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第三十三話:帰宅部、発足

異世界にもクラブ活動がある。不思議だろ?

翌日の午後、時間割には授業が一コマしかなかった。


ウリエルは二度見した。


(こんないいことあるか? 早退?)


(それとも印刷ミス?)


時間割の下に小さな注意書きを見つけた。


今学期のクラブ勧誘活動は新学期第三週の木曜午後に実施。当日の午後授業は一コマに短縮し、残り時間は各クラブの展示活動への参加に充てること。


(……ああ、そういうことか。別にいいや)


つまんなそうに時間割を机に放り出して、横を向いた。


ティアンが颯爽と教科書を片付けていた。


「クラブ勧誘」


ウリエルは訊いた。


「見に行く?」


ティアンはカバンを持ち上げて、こくりと頷いた。




グラウンドと廊下沿いには、各クラブがすでに出展台を広げていた。


人はそれなりにいた。

三々五々、いろんな台に寄っていく。

ポスターを掲げて声を張り上げているところもあれば、その場で実演しているところもある。

剣術部の先輩二人が演武を見せていて、切れのある動きに歓声が上がった。


ウリエルは両腕を胸の前で組んで、ゆっくり歩きながら左右を見ていった。


格闘術部、剣術部、弓術部、騎乗部——


魔法系に入ると、魔法陣研究会、古典呪術部、元素実験部、ルーン研究会。


古典呪術部の台の前で、ウリエルは足を止めた。


台の上には展示用の術式図が並んでいて、隣では先輩が小さな炎のルーンを使って指向性燃焼を実演していた。

指の軌跡に沿って炎の向きが変わっていく。正確で、なめらかだった。


(……面白いな)


視線がルーン図の上に短く留まった。


ウリエルの様子を、ティアンは見逃さなかった。隣から、小声で訊いてきた。


「行きたい?」


「お前は?」


ウリエルが逆に訊いた。


「どこか行きたいとこある?」


「ウリちゃんが行くところに行く」


即答だった。

一秒の迷いもなかった。


ウリエルはルーン図から視線をティアンへ移した。


そして、起こりうる事態を真剣に考えた。


クラブ活動。


たとえば剣術部。

組み手の場面で、ティアンが動く。

力をセーブして——本当にセーブできるとして——あの実力で、どこまで手加減できるか。


(……だめだ。今はかなりコントロールが上手くなったとはいえ、万が一があったら)


場面が魔法系に移る。


たとえば魔法陣研究会。

基礎陣式を学ぶ、初回活動で簡単な誘引陣を描く。


ウリエルは想像してみた。

ティアンがしゃがんで、ものすごく真剣に、ものすごく力を抑えて、「ただの一般新入生です」という顔で基礎誘引陣を描く姿を。そしてその陣が光を放った瞬間、学院全体を飲み込んでしまう光景を。


(……それもだめだ)


考え終えて、惜しいような、どうしようもないような気持ちになった。


魔法系のクラブには、正直に言えば少し興味があった。


ちょっと派手なものを覚えてもいいし、形だけでも整えておくのもありだ。

ただ突っ立っているよりはましだ。


でも無理だった。

根本的に無理だった。


「俺たちは」


ウリエルはさらりと言った。


「帰宅部だ」


ティアンが首をかしげた。


「帰宅部?」


「帰宅部」


ウリエルは大まじめな顔で説明した。


「放課後はまっすぐ帰る、どのクラブにも入らない、帰ることを最優先にする部活だ。略して帰宅部。世界で一番自由な部活とも言う」


ティアンは最後まで真剣に聞いて、少し考えた。


「でも……私たちは寮にいるよね」


「そうだな」


「それに、ここの学生のほとんどは貴族で、王族のお子さんでも普段は寮に住んでいるから、毎日帰れるわけじゃないよね。だったら、帰宅部の成立条件って、ちゃんと家に帰れることじゃない?」


ウリエルは空を仰いだ。


(……どうしてうちのオカンは毎回そこで論点がズレるんだ)


顔を戻して、彼女を見て、少し考えてから結論を出した。


「寮が家だ」


「ん?」


「お前がいる場所が、家だ。だから俺たちは帰宅部で、問題ない」


ティアンはその一言を受け取って、固まった。


静かな水面に石を投げ込んだような——いや、石ではなく爆弾を投げ込んだかのように。

その衝撃の波紋が、彼女の瞳の奥からじわじわと広がっていった。


ウリエルは視線を逸らし、「しまった」と心中で叫んだ。その一言が彼女にとって少し重すぎたかもしれないと、やっと気付いたのだ。


(しまった、言いすぎた)


