第五十九話:別れ話、早送り
別れ話は、まだ始まったばかり。
けれど、終わり方もまた、彼女の掌の上にあるらしい。
ウリエルは気が休まらないまま、二日間を過ごした。
具体的に言うと、課外授業があるたびにセラフィーナに声をかけられ、組まされた。
格闘の授業では護具を抱えて現れる。
剣術の授業では木剣を二本提げてやってくる。
魔法の授業では水を二杯持って待っている。
食事の時間も同じだった。
食堂でお盆を持ってようやく席に着いたと思えば、セラフィーナがどこからともなく現れる。
例の階級差を可視化する豪華なお盆を持ち、女友達を連れ、上品な小皿を何枚か従えて、静かに隣に座る。
まるで女幽霊だ。
ティアンは隣で黙々とご飯をかき込みながら、眼差しは相変わらず優しい目をしていた。
お嫁さん候補への満足度は着実に上昇を続けている。
二人の友人は、最初の羨望・嫉妬・憎悪の三重奏から、すでに無感覚の境地へと進化していた。
レオによれば、今やウリエルは全校の公敵であり、悪友として連座した自分たちへの女子からの視線も完全に変わったらしい。
まるで謎の組織と繋がりでもあるかのような目で見られているとのことだった。
カイはもっと直接的だった。
「俺たちにも彼女を二人ほど配給してくれ」
一番厄介なのは、セラフィーナの態度だった。
べたべたしない。
甘えない。
甘い言葉も一切ない。
でも、ずっとそこにいる。
毎日決まった時間に現れ、決まった時間に去っていく。
初日とまったく同じ距離感を保ったまま。
礼儀正しく、気遣いがあり、踏み込まない。でも引かない。
ミリ単位で調整されたこの社交距離のせいで、ウリエルは断り口上を差し込む隙が見つからなかった。
「もうついてこないでください」と言おうにも、相手はただ普通に授業で組んでいるだけだ。
そんなことを言ったら、むしろ自意識過剰に見える。
「別れましょう」と言おうにも、セラフィーナはそもそも何も「した」わけではない。
初日の終わりに、ウリエルは直接話をつけようと彼女の教室の前まで行った。
でも、扉の前で足が止まった。
踏み込みすぎだ。
もし彼女が本当にただ普通に接しているだけなら、自分から切り出せば、かえって藪蛇になるだけだ。
二日目は魔法の授業が一コマだけで、終わった後に魔力の塑形技術についてしばらく話した。
内容は完全に学術的な話で、用意していた遠回しな探りは一度も使えなかった。
宿に戻ってから天井を見上げて半夜考えた。
言葉を何度も組み替えた。
直接すぎてもいけない。遠回しすぎてもいけない。
相手に先に隙を見せさせて、自分の退路は確保しておく。
三日目。
魔法の授業がまだ終わらないうちに、先にセラフィーナが口を開いた。
「ウリエルさん、少しよろしいですか。外で休みましょう」
いつもと変わらない口調だった。
でもタイミングが絶妙すぎた。
ちょうど自由練習の時間で、学生たちが三々五々集まって塑形術の練習をしていた。
教室の中はざわついていて、誰もこちらに注意を払っていない。
ウリエルは魔法道具を置き、彼女についていった。
訓練場の外、木陰のベンチのそばまで歩いた。
頭上の広葉樹を風が通り抜け、葉っぱがざわざわと裏返っていく。
セラフィーナが振り返った。
静かな目がこちらを向いた。
いつもの礼儀正しい笑みはなかった。
もっと素のような、飾り気のない表情だった。
「ウリエルさんは、なぜ私と似たようなやり方をしているんですか」
彼が言い逃れをする隙も与えず、少女の赤い唇が開き、彼を完全に詰ませる一言を放った。
「あれは、ウリエルさん本来のスタイルではないでしょう」
背中が、冷たい汗でじっとりと濡れた。
(どういう意味だ。見抜かれた? 俺が演じていることを見抜いた? いつから? 格闘の授業で肘打ちをあわや本気で出しそうになったあの瞬間か? 魔法の授業で思わず使ってしまった、少し精度が高すぎた基礎塑形か?)
思考だけが猛烈な勢いで走る。
顔は死ぬ気で平静を保った。
セラフィーナは返答を待たなかった。
両手を前で重ね、姿勢は端正で、語り口は礼儀正しく一点の隙もなかった。
一言一言が、正確に急所を突いてきた。
「私に合わせてそうしているなら、自然な距離感が崩れます。私に合わせて力を隠す必要はありません」
少し首を傾けた。
浅い茶色の髪が肩から滑り落ちた。
「それに、少し面倒に感じますし」
ウリエルはベンチに座ったまま、膝の上で手を組んでいた。
頭の中で複数の思考が同時に走る。
怒ってる?
