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第五話:肉塊を綺麗に洗ったら少女になりました

男のロマンを追求するはずが、とんでもないものを引き当ててしまった。

「魔剣」を片手に勇躍した八歳のウリエルを待っていたのは、胸躍る宝箱でも、美しいエルフの姫君でもなかった。

そこにあったのは、強烈な腐臭を放つ「名伏しがたい肉の塊」だった。

異世界ファンタジーの洗礼はあまりにも生々しく、彼の平和な「ぬくぬくマザコンライフ」に、ちょっとした衝撃を与えたのである。

荷馬車が山道に横転していた。

車輪が天を向いて、まだゆっくりと回り続けている。

布切れと、何か黒っぽいものが車輪のスポークに絡みついて、風に揺れていた。


荷物は辺り一面に散乱していた。

大半はもう原形をとどめていない。端切れだけが残って、縁が黒ずみ、内側に巻き込まれていた。

まるで何かに内側から齧り取られたような形だった。


空気に、匂いがあった。

長い間封じられていた地下貯蔵庫の蓋を、誰かがいきなり開けたような匂いだった。


ウリエルは本能的に一歩後ずさった。


そして、そのものを見た。


荷馬車のそばにあったのは、一塊の——散々考えた末に、これ以上正確な言葉が見つからないのでそのまま表現するが——『腐肉の塊』だった。


表面の皮膚は灰紫色で、何かに内側から腐食されたような様子だった。

縁から液体が滲み出して地面に広がり、草が枯れ、土が黒くなり、隣の石の隙間にまで細い黒い筋が這い出していた。


ウリエルは【観測者】でその方向の空間を探った。

黒く、腐った、粘度の高い泥の中に指を突っ込んだような感覚が返ってきた。

呪力の気配が波のように押し寄せた。


本能が頭の中で叫んだ。


逃げろ。


彼は向きを変えて、全力で走り出した。

「魔剣」は途中に落としていった。

拾いに戻る余裕はなかった。


一気に走って家まで帰り、庭の入り口でもう少しで木桶を蹴り倒しそうになりながら、玄関に飛び込んで、叫んだ。


「ママ——!」


ガラティーナが台所から出てきた。

手にはまだネギが一束あった。

息を切らし、土気色になったウリエルの顔を、彼女はまじまじと見下ろした。


それから視線が下に動いた。


「……ウリちゃん」


彼女は穏やかに言った。


「ズボンの裾、泥がついてるわよぉ」

「ママ、裾は今関係なくて——」

「お外に出る時、汚さないでねぇって、ママ言ったよねぇ?」


(だから!そこじゃないってば!!)


込み上げてきたツッコミを喉の奥に押し込んで、息を整えた。


「林の中に何かいる!変な、気持ち悪い見た目のやつ。商隊が襲われて、人が全員いなくなってて、灰紫色で、動いてて、すごく危険な感じがした」


そう聞き終えるなり、手にしたネギを入り口の籠へ無造作に置き、エプロンで手を拭ってウリエルの顔を覗き込んだ。


「お怪我はないかしらぁ?」


「してない」


彼女はしゃがみ込み、両手でウリエルの顔を包み込んでじっくりと見回し、手を裏返させて異常がないか確かめ、さらにズボンの裾をめくって膝まで念入りに調べ上げた。


——異常なし。


立ち上がって、ゆっくりと息を吐いた。


「ママにそこ、案内してくれるぅ?」




着替えなかった。

武器も持たなかった。

草編みのサンダルのまま、山道に向かって歩き出した。


ウリエルは隣を歩きながら、思わず横目で彼女を見た。


……このまま行くの?


頭の中で一瞬浮かんだ。

何か持ってくるよう言った方がいいか?武器とか、防具とか、せめて走れる靴とか?


