第二十六話:男装、その前に
新キャラ登場。さて、それは誰だろうか。
進学先が決まった。目標も決まった。
それが確定した後、ウリエルは次の問題を考え始めた。
この三年間の学院生活で、人間関係はほぼ壊滅した。
主な原因はひとつ——ガラティーナだ。
とはいえ、彼女を責める気にはなれない。
彼女がやったことは、すべて彼女自身の論理からすれば合理的で、むしろ丁寧なくらいだ。
問題は、彼女の論理体系と、この世界の普通の常識との間に、ウリエルが三年かけても埋められなかった溝があることだ。
つまり——同じ方法を繰り返しても、意味がない。
ウリエルは机の前に座って、指先でテーブルを叩きながら、考えた。
ガラティーナを正面から約束で縛ろうとするのは無意味だ。
守る気がないわけじゃない。
ただ、彼女の天然属性が、気づかないうちにあらゆる約束を溶かしていく。
封をしていない器に水を注ぐようなもので、意図がなくても、最終的には必ず溢れる。
だから約束じゃダメだ。頭を使え。
彼女自身が守りたいと思えるルールを使う必要がある。
彼女が大切にしているものを、こちらが使う。
しばらく考えて——ふと、ひらめいた。
ずっと忘れたようでいて、実は一度も本当に忘れたことはなかった、あのことを。
「母さん」
その夜、ウリエルは本を閉じて、ガラティーナの方へ椅子を少し引き寄せた。
「魔女旅団、覚えてる?」
ガラティーナは畳んでいた衣服を置いて、顔を上げた。
「覚えてるよ。ウリちゃんが考えた、みんなで遊ぶやつ」
「あれ、再起動したい」
彼女が首を傾けた。
「再起動?」
ウリエルは言い方を整理した。
「そう、高等学院でも続けるの。母さんが魔女で、俺が書記官。普段は普通の学生、でも裏では旅団のメンバー。悪いやつを懲らしめて、困ってる人を助ける」
ガラティーナはじっと聞いていた。
目が徐々に輝きを増していった。
「ただし、絶対に目立たないこと。正体は隠す。だから学院では、キャラクターを完璧に演じ続けないといけない。一切ブレずに」
「崩したらどうなるの?」
(よし、かかった)
ウリエルは黙った。
少し間を置いて、いかにも悲しそうに頭をうなだれた。
ゆっくりと顔を上げた時には——目のふちがうっすら潤んでいた。
今しがた絞り出したやつだ。
口元も、ぎゅっとわずかにへの字に曲がっている。
声まで、三割増しで柔らかくなっていた。
「母さんが協力してくれないなら、俺も協力しない」
拗ねた声で言った。
「どうせ一人で外ふらふらして、毎日問題起こして、同級生をいじめて、道端の猫や犬まで蹴飛ばして。母さんが教えてくれたこと、全部逆に使う」
一言で言えば、「遊んでくれないなら床に寝転がって駄々をこねる」というクソガキ特有のモラルハラスメントだ。さっきまで冷静に策略を練っていた大人の魂とは、天と地ほどの落差があり、もはや狂気の沙汰である。
ガラティーナはウリエルをじっと見つめたまま、しばらく黙って瞬きをした。
「この子がわざとやってる」と「ウリちゃんが傷ついてる」の間を、目が二往復した。
予想通り、圧倒的な【母性オーラ】の照射を浴びて、前者の理性は後者にあっけなく敗北を喫した。
最後に、ふっと穏やかに息を吐いて、手を伸ばしてウリエルの頭をそっと押さえた。
「……わかった、ママが協力する」
ウリエルは心の中で「よし!」と叫んだ。
そして顔の上の拗ね顔を、音もなく即座に回収した。
翻るのが本のページより早かった。
「じゃあキャラクターは俺が考える」と、もう完全に元の声に戻って言った。
「何案か描くから、選んで」
何日もかけて考えた。
前世で長年積み上げてきたオタク知識のストックが、初めて体系的に役に立つ瞬間だった。
某閃光の団長。某中二病の影使い。某軍服の銀髪美人。そして魔法少女。
それぞれを紙に描いた。
精密なイラストではなく、輪郭と雰囲気だけの略図だ。
髪型、服装、おおまかなシルエットと立ち姿の空気感。
それだけ描いて折りたたんで、ガラティーナのところへ持っていった。
「母さん、一枚選んで。後で詳しい演じ方を話し合おう」
紙を渡した。
ガラティーナは紙を広げて、一枚目から順番に見ていった。
丁寧に、細部まで目を通す真剣さで。
一枚見るたびに「これ可愛いねぇ」「かっこいいよぉ」と素直な感想を添えながら……この子の顔が可愛いねぇ、この服がかっこいいよぉ、この杖が個性的で面白いねぇ、と。
途中で手が止まった。
三枚目に戻った。
もう一度、ゆっくりと見た。
ウリエルは隣に立って、彼女の視線が一番長く留まる一枚を、静かに観察した。
やがてガラティーナは顔を上げて、一枚を抜き出して渡した。
軍服。
銀髪を束ねて、帽子のつばを少し下げて、肩章と飾り緒が重なっている。
立ち姿は真っ直ぐで、どこか理由のない威圧感を纏っている——そういうシルエット。
ウリエルはそれを受け取って、一目見て、心の中で静かに親指を立てた。
(流石は俺の母さんだ。一発で「銀髪軍服の麗人」属性を引き当てた)
「それにしよう」
仮に別の一枚を選んでいたとしても、ウリエルはもう一度この絵を推し直すつもりだった。
だって銀髪軍服を断れる人間がどこにいる?
