もう退路はなかった。
説得の余地もなかった。
目の前のこの男は、どんな結果も気にしていなかった。
彼は利益のために彼女を殺すのでもなく、任務のために殺すのでもなく、ただ面白いから殺そうとしているだけだった。
セラフィーナは重心を落とすも、その足取りはおぼつかない。何度も血を抜かれた腕の針穴は鈍く痺れ、注射痕の周囲はどす黒い青紫に変色していた。
腹は空き、腕は疲れている。
この数日間、何度も血を抜かれた虚脱感。
そして相手は騎士団の功勲騎士、万全の状態で完全武装。
自分は素手。
それでも、彼女は構えを取った。
カルガスが動いた。
彼女に向かって手招きした。
先手を譲ったのだ。
彼女が動かないのを見ると、自分の騎士剣を抜いて投げ渡した。
セラフィーナは剣を受け取り、中段の構えを取ってから、矢のように前へ踏み込んで突いた。
極めて素朴な技だった。
カルガスは彼女の突きを受けるままにした。
剣先は肌の表面で止まった。
見えない鎧にぶつかったかのようだった。
セラフィーナが後退しようとした瞬間、カルガスが動いた。
溜めの予備動作もなく、最も単純な正面からの直拳。
同じく素朴で飾り気がないが、精密で致命的だった。
セラフィーナの瞳孔はその拳を捉えた。
だが、体がついていかなかった。
腹部に鈍い衝撃。
竜の尻尾に薙ぎ払われたような威力。
体が後方へ何歩分も吹き飛ばされ、地面を何度も転がり、背中が石壁に激突した。
肺の中の空気が全て押し出され、窒息感に襲われた。
彼女は壁の根元に倒れ込んだ。
耳の中でブーンという音が鳴り、口の中は鉄錆びの味でいっぱいだった。
手足が言うことを聞かず、視界の端が黒くなっていく。
石壁の冷たさが背中から骨へと染み込んだ。
地下走廊に埃が舞った。
彼女は咳を一つした。
喉の奥で熱い波が逆流し、暗赤色の血が、肌に生々しい痕を残した。
内出血。
彼女はほぼ即座に判断を下した。
肋骨も恐らく折れている。
呼吸をすると、胸の右側の一箇所が特に鋭く痛んだ。
息を吸うたびに、小刀で削られているような感覚。
指が石板の上で一度掴もうとしたが、関節が白くなり、腕に力が入らず、体を起こせなかった。
死ぬ。
カルガスがゆっくりと歩いてきた。
彼はセラフィーナを見下ろした。
表情は、子供が蟻の巣の前にしゃがんで木の枝で蟻を弄ぶときの集中した顔だった。
「一発でこれか」
彼の表情は最初の愉悦が少し減っていた。
セラフィーナの二歩手前で立ち止まった。
「正直、拍子抜けだぜ。てめえの従姉なら、この一撃を食らっても眉一つ動かさねェだろうよ。てめえら、本当に同じ血統なのかァ?」
セラフィーナは答えなかった。
全ての意志力を使って呼吸のリズムをコントロールしていた。
浅く吸い、ゆっくり吐く。
胸の上下動を最小限にする。
口の中の血沫を吐き出す勇気もなかった。
一口吐けば大量に出てしまいそうだった。
カルガスは首を傾けて彼女を見た。
何かを待っているようだった。
しばらく待ったが、彼女が応える気配がないと分かると、つまらなそうに肩を竦めた。
止めを刺す必要もない。
ここに放置しておけば、じきに内出血で死ぬ。
誘拐された伯爵家の令嬢が、教団の廃棄拠点の地下走廊で死んだ。
そんな事件、ニュースの見出しにもならない。
彼は振り返って立ち去ろうとした。
それから、足音を聞いた。
方向を注意深く聞くと、頭上からだった。
天井から靴底が石面を叩く音が響いた。
コツ、コツ、コツ。
一歩一歩が明瞭で乾いた音。
リズムは均一で、メトロノームのようだった。
カルガスは勢いよく顔を上げた。
セラフィーナも聞こえた。
そして、失血のせいで幻覚を見ているのではないかと疑った。
足音が天井の上を一歩ずつ歩いてくる。
