第二話:遺体は蟻に運ばれました
いつもありがとうございます!
今回は聖剣姫vs追手七人の死闘(?)です。
……「熱いバトル展開」を期待していた皆様、大変申し訳ありません。この世界、誰も死にたくないので、全員が全力で『空気』を読みます。
究極の「忖度」によって生み出された、史上最もシュールな平和的解決をご覧ください。
ガラティーナは孤児院の門を出て、街角を曲がり、路地の奥に消えた。
歩調はゆっくりだった。
ブーツの底が石畳を踏む音が、単調に、一定のリズムで続いた。
そのとき、あの子の声がまた蘇ってきた。
(楽しかった? 俺は楽しかったけど)
足が緩み、やがて路地の中で止まった。
あの言葉を、何度も心の中で繰り返した。
繰り返すたびに、ずっと沈んでいた何かが、少しだけ浮かび上がってきた。
ほんの少しだけ。
でも、その少しは本物だった。
その重さを胸の中にそっと収めて、それ以上は触れないようにした。
次にやるべきことのために、場所を空けた。
奴らがどこにいるか、わかっていた。
孤児院に入った瞬間から、感じ取っていた。
七人分のエーテルが息を潜めて、彼女を待っていた。
これが初めてではなかった。
最初は、渡し場だった。
教廷を離れて間もない頃、向こうから三人がやってきた。
一人には見覚えがあった。どこかの騎士家の長男だった。
その目は絶望していた。
絶望の中に恐怖があって、恐怖の中に、行き場のない申し訳なさが混じっていた。
何も言わず、一斉に向かってきた。
でも追いつけなかった。
後で調べてわかったことがある——人界の上層部が彼の父親を拘束していた。
命と引き換えに、彼女を追わせたのだ。
それからは調べるのをやめた。
調べるたびに答えは同じだったから。
父親か、長男か、夫か——自分から望んで来た者は、一人もいなかった。
だから逃げた。
勝てないからじゃない——目を閉じていても勝てる、そのことはお互いにわかっていた。
でも、できなかった。
向かってくる人間の背後には必ず、帰りを待っている誰かがいる。
手を出せば、その人たちが終わる。
だから逃げた。
逃げて、隠れて、また逃げた。
逃げ続けるうちに、疲れ果てて、今日の雨の中の姿になった。
でも今日は、少し違った。
自分の背後にも、帰りを待っている人間が一人、できたのだ。
路地の中で立ち止まり、あの子が渡してくれた石ころの重さを——もうとっくに弾いてしまった石の、ただの重さの記憶を——手のひらで確かめた。
それからまた歩き出した。
城外へ向かいながら、気づいたら口の端が、ほんのわずかだけ持ち上がっていた。
いい方法を思いついた。
追手は七人、城外の山道で待ち構えていた。
彼女が孤児院に入ったときから待ち始めて、夜が完全に落ちるまで待ち続け、山の風が松明をぱちぱちと鳴らす頃には、七人が七人、互いに顔を見合わせていた。
誰も先に口を開かなかった。
全員が胸の中に同じものを抱えていた——「聖剣姫」という名前と、その名前の後ろに続く、膝が笑うほど長い戦績の記録。
聖剣姫は、追い詰められた者には決して手を出さない、とも聞いていた。
誰一人、本気でやりたかった者はいなかった。
彼女を恨んでいる者も、彼女に何かされた者も、いなかった。
ただ——そういうことになっていた。
そのとき、最初に気づいた者がいた。
山道の脇の空き地に、新しく立てられた石碑があった。
碑の前には、一振りの剣が突き刺さっていた。
聖剣だった。
七人の視線が、一斉にその剣に落ちた。
五秒間、誰も喋らなかった。
それから視線を横に動かして、石碑の隣の地面に移した——
ガラティーナが、そこに横たわっていた。
仰向け。両手を腹の上で重ねて。目を固く閉じて。
全身を鋼板のように真っ直ぐ伸ばして、荘厳かつ非常に雑な「遺体感」を全力で醸し出していた。
七人は、この光景を左から右、右から左、上から下へと眺め回した。
一人が口を開いた。声は小さく、何かを起こすのを恐れるような声だった。
「……死んで、る?」
別の一人が二歩前に出て、目を細めてその方向をじっくりと見た。
「……わからん」
「つついてみる?」
「お前がつつけ!」
「なんで俺が——」
「一番近いだろ——」
「近いからってつつく理由にはならないだろ——」
三人目が割り込んで、声を潜め、プロとしての冷静さを必死に保ちながら言った。
「聖剣がある。墓碑がある。ご本人がいる」
彼は一言ずつ区切った。
「これって、つまり……」
最後の一語は言わなかった。
でも全員が、その一語を受け取った。
十秒間の、完全な静寂。
そのとき。
横たわっていた「故人」が、動いた。
起き上がりはしなかった。
目を閉じたまま、両手を腹に重ねたままの安らかな姿勢のまま、かかとと背中だけを微妙に使い、金色のベルトコンベアのごとく、極めて安定した等速直線運動で、じわじわと草むらの方へ滑り込んでいった。
大の男が七人、松明を持ったまま、大陸に名を轟かせた聖剣姫が地面を横移動するのを、唖然として。
草むらの縁に滑り込む直前、その茂みの中から、何の抑揚もなく三文字だけ流れてきた。
「死んでます」
草むらがさわさわと揺れて、静かになった。
人界上層部の追手・一番手は、その草むらをしばらく見つめた。
それから視線を外して石碑に向け、碑前の聖剣に向け、最後に仲間たちへ向けた。
落ち着いた、確信に満ちた声で言った。
「死亡が確認された」
全員が彼を見た。
「聖剣がある。墓碑がある。ご本人もいた。天啓も——まあ、墓碑に書いてあった通りだ」
彼は続けた。
「我々七人が全員、直接目撃した」
二番手がためらいがちに口を開いた。
「でも今、あの方は——」
「遺体だ」
「……」
一番手は遮った。口調は揺るがなかった。
「蟻に運ばれた」
二番手は口を閉じた。
少し考えて、ゆっくりと頷いた。
残り五人が、それぞれのペースで、次々と頷いた。
一番手は静かな草むらをもう一度だけ見て、手を後ろで組んだ。
「帰還して、報告する」
松明の光が山道の上で揺れた。
遠くなって、小さくなって、夜の中に消えた。
山道に静寂が戻った。
風と、虫の音だけが残った。
草むらが、がさりと動いた。
ガラティーナが出てきて、草屑と泥を払い、背筋を伸ばした。
横目で古い石板を見る。
まあいい、これで墓石の代わりとしよう。どうせ文字も読めないほど風化していた。誰のものかも知らない。
聖剣もここに残しておく。もう必要ない。
この山の上に、あの名前とあの剣を、一緒に置いていく。
向きを変えて、山を下り始めた。
急いでいなかった。
でも歩いているうちに、足が速くなっていた。
山の麓に着く頃には、自分の心臓が、さっきと少し違う打ち方をしているのに気づいた。
歩くのが速くなったからではない。
孤児院で待っているあの子のことを、考えていたから。
思ったら、もっと足が速くなった。
【第二話・終】
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