いや、口調に怒気はない。
じゃあ、本当に面倒だと思っているのか。「合わせる」――つまり、彼女は、俺が彼女に合わせてわざと弱ぶっていると勘違いしているのだ。
母さんの方は考えてない。純粋に「なぜ一緒に演じるのか」だ。
ウリエルの頭脳戦は、この瞬間、ついにピークに達した。
なら、話は早い。
(弱く見せていた目的を、別の何かに見せかければいい)
何に?
幼稚だが、筋は通っている。
言ったら恥ずかしいが、無害な動機。
瞬きする間に全てを組み立てた。
そして顔を上げた。
見透かされた後の、観念した人間の口調で、口を開いた。
「俺の隠していたことを、もう全部読まれていますか」
声を少し低く落とした。
語尾をわずかに伸ばし、観念した空気を演出した。
「ただの『能ある鷹は爪を隠す』アピールだったんですよ。急に実力を解放すれば、大いにドヤ顔できるじゃないですか。学院には貴族の嫌がらせが多いと聞いていたので。でも、あなたに見抜かれてしまったなら、もうその手は使えない」
一拍置いた。
覚悟を決めて、極めて真剣な口調で告げた。
「というわけで、別れましょう」
セラフィーナの表情はまだ微笑んでいた。
しかし睫毛が、かすかに揺れた。
瞬きのリズムが、半拍だけ遅くなった。
すぐには返事をしなかった。
唇がわずかに結ばれて、頭が極めて微細な角度で傾いた。
その表情は見たことがなかった。
怒っているわけでも、悲しいわけでもなさそうで、どちらかといえば「まったく想定外の言葉を処理しています」という顔だった。
ウリエルは彼女が黙っているのを見て、急いでフォローを重ねた。
両手を重ねてあごに当て、少し頭を低くして、その姿勢で顔の下半分を手の甲で隠した。
指の隙間の上から目線だけを送りながら、頭の中の独り言は一言だった。
(俺は一体何をトチ狂ったこと言ってんだ。マジで帰りたい。ママに会いたい)
でも口は止まらなかった。
「ほら、この学院で一番よくある話って、貴族から絡まれることじゃないですか。最初はただの猪を装う虎ですよ。そのほうが映えるかなと思って。でもあなたに見抜かれた以上、もう使えない。同じように隠しているらしい人の隣にいたら、どう見てもおかしいですし」
手を下ろした。
真剣な顔を作ろうとした。
「以上が、全部の理由です」
セラフィーナはしばらく黙った。
想定していたような、形勢逆転の怒涛の反論は来なかった。
立ち上がって去っていくこともなかった。
代わりに彼女は、ベンチにそっと腰を下ろした。
ウリエルと並んで。
近すぎず遠すぎず、運動着の袖が袖にかすかに触れるくらいの距離。
少し首を傾けて、彼を見た。
木の葉の隙間から差し込んだ光の斑点が、灰色の瞳に映っていた。
「そうですか」
声のトーンが、いつもと少し変わっていた。
あのあの正確すぎる礼儀正しさが少し薄れて、代わりに、ごく薄い何か別の感情が滲み出していた。
「分かりました。あなたが私に告白したのは、私のことが好きだからではないんですね」
それから彼女の視線が、ウリエルの肩越しに、少しずれた。
訓練場の窓の方を見た。
自由練習を続けている学生たちの中に、銀色の短い髪の細い人影があった。
うつむいて、掌の上に魔力の光球を静かに集めていた。
セラフィーナは視線を戻した。
ウリエルを見た。
「あなたの近くにいる方のためですよね」
ウリエルの表情が、固まった。
心臓を無数の矢で射抜かれたような感覚だった。
膝の上の指が、無意識に握り締められた。
(何だと)
この女は、俺が実力を隠していることだけでなく、ティアンの正体まで読んでいるのか。
何を見落とした。
「あなたの近くにいる方のため」——これは軽い疑問符ではない。
これは断定だ。
彼女の目線が今さっきあちらに向いた一瞬。
その眼差し。
その語り口。
全部を繋げると、頭の中に寒気のする絵が浮かんだ。
ティアンが普通の学生ではないと、この女は知っている。
二人の間の関係が単純ではないと、知っている。
いつから。
初日からか。
それともティアンが学院長について忠告しに行った、あの日からか。
(落ち着け。冷静に考えろ)
もし全部知っているなら、こんな遠回しな言い方はしない。
試しているのか。それとも——
ウリエルの喉が動き、膝の上の指が握り締められては、また開かれた。
彼女は一体どこまで知っている?ティアンの身分か?魔女のことか?それとも旅団や教団のことまで――いや、違う。落ち着け。
彼女の表情は静かなままだった。
尋問のような鋭さもない。
看破した者の得意げな色もない。
ただ静かに、彼の返事を待っていた。
姿勢は端正で、克己的で、まるで届くかわからない手紙を待つかのような、静かな強さをたたえていた。
【第五十九話・終】
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