そこで彼女のエーテルの深さを思い出した。


——あ、まあ、ママだし、大丈夫か。


道中、彼女は何も聞かなかった。

そのものの大きさも、商隊の規模も、呪力の出所も。

何一つ。


いつも街で買い物に出るときと大差ない速度で、手を後ろで組んで、ときどき足元に目を落とす。

もう少しでウリエルを腕に抱いてしまいそうな雰囲気さえある。


山道に風が吹いて、洗い込んだスカートの裾を後ろへなびかせた。


ウリエルはその横顔を盗み見た。


穏やか。

柔らか。

毎朝食卓の向かいで彼が起きてくるのを待っているときと同じ顔だった。


もっと正確に言えば——大根を抜きに行くような顔だった。


林の縁まで来ると、それはまだそこにあった。


ウリエルは足を止めて、前方を指した。


「あれ」


「うん」


ガラティーナは少し首を傾けて、前方の腐肉構成体を眺めた。

表情に、何もなかった。

水桶に落ちた虫を見るときのような、本当に何の波もない顔だった。


そして——ウリエルが凍りついている目の前で——彼女はまっすぐそちらへ歩いていった。


枯れた草を踏んで。

滲み出した黒い液体を踏んで。

そのものの正面に立って、上から下まで見下ろした。


気配を察知したそれが、蠕動を速めた。

ぐちゅぐちゅという音が激しくなり、灰紫色の縁から液体が急速に滲み出して、彼女の足元へ流れた。


ウリエルは五歩後ろで、息を止めた。


彼女はしゃがみ込んだ。

首を傾けて、しばらくそれを眺めた。

何かを確認しているような目だった。


それから、手を伸ばした。

五本の指をまとめて——


つまんだ。


買い物袋をつまむような、ごく自然な力加減で。


【観測者】で見ればとめどなく滾る呪力が渦巻き、周辺の石まで染め上げていたそれが、片手でひょいと持ち上げられた。


宙吊りになったそれは、じゅくじゅくと黒い液体を滴らせながらもがき続けた。

落ちた液体が地面を汚し、草を枯らし、石を黒く染め続けた。


彼女はそれを提げたまま立ち上がって、振り返った。

腐肉がその手の中で激しく暴れた。

腐った肉が激しく揺れ、黒い液体が四方に飛び散り、形容しがたい悲鳴のような音が響いた。


「さ、お家に帰ろうかぁ」


彼女はウリエルを一瞥して、芋を一袋買ってきたときと同じ声で言った。


ウリエルは口をぱくぱくと三回ほど動かしたが、声は一切出なかった。


(ちょっとママ、それスライムじゃないんだけど!? なんで提げてんの……)


