第六十九話・セラフィーナの近況(下)
伯爵令嬢は囚われの身でありながら、牢獄の空気を完全に掌握していた。これは拉致監禁事件ではない──これは、セラフィーナによる静かなる職場改善運動である。
二日目は一日目より少し改善された。
採血は朝晩一回ずつになった。
研究員は採血の前に「気分はどうか」と一言聞くようになった。
声の調子は相変わらず事務的だったが、それでも質問をするようにはなった。
ガーゼを押さえる助手も、毎回少し長く押さえるようになった。
手つきもだんだん丁寧になっていった。
肩を押さえる待遇もなくなった。
今は座った状態で採血されていた。
押さえる役だった男が、力のない手で肩に触れるだけになった。
ほとんど添えているだけで、押さえているとは言えなかった。
三日目には、その手さえなくなった。
採血のたびに立ち上がると、目の前が一瞬暗くなった。
足元が綿の上を歩いているように頼りなかった。
それでもセラフィーナは落ち着いた様子を保っていた。
自分で袖を捲り上げて、腕を差し出した。
拳を握って血管を目立たせた。
動作は流れるように自然で、学院の保健室で定期健診を受けているようにしか見えなかった。
暇なとき、当直の看守が話しかけてくるようになっていた。
最初は「おとなしいな」という程度の感想だった。
セラフィーナは話題を引き取って、今日の天気はどうか、地下牢の外はどのあたりか、一日何交代で回しているかを聞いた。
礼儀正しい学生の口調で、社会科見学の感想でも述べるように。
そのうち、話が広がっていった。
「私を誘拐したのに、金目当てでも体目当てでもないとなると」
セラフィーナは毛布の上に胡座をかいて、鉄格子越しに看守と向き合い、指を折って数えた。
「目的は三つ考えられます。身代金、人質交換、または私自身を使うこと——身分か、あるいは何らかの能力か、どちらかです」
看守が黙って聞いていた。
「身代金なら、私の家は資産家ではあっても最上位ではないので、費用対効果があまり良くない。人質交換なら、今頃救助要請のための手紙か映像を撮らせているはずです」
三本目の指を立てた。
「残るのは三番目です。これだけ熱心に血を集めているなら、ほぼ間違いなくそれが目的でしょう。研究か、あるいは特定の人物の血を必要とする何らかの儀式か」
看守の顔から一切の余裕が消え去り、見事に表情が崩壊した。
「な、なんで——」
「基本的な推理です」
セラフィーナは三本の指を戻して、膝の上で手を重ねた。
姿勢は整っていた。
「ついでに確認させてください。口封じはありますか?」
看守はしばらく何も言えなかった。
「……聞いてきます」
本当に聞きに行った。
戻ってきたとき、「上は口封じしないと言っている」という一言を持ってきた。
セラフィーナは頷いた。
予想通りの答えを確認したような顔だった。
そこから、要求の段階に入った。
「口封じがないなら、鎖を外してもらえますか?」
右手を上げた。
鎖がじゃらじゃらと鳴った。
「動きにくいので」
「……聞いてきます」
その日の午後、鎖が外れた。
ただし巡回が増えた。
廊下の両端に見張りが一人ずつ追加されて、こちらを見る頻度が明らかに上がった。
セラフィーナはそれに対して何の不満も示さなかった。
自然に立ち上がって、牢の中を歩き始めた。
固まっていた肩と手首をゆっくりほぐした。
鎖が外れた恩恵は即座に現れた。
隅の桶の問題が解決した。
ただし以前のやり方では、用を足すたびに若い看守が桶を取りに来ていた。
その看守は毎回、顔を赤くして目を逸らし、人生最大の屈辱を受けたかのような顔をしていた。
翌日、セラフィーナは新しい要求を出した。
「外のお手洗いを使わせてもらえますか。お互いに手間が省けますし、私もこの匂いを気にしなくて済みます。全員にとって都合がいいと思います」
担当者が呼ばれた。
長い沈黙があった。
「専属の護送。目隠し着用」
セラフィーナには一日二回の外出許可が与えられた。
目隠しをされた状態で、どこかにある簡素なお手洗いまで護送される形だった。
それでも壁の外を歩けた。
それだけで十分だった。
三度目の外出から戻る途中、廊下の曲がり角を通ったとき、かさかさという音が聞こえた。
目隠しはまだ外れていなかった。
音の方向に顔を向けて、耳を澄ませた。
カードをめくる音。
押し殺した言い合いの声。
金属の硬貨が触れ合う音。
見張りたちが賭けカードをやっていた。
(これは使える)
セラフィーナは足を止めた。
護送の看守が腕を引いた。
「あの」
音の聞こえてくる方向に向かって、落ち着いた、しかしよく通る声で言った。
「一人足りていないですか? 参加を希望したいのですが」
廊下の向こうのカードの音が止まった。
しばらく間があって、太い声が遠慮がちに返ってきた。
「……できるのか?」
「少しなら」
目隠しの下で、セラフィーナは標準的な社交の微笑みを浮かべた。
「祖父に付き合って何度かやったことがあります」
その夜、セラフィーナは牢の端に腰を下ろして、鉄格子越しに六枚の手札を前に置いていた。
外に見張りが三人、青ざめた顔で向かい合っていた。
五連勝だった。
「では、もう一局いかがですか?」
勝ち取った銀貨を几帳面に積み重ねながら、温和な優等生の口調で言った。
三人の見張りは顔を見合わせた。
一人が手札をテーブルに叩きつけた。
「……お前、誘拐されてる自覚あるか?」
【第六十九話・終】
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