第四話:ママの成長速度が想定外すぎる件
「天然でポンコツなママを、俺が立派に育て上げる展開だと思った?」
――残念! その予想は盛大に外れました!
わずか二週間で育児スキルを全カンストさせたママの前に、中身30歳男のちっぽけなプライドは木端微塵に。
ウリエルはすぐに自分の見立てが盛大に外れていたことを悟った。
最初の判断は「人の世話が苦手」だった。
修正後の判断は「ちょっと天然で、反応が少し遅いだけ」だった。
しかしその「少し遅い」もそう長くは続かなかった——二週間後、ガラティーナは極めて有能なママに変身していた。
三十歳の魂が思わず居心地悪くなるほど、有能だった。
ある夕方、扉を押して部屋に入ると、彼女が窓辺に座っていた。
夕日が、染め直して間もない銀色の髪の端を暖かな金色に縁取っていた。
「何が必要かしらぁ?」
彼女は顔を上げて、ずいぶん直球に聞いてきた。
「ママ、よくわからなくてぇ」
ウリエルはその場で二秒固まった。
本気だと確認してから、少し考えた。
前世三十年、今世五年。屋根があって、ご飯がある。「何が必要か」と聞かれても、自分でもはっきりした答えはなかった。
だから正直に答えた。
「ママがいれば、それだけでいい」
彼女は少し笑った。
きれいな笑顔だった。
翌朝早く、彼女はウリエルを抱っこして街の本屋に行き、棚から六冊を静かに抜き取り、もう片方の腕に挟んだ。
『幼児の食事と生活についての問答』、『五歳から七歳のための入門教本』、『はじめての育児手帖』、それから絵本が数冊。
ウリエルは彼女の腕の上に座って、背表紙を一冊ずつ読んでいった。
(……本気だ)
六冊を、一週間で読破した。
ある夜中、扉の隙間から中を覗くと——蝋燭の薄暗い光の中で、彼女が眉間にわずかに皺を寄せて、唇を無音で動かし、本の余白に指先の魔法でそっと細い線を引いた。
最後に小さな丸でまとめて、止めた。
ウリエルは頭を布団の中に引っ込めた。
胸の中のその老いぼれ魂が、一瞬静かになった。
実践の結果は、ウリエルの三十歳の魂への全方位攻撃だった。
たとえばトイレは付き添いが必要で、彼はその手順を一度も練習したことがなかった。
彼女はしゃがみ込んで、普段なら音もなく何でも砕けそうなその手で、壊れ物を扱うように丁寧に、彼のズボンを少し引き下げて、それから顔を上げて、目を細めて言った。
「どうぞ」
——表情は平静だった。
平静な表情の下で、三十歳の男が虚空に向かって声なき絶叫を上げていた。
(くっ、殺せ!)
お風呂は、そのまま浴桶に抱き上げられて、袖をまくった彼女に一箇所ずつ丁寧に拭かれた。
「ママ、自分で洗えるよ」
彼は理路整然と申し出た。
「うん、知ってるわぁ。ウリちゃんは偉いねぇ」
手は止まらなかった。
柄杓を持ち上げて、ゆっくりと頭に水をかけた。
ウリエルは目を閉じながら、「知ってる」という言葉を何度も反芻した。
「じゃあ自分で洗ってね」という展開には全くならなかった。
食事のとき、料理がまだ熱いと、彼女は自分でフーフーと冷ましてから、冷えた一口を彼の口元に運んできた。
「ママ、俺、手があるよ」
「知ってる。でも熱いから」
スプーンは動かなかった。
ウリエルは一秒黙って、口を開けて、その一口を食べた。
窓の外の夜を眺めながら、心の中で決意した。
できるだけ早く自立しなければ。さもないと、大人としての最後の矜持が、この食卓の上で完全に消滅する。
でも、自立はできなかった。
五歳から七歳にかけて、彼女は何度も何度も本を買ってきた。
一巡読み終えるたびに、スキルツリーがまたひとつ、ぱっと開いていった。
料理が焦げなくなった。
塩の量が正確になった。
抱っこする腕の力も緩んで、あたりまえのような、自然な軽さになった。
七歳になる頃には、彼が口を開ける前に、その一口が十分冷めているかどうかを正確に判断できるようになっていた。
寝る前の昔話も、穏やかな流れになった。
言葉の端々に、彼女自身も気づいていないような、二人で作り上げた息遣いがあった。
あの三十男の意地が、気づけば、本当に磨り減っていた。
ある昼下がり、石の腰掛けに座っていて、ふと思い出した。