彼女はもう歩き出していた。

サンダル履きの足取りで、そのものを提げて、家に向かって、スカートの裾がまた風になびいた。


ウリエルはその後ろをついていった。




物置は庭の隅にある低い離れで、農具と冬の蓄えが積んであった。

板壁の隙間から細い光の柱が差し込んでいた。


ウリエルは奥の空き樽を隅に寄せて、だいたい一畳ほどのスペースを作った。

ママがこの場所で何をするつもりなのかは、まだわからなかった。

でも樽を運ぶあいだ、頭の中では何かが高速で回転し続けていた。


ガラティーナがそれを持って物置に入ってきたとき、ウリエルは自分から扉口に立った。


見たかった。

未知のものに対する、ほとんど貪欲と呼べるくらいの知りたさが、彼の本能にあった。

でもこういう状況でママには空間が必要だとわかっていた。

扉口なら全部見えるし、邪魔にもならない。


彼女はそのものの前にしゃがんだ。


予備動作は、なかった。

何もなかった。


ただ手を伸ばして、五本の指を開いて、掌を下に向けて——


腐り、蠕動し、まだ黒い液体を滲ませ続けているその肉塊の上に、静かに手を置いた。


ウリエルはそれを見た瞬間、表情を制御できなかった。

焼けた鉄鍋に素手を入れるような、あるいはもっとひどい何かのような——


最初の三秒、何も起きなかった。

物置の中はひっそりとして、板の隙間から入ってくる風の音と、肉塊の低く歪んだ、苦しげな音だけがあった。


そして、光が現れた。


掌から。

さっきまでテーブルを拭いていたその掌から、直接滲み出してきた。

魔法陣もない。ルーンもない。儀式の類も一切ない。


ただ純白の光だった。

春の最初の朝日が薄霧を透かしてくるような、そういう光だった。


光が腐肉に触れた瞬間、それが激しく震えた。

引き裂かれるような音と、縫い合わされるような音が同時に鳴り響いた。

小さな物置の空気全体が、その音に引き裂かれた。


あの深く粘りつくような黒い液体が、純白の光の中でじわりじわりと黒から灰へ、そして徐々に色が抜け落ち、最後に音もなく消えた。


腐肉が縮んでいた。

蠕動する腐った血肉が、退いていた。

冬の積雪が春の日差しに照らされるような——そういう穏やかさで、一層ずつ内側に向かって剥がれ落ちていった。


ウリエルは扉の縁に手をかけて、息も止めて、その一部始終を見ていた。


ママがやることは何度も見てきた。

熱を下げてくれたときも。

嵐の夜に屋根を守ってくれたときも。

転んで指を切ったときに血を止めてくれたときも。


でも、これは違った。


言葉が見つからなかった。

この世界の常識の中に、比べるものがなかった。


最終的に彼が出した結論はこうだ。


——これは、「呪い」そのものへの、清潔で完全な否定だ。


腐肉の後退が続いていた。

速度が上がっていた。

暗い輪郭がどんどん小さく、薄く、何か正常な人の形に近いものへと変わっていって——


最後の一層が消えた瞬間、純白の光がきゅっと収まった。

張り詰めた弦が突然緩んだような感触だった。


ガラティーナは手を引いた。

掌は、きれいだった。

塵ひとつついていなかった。


板張りの床の上に、小さな人影が丸まって落ちていた。

肌、手首、前腕、鎖骨、頬——

じわじわと、その白い光の中から、現れてきた。


ウリエルは扉口に立って、この一部始終を、一度も瞬きをせずに見届けた。


光が静かに収まって、白い輝きが落ち着いた微光になり、彼女が手を引いて半歩後ろに退いた。


床に丸まっている子は、膝を胸に引き寄せて、細い腕を胸の前で交差させていた。

肌はエルフ族特有の淡い色で、白樺の樹皮のような繊細な質感があったが、長い間呪力に侵されていたせいか、手首と首の横に浅い灰紫色の筋がまだ残っていた。

乾いた川床のように、皮膚の上を縫っていた。


髪は浅い緑色だった。

エルフ族だけが持つ、草木の息吹を帯びた自然な緑で、柔らかく細かく、乱れたまま顔の周りに広がっていた。

尖った耳廓が、怯えた小動物のようにかすかに震えていた。


首の横と手首の内側に、まだ消えきっていない灰紫色の細い筋が残っていた。

墨が皮膚に染み込んで、すぐには抜けないように。


でも、呼吸していた。

ウリエルはその胸が上下するかすかな幅を見て、それを確かめた。


ガラティーナはその子を一瞥してから、立ち上がって扉口のウリエルを向いた。


「お台所にある毛布、持ってきてくれるかしらぁ?」


彼女は言った。

声は穏やかだった。

さっき樽を移すよう言ったときとまったく同じ声だった。


「あと朝の残りのきのこのスープ。温め直さなくていい」


彼は毛布を取りに行った。スープを取りに行った。蜂蜜の小瓶も持ってきた。

全部を彼女に渡して、その子に毛布がかけられるのを、スープと蜂蜜が傍らに置かれるのを、横に立って見ていた。

動作は彼を寝かしつけるときと同じくらい丁寧だった。


「……大丈夫?」


彼は口を開いた。


「大丈夫」


彼女は言った。


「少し養生が必要なだけ」

「養生……」

「食べて、寝て、休めばいい。あなたが熱を出したときと同じ」


ウリエルはまた三秒黙った。


「ママ」


彼はようやく言った。

声が、落ち着いているつもりなのに少し震えていた。


「さっきやってたの、あれって何?」


ガラティーナは立ち上がって振り返って、彼を見た。

少し真剣に考えた。

息子にわかる言葉で、できる限り正確に説明しようとした結果。


「汚れてたところをねぇ、綺麗に洗い流したのよぉ」


ウリエルはこの説明のどこからツッコめばいいか、しばらくわからなかった。


(は、はあ? ……あれって『洗える』ものだったのかよ?)


ウリエルは視線を下に落として、毛布に包まれたエルフ族の女の子を長い間眺めた。

それから顔を上げて、ガラティーナの方を見た。


彼女はいつも通りだった。

普段着のスカート。サンダル。

さっき純白の光を放っていたその手は今、何気なく体の横に垂れていて、指の関節に余分な光の欠片ひとつ残っていなかった。


ウリエルは物置を出た。

午後の陽光が肩に暖かく落ちた。

深く息を吸うと、草と土の混じった山の空気が肺に入って、少し頭がすっきりした。


汚れたところを、洗い流した。

ひょいとつまんだ、買ってきた芋のような気軽さで。

掌から光を出して、一層ずつ、子供の身体から腐ったものを剥がした。


そのたびに「勇者ってあんまり頭よくなかったの?」とウリエルが言うと、話している本人はただ目を細めて、笑って、何も言わなかった。


あ。


あの人が、その勇者だ。


頭の中でパズルのピースが合わさった瞬間、思わず声が出た。


「あ!」


自分の新しいママが、そういう存在だったのか。


強すぎる。

本当に、強すぎる。


彼は自分の手を見下ろした。

八歳。細い。

さっき家まで走って帰るとき、もう少しで木桶を蹴り倒すところだったやつの手だ。


対して俺は、本当に弱い。


その認識は、パニックにはならなかった。

ただ、重い石のように、心の一番深いところに静かに沈んでいった。


「まあママがいるし大丈夫か」


は思わなかった。


思ったのは——


もっとやらないといけない。足を引っ張りたくない。迷惑をかけたくない。


まず火おこし。料理。泥のついていないネギを差し出せるくらいには。そこから始めよう!


少年は小さな拳を握って、台所へと走り出した。


物置の中で、ガラティーナはその子を抱き上げて、壁際に寄せた。

スカートの裾を少しだけ破いて、その布切れで、首の横に残った灰紫色の筋を、丁寧に拭き始めた。

ウリエルの顔を拭くときと同じくらい、丁寧に。


エルフの女の子の耳廓が、かすかに動いた。


ガラティーナはまだ眠っているその顔を見下ろして——


ほんの少しだけ笑った。


誰にも見えない、この瞬間だけの、柔らかい笑顔だった。


窓の隙間から午後の陽光が差し込んで、女の子の浅い緑の髪に落ちて、草木のような温かな色に照らした。


二人だった日々に、一人が加わった。




【第五話・終】

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