「ウリエル——」


彼女が前に倒れかかってきた。

両腕がもう開きかけていた。


「ちょっと待って」


ウリエルは一歩後ろに下がり、両手を伸ばして、その近づいてくる顔を左右から掴んで制止した。


「お前は今、男だ。同室だ」


声を落として、一語一語はっきりと言った。


「だ・か・ら・抱・き・つ・く・な」


ティアンは彼の手のひらの間で、くぐもった困惑したような声を出した。


「周りに人がいる。気持ちはわかった。でも今はだめだ」


彼女の目線がひっそりと左へ泳いで、それから右へ泳いだ。


確かにいた。


少なくとも三組のクラスメイトがすでにこちらを見ていた。

それぞれ微妙に違う困惑を顔に乗せていた。

一人は足を止めて「俺、これを見ていていいのか?」という表情をしていた。


ウリエルはサッと身を翻し、極めて自然な動作で、ティアンの行き場を失った両腕を自分の背中で隠すように立ち位置をずらした。

それから何でもない口調で言った。


「行こう、もう見るもんもないし」


「うん——」


「ついてきて」


もう歩き始めていた。




ウリエルはティアンを連れて展示台の外側を回り込み、人の少ない廊下の端を見つけてそこに立った。

このまま活動が終わるのを待つことにした。


ティアンは隣で何も言わなかった。

ただその目はまだ嬉しそうに三日月の形に曲がっていて、さっきの一言の余韻がまだ抜けていないのは明らかだった。


ウリエルはそちらを見ずに、グラウンドの方角をなんとなく眺めた。

暇つぶしをしようとした。


その瞬間、袖口が軽く二回引っ張られた。


「何?」


ウリエルが振り返った。


「ウリちゃん」


ティアンが声を落として言った。

男装していても、その口調の、のんびりとした温度は少しも変わっていなかった。


「あそこの、髪が半分白くなったおじいちゃん。目つきがちょっとおかしいよ」


「……おかしいって」


「先生が生徒を見る目じゃないよね」


ティアンは小さく首をかしげた。

適切な言葉を辞書の中から探しているような間があった。


「ママがむかし森で狩りをしてたとき……うーん、長い間お腹を空かせたハイエナが、太った小うさぎを見つけたときの目に似てる。ちょっと怖いよ」


ウリエルの心臓が一拍跳ねた。


この人が「怖い」と言うのは、初めて聞いた気がする。


ガラティーナの直感といえば、数キロ先で魔王の気配を感知できるレベルの話だ。

彼女がおかしいと言うなら、絶対におかしい。


ウリエルはすぐにティアンの視線を追った。


五十代、きちんと仕立てられた濃色の外套、後退しかけた生え際に歳月が滲んでいるが、体つきはまだしっかりしている。


(……学院長だ)


入学式の台上で最後に挨拶した人物だった。


ウリエルは反射的に【観測者】をその方向に向けた。

白い光の膜が彼の上に薄く乗る。

白銀とは少し違う——冷たい月光のような、わずかに青みを帯びた白さ。

しかもその膜には厚みがあった。

秘銀級、山銅級に近いかもしれない。


次に、学院長の視線の先を追った。


人の波の端に、一人の女子学生が立っていた。

手には礼帽を持って、服の生地は一目でわかる上物で、どこかの大貴族の令嬢に違いなかった。


ウリエルは視線を学院長の顔に戻した。


その目は、ひどく真剣で、ひどく渇望していた。

可能性を値踏みしている目だった。


名探偵モードが静かに起動した。


相手は誰か。学院長だ。地位は高く、声望もある。

衆人環視の中で彼にできることは何か。

まさか邪教の生贄候補を選んでいるわけがない。


(……ない。絶対にない。リスクとリターンが釣り合わない)


あらゆる不可能を消去して、残ったものが——どれほど突飛でも——真実だ。


(……わかった)


「理解した」


ウリエルは冷笑を漏らした。


「え、もうわかったの?」


ティアンが目をぱちくりさせた。


「あの目は確かに、教師が生徒を見る目じゃない」ウリエルは言った。「あの爺さん、あの女子学生に目をつけてる。感心とか庇護とか、そういうんじゃない。お前の言った通り——ハンターが獲物を見る目だ」


顎に手を当てた。


「具体的に何が目的かはまだわからない。ただ、碌でもないのは確かだ」


ティアンがかすかに目を見開いた。

両手を胸の前でそっと合わせた。

いつも穏やかな金の目の中に、一瞬で星が降ったような輝きが灯った。


「わあ——」


心底の感嘆が、小さな声になって漏れた。


「ウリちゃんってすごい! 一目見ただけでこんなに複雑な事情を見抜くなんて!」


彼女が半歩前に出た。

声の端々にあふれる誇らしさが、今にもこぼれ落ちそうだった。


「賢い! 将来はきっと絶対名探偵になるよ!」


周りに人さえいなければ、この人が今すぐ偽装を解除し、母性の包容力に満ちたその豊かな胸に彼を抱き寄せ、すりすりと頬ずりしてくるだろうことは疑いようがなかった。


「こほん」


ウリエルは戦略的に咳払いをして、緩みきった口角を強引に引き締めた。


「基本だよ。それより、あの爺さんがおかしいとわかった以上、今後は気をつけておく必要がある」


「うん!ウリちゃんの言う通りにする!」


ティアンが何度もこっくりした。

息子への盲目的な信頼が、その目いっぱいに溢れていた。


ウリエルは視線を前に戻して、心の中で学院長に「要注意」というタグを付けた。


それからティアンをもう一度横目で見た。


彼女はまだ「息子すごい」の余韻に浸っていた。


(……まあいいか)


(学院長の件は、また今度でいい)


「行くぞ」


ウリエルは言った。


「帰宅部、帰宅する」


「はい!」


ティアンが小走りで二、三歩追いかけてきて、歩調を合わせた。

帰宅部は、堂々たる帰宅である。




【第三十三話・終】

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