闇の中、突然翠緑色の光が輝いた。
春の新緑のような透明感のある翠緑の光芒が、走廊の奥の闇から浮かび上がり、瞬く間に拳大の光球に凝縮され、それから猛然とセラフィーナに向かって飛んできた。
速すぎてカルガスも反応できなかった。
セラフィーナに至っては、避ける暇もなく、避ける体力もなかった。
あの緑の光は直接彼女の胸に飛び込んだ。
温かい感触が衝突点から全身へ広がっていった。
腹部の鈍痛が消え始めた。
胸の刀で削られるような痛みが一層ずつ軽くなり、呼吸が楽になり、口角から血が滲むこともなくなった。
痛みが癒されている。
それだけではない。
この数日間、何度も血を抜かれて骨髄まで染み込んだ虚脱感。
腕が上がらず、立ち続ければめまいがして、指先がいつも冷たかった。
それらも消えていった。
治癒術を見たことがないわけではないが、この速度と効果は、彼女の見聞を遥かに超えていた。
これは「生命の灌注」だ。
「どこのどいつだ! コソコソしやがって! 出てきやがれ!」
カルガスが吼えた。
声が狭い走廊で何度も跳ね返り、松明の炎まで揺れた。
人影が闇の中から歩いてきた。
逆さまに。
靴底が天井に貼り付いているのに、スカートの裾は翻らず、脚の側面に沿った弧を保ち続け、重力の基本法則に逆らっていた。
彼女は天井の影から完全に姿を現した。
一歩一歩、しっかりと踏みしめていた。
走廊の真ん中の真上に来たとき、彼女は足を止めた。
もしウリエルがこの場にいたなら、「また何かヤバい設定盛ってやがる!」とその場で卒倒していただろう。
また何か変なことをしている。
彼女は体を翻した。
ほとんど溜めもなく、空中で半円を描くように一回転し、スカートの裾がようやく重力に従って落ち、髪も肩に戻った。
着地の音は、本がクッションに落ちたように軽かった。
立ち止まった。
スカートの裾が最後に一度揺れ、完全に静止した。
彼女は顔を上げた。
銀髪が薄暗い地下走廊の中で自ら発光しているようだった。
一筋一筋の髪が月光のような光沢を放っていた。
眼底には一片の優しさもなく、瞳は純粋で、温度も、揺らぎも、殺意すらなかった。
殺気には感情が必要だからだ。
今のこの顔には何の感情も必要ない。
顔全体が、人間離れした無機質な冷たさを帯びていた。
セラフィーナは体をずらして座り直し、天井から降りてきた女性を見上げ、唇を動かした。
「あなたは誰」と言おうとしたが、喉がまだ先ほどの負傷から完全には回復しておらず、か弱い音節しか出なかった。
カルガスの顔の笑みは消えなかった。
呆然として笑顔を引っ込めるのを忘れたからだ。
殺気を感じなかった。
だが、まさにそれゆえに、首の後ろの産毛が全て逆立った。
彼は冒険者ギルドの戦場で山銅級の達人を見たことがある。
竜種も見た。
暴走した古代の遺物も見た。
だが、天井を逆さまに歩いてくる人間は見たことがなかった。
面白い。
この人物は魔力を隠していない。
魔力はそこにある。
強くもなく、弱くもない。
まるで魔力という概念そのものへの丁寧な通知のようだった——私はここにいる、だが量で私を測るのは無意味だ。
この時、彼女が口を開いた。
「我こそは、聖剣の魔女」
彼女はわずかに顎を上げ、右手で西洋剣の柄を握り、ゆっくりと剣を抜いた。
剣先が空中に銀色の弧を描き、最終的に地面を指した。
動作は流れるように滑らかで、スローモーションで再生された流水のようだった。
走廊の松明は全て静かに燃え続け、何の異変もなかった。
だがセラフィーナは感じた。
この地下空間の全ての空気が、彼女が口を開いた瞬間に凝固したのだ。
【第八十一話・終】
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