「銀髪ね、今のママと同じ」
ガラティーナはその紙を手に持ったまま、しばらく眺めた。
「そう、だから選んだ。変えるところが少なくて楽だから」
ウリエルは言った。
「名前は?」
「聖剣魔女」
ウリエルは答えた。
「聖剣魔女、ママ、気に入った」
ガラティーナがそっと繰り返した。
目元が、ゆっくりと細まった。
ウリエルはその紙を回収して、もう一度プランを頭の中で確認した。
大きな問題はなさそうだ。
ひとつだけ気になるとすれば——キャラクターの内と外を切り替える瞬間に「ウリちゃん」という三文字が漏れないようにすること。
これは別途、しっかり念押ししなければならない。一回では足りない。
それから、もうひとつ——ずっと心の隅にあった、別の気がかりを思い出した。
「母さん、ルミナたちの消息、何か知ってる?」
「ないよ、三年、ずっと連絡なし」
ガラティーナは少し考えてから答えた。
「……そうか」
「ウリちゃん、会いたい?」
「まあ、王都に行けば、何か情報があるかもしれないから」
少し間があった。
正直なところを言えば、確かに少し気になっていた。
でもそれ以上は言わなかった。
「そうかもね、もしかしたら」
ガラティーナはうなずいた。
試験と入学。
全部、計画通りだった。
ウリエルは点数を丁寧にコントロールした。
普通の学生の水準——目立たず、沈まず、人混みに溶け込める位置。
人ごみに放り込んで探しても見つからないくらいの、ちょうどいい凡庸さだ。
寮の部屋は二人部屋。普通の寮棟だった。
部屋番号を受け取って、一目確認した。
棟の中層、可もなく不可もない位置。窓は中庭向き、採光は悪くない。
完璧だ。
寮棟の入口に立って、ウリエルは手の中の部屋番号を見つめながら、この上々な滑り出しに満点をつけた。
特に「特待生専用個室」という時限爆弾が存在しないことが、この上なくよかった。
(普通でいい。普通こそが最強の隠れ蓑だ。普通に徹してこそ、あの上層部の刺客たちを暗躍して探り出せるし、平凡で平穏無事な三年間の青春を謳歌できるのだ!)
荷物を手に持って、中に入った。
廊下は歩くたびにわずかに反響した。
両側の扉はほとんどが閉まっていて、ところどころ開いているものがある。
開いている扉の向こうでは、誰かが荷物を出している。
自分の部屋番号の前で足を止めた。
扉が、少し開いている。
先に着いた室友がいるということだ。
それはいい。
ただ——なぜだろう。
胸の底に、じわりと不安が滲み出てきた。
扉を押して、中を見た。
荷物が半分出されていた。
本が本棚に、きれいに並んでいた。
カーテンが——なぜか、取り替えられていた。
学院の支給品より、ずいぶん落ち着いたいい色だ。
ベッドは整えられていて、シーツの折り目が水平で、枕の角度まで正確だった。
ウリエルの視線が、本棚からカーテンへ、そしてベッドへと移動して、止まった。
不安が、二割増した。
(野生の男子ルームメイトが、こんなに家庭的で気が利くわけがないだろ)
それから、窓際でこちらに背を向けて、箱を整理している人影に目が落ちた。
銀色の短い髪。
耳の後ろで束ねてあって、毛先がちょうど顎のあたりで切れている。すっきりとした感じだ。
紺色の男子学生服。サイズは合っている。袖口が折り返してあって、裾も平らだ。一本のしわもない。
体つきは細くて線が細い。ただ——胸のあたりが、少し、つじつまが合わない。
ウリエルは扉口に立ったまま、その後ろ姿を上から下まで一度見た。
足が、動かない。
(クソッ、足が動かねぇ!)
カーテンの色に、見覚えがある。
母さんが好きな色合いだ。
枕の折り方にも、見覚えがある。
十歳の時に、母さんが手を取って教えてくれた折り方だ。
荷物の持ち手を、少し強く握った。
人影は物音を聞いて体を起こし、振り返った。
あの金色の瞳だった。
この顔で、この髪型で、この服を纏って——ウリエルの視線と正面からぶつかって、その目が嬉しそうに三日月の形に細まった。
眼の奥には、ウリエルが絶望のあまり灰になっても絶対に見間違えないであろう、「ねえ褒めて」という感情がキラキラと輝いていた。
ウリエルは扉の入り口に立ったまま、その顔を見て、世界がゆっくりと遠のいていき、そのまま昇天しそうになった。
「……」
いやいやいや、ふざけんなよ。
【第二十六話・終】
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