前世の幼い頃も、たしかこんな風に母親へ両手を伸ばして、抱っこをせがんだ気がする。
立ち上がり、テーブルを拭いているガラティーナの前に歩み寄った。そこで立ち止まって顔を上げ、両手を上へと伸ばした。
約一秒固まった後、しゃがみ込んでウリエルを抱き上げた。腕の中にすっぽりと包み込み、片手で背中を支えたまま、何も言わなかった。
ウリエルは彼女の肩に手を乗せた。
その胸の中にある何か小さなものが、この抱擁が決まった瞬間、かすかに震えたのがわかった。
それから、彼女は離す気配を見せなかった。
少し待って、身じろぎしてみた——腕がほんの少し、強くなった。
幅は小さかったが、意味は明確だった。
ウリエルは心の中でため息をついて、顎を彼女の肩に乗せて、目を閉じて、付き合った。
目を閉じた瞬間、頬に何かが触れた。
軽くて、柔らかくて、すぐに離れた。
ウリエルは目を細く開けた。
彼女は説明しなかった。
ただ抱き続けていた。
顎を彼の髪の上にそっと乗せ、当然だというような顔をしていた。
大したことじゃない、というような。
フーフーと冷ましたあの一口と同じように。
掛け布団の角を押さえたときと同じように。
やったからやった、それだけだった。
そのとき、かまどから焦げた匂いがした。
彼女はそっとウリエルを下ろして、小走りで向かって、鍋を持ち上げて、蓋を開けて、静かに蓋を戻した。
ウリエルはその場に立って、少しだけかわいいと思った。
「……少し待ってて。作り直す」
「うん」
彼は石の腰掛けに戻って座った。
「いいよ」
抱っこはいつも強かった。
いつも彼が先に動いて、彼女が後から離した。
布団の角を押さえてもらう前も、汁を冷ましてもらう前も、あの腕の中では、老いた魂も静かになった。
こうして座っているのも、悪くなかった。
八歳になったある朝、ウリエルはこれまでで一番正式な申請を提出した。
「外で遊んでくる」
彼女の間が、いつもより少し長かった。
「一人で?」
「うん」
彼は頷いて、顔を上げて至って真っ当な表情で彼女を見た。身体をちょっと揺らした。
「村のそば。遠くは行かない」
しばらく沈黙してから、彼女は言った。
「気をつけてね」
「わかった」
「道に水たまりがあったら避けて、知らない人に会ったら——」
「ママ」
彼は遮った。今世で一番穏やかなやり方で遮った。
「わかってる」
続けようとしていた後半が、彼女が背を向けた後、ごく小さな、静かな微笑みで終わった。
陽光が薄い雲を透かして、林道を暖かく照らしていた。
ウリエルは拾ったばかりの太い枝を手に持っていた。
長さはちょうど腰のあたりまで。
周知の事実だが——完璧な木の枝を前にして、心躍らせない男などこの世には存在しないのだ。
彼はとっくに心の中で決めていた。
これは今日の「魔剣」だ。
歩きながら道端の草をひと払いして、声を低くして、空気に向かって宣言した。
「ふん……この【観測者の眼】の前では、いかなる魔物も逃げ場などない」
八歳の声はまだ細くて柔らかくて、中二宣言が少し滑稽になった。
つい一人でニヤニヤと笑ってしまった。
ズボンの裾にはもう泥が跳ねていた——出かける前にガラティーナがわざわざ言い含めたやつだったが、枝を振り始めて三分で、その言いつけは早くも破綻していた。
林の中を15分ほど歩いて、途中で何本か枝を拾っては比べて、結局「魔剣」だけを手元に残した。
そのとき、風向きが変わった。
血の匂いがした。
ウリエルの足が瞬時に止まった。
【観測者】が、普通ではないエーテルの流れを捉えた。
食っちゃ寝の生活を愛する筋金入りのマザコンとして、首を突っ込む理由などどこにもなかった。
でも——。
(おいおい、ここは異世界だぞ?!)
頭の中に絵が浮かんだ。
岩に刺さった剣。光る宝箱。埃をかぶった古い巻物。
この好奇心を、誰が止められるんだ。
手に持った木の枝を握り直して、その方向へ、一歩一歩、忍び足で近づいていった。
「魔剣」を持った八歳の少年が、林の奥へと消えていった。
【第四話・終】
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