第十三話:乗り込んできた
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今回は「学校の話をしようとしたら、薄い本特有のセリフを吐くヤバい奴らが家に乗り込んできて、気づいたらママが包丁を持っていた件」についてお送りします。
……色々と情報量が多いですが、敵のセリフにもご注目ください。
それでは、本編をどうぞ!
家に帰り着いて扉を押し開けると、まず料理の匂いが鼻を突いた。
次に、両腕が回ってきた。
「ウリちゃん、おかえり——」
台所から歩いてきたガラティーナの足取りは軽く、銀髪がさらりと揺れる。
ウリエルが反応する間もなく、その身体はしっかりと彼女の胸に抱き込まれていた。
今の彼はもう、ママが膝を折らなくても胸に収まるくらいの背丈になっていた。
その抱擁は温かくて、少しだけ甘ったるい感触があった。
「よくやったね」
柔らかな声で、真心からの溺愛を込めて言った。
「ウリちゃん、えらい」
「……」
ウリエルはママに抱きしめられ、脳が一瞬フリーズした。
「ママ」
口を開いた。
「まだ何も話してないんだけど」
「うん」
ガラティーナは抱きしめたまま放さなかった。
「でも自分で外に行ってやってきたんだもの。それだけでえらい」
「……」
「チュウするぅ?」
「しない」
ウリエルは顔を横に向けて、頬を寄せてくるガラティーナを避けた。
「手が汚れてるから。洗ってくる」
半歩横にずれて、抱擁の包囲網から脱出した。
ガラティーナは追ってこなかった。
ただ、背中に向かって言った。
「昔は大人しくさせてくれたのになぁ」
「……」
「大きくなって、恥ずかしくなったんだね」
三割の感慨、三割の溺愛、残りの四割は言葉にできない何かだった。
「もうママが屈まなくても抱っこできるくらいになったのに」
ウリエルは背を向けたまま、口元を引きつらせた。
「……ママ、洗ってくる」
「うん、洗ったらご飯ね」
食卓で、ウリエルは集めた情報を頭の中で整理した。
寄宿制、入学年齢、科目の構成、魔力測定……
全部ママに話さないといけない。
でも飯がまだ終わっていないから、本題は後回しにした。
食べ終わると、ガラティーナが台所で食器を洗い始めた。
食器がぶつかる音が、細かく、規則的に鳴っていた。
ウリエルは椅子に座って、肘を卓の縁に乗せて、言葉を考え始めた。
学校の話。
寄宿制の話。
つまり——家を出る話。
(ママは反対するかな。どう切り出すか。はあ)
(何から話せばいいんだ……)
「コンコンコン」
ノックの音がした。
ウリエルは顔を上げた。
台所の水音が止まった。
ガラティーナが手を拭きながら歩いてきた。
「ママが出るね」
「うん」
扉が開いた。
ウリエルは卓の端から、角度的にちょうど玄関口が見える位置にいた。
三人だった。
四十代か五十代くらいの中年男性。
服装は整っていて、背筋は一本の棒のように真っ直ぐで、手にはノートを挟んでいた。
一目で、長年仕込まれた執事だとわかった。
その後ろに、体格のいい巨漢。
肩幅だけで門扉の半分近くを塞いでいた。
そして——ウリエルとほぼ同じ背丈の、同じくらいの年頃の少年。
細かな織りの布の衣服を着て、真っ直ぐに立って、顎をわずかに上げていた。
ウリエルはその顔を見た瞬間、彼は気づいた。
脳内に一つの単語が浮かんだ。
(ヤバ)
三人はガラティーナを見た瞬間、動作が一秒近く止まった。
執事は目の端がわずかに引きつって、すぐに職業的な表情を取り戻した。
巨漢は呆然として、視線は他へ移らず。
貴族の少年は、居丈高な表情にひびが入った。
三人の男が、ほぼ同時に一瞬言葉を失った。
「奥様」
執事が最初に立ち直り、深々と一礼した。
「突然お邪魔いたします」
「邪魔ではありませんよぉ」
ガラティーナは微笑んだ。
「どのようなご用件で?」
「実は本日」
執事はノートを開いて、アナウンサーのような口調で言い始めた。
「こちらのお子様が、街中にて我が若様のお付きの者に暴行を加え、負傷させるという事案が発生いたしました。当方としては、直接お話を伺いたく、参上した次第でございます」
ウリエルは椅子から立ち上がった。
「あの、ママ」
声が少し上ずった。
「彼らが先に手を出して人を虐めてたんだ。俺は少し理詰めで文句を言っただけで、その後でその人を一度突いたくらいだ。しかも、そっちの坊っちゃんには触れてさえいないぞ」
執事の視線がこちらへ移った。
「少年」
彼は言った。
「どちらが先に手を出したかは、ひとまず置かせていただきます。若様が驚かれたこと、お付きの者が負傷したことは、事実でございます」
「……」
「もちろん、我々も道理をわきまえた者たちでございます」
執事の口調が、急に慇懃になった。
「誤解があったのならば、腰を落ち着けてお話し合いをするのが筋というものでしょう」
ガラティーナは答えなかった。
ただ、門口の三人を一度、普通に見た。
それから振り返って——ウリエルに向かって言った。
「ウリちゃんのやったこと、正しいよ」
「……」
「打たれて当然よぉ」
声は穏やかで、語調は優しくて、あとは「今夜はご褒美にもう一品増やそうかな」と続きそうな雰囲気だった。
門口の三人が、同時に黙った。
執事が眉をわずかに寄せて、咳払いをした。
「奥様」
彼は再び口を開いた。
今度は、さらに丁寧な声で。
「お子様を思うお気持ち、重々承知いたします」
それから、声音がさりげなく変わった。
「ただ、我が若様はライデン伯爵家のご出身でして。こちらの地域の学院とも長年のお付き合いがございます」
「奥様も当然、お望みにはなりますまい——お子様の、今後の進学に際して、取り返しのつかない支障が生じることには」
「ここはひとつ、中にお入りいただいて、じっくりとお話し合いを」
半歩、前に出た。
「双方にとって納得のいく解決策が、必ずや見つかるかと存じます」
ガラティーナはしばらく考えた。
「そう。じゃあ入って」
素直に脇へ寄って、微笑みながら三人を手で招いた。
執事が慇懃に腰を屈め、貴族の坊っちゃんが顎を上げたまま門を跨ぎ、後ろの巨漢も手を揉みながら割り込んでくるのを見て、ウリエルの内心で警報がけたたましく鳴り響いた。
(薄い本特有の言い回しじゃんか!『奥さん、お子さんの将来がどうなっても〜』って、やめて、ママ、どうして家の中に入れちゃったの、ダメだってば!)
三人の顔を素早く確認した。
いやらしい笑いを浮かべていた。
(……守らないと。このママじゃ)
素早く対策を考えた。
正面から言い返しても、執事は受け付けない。向こうは用意してきている。
ママに一言もらえばいいが——万一彼女が軽く手を出したら、正体が露わになる可能性がある。
「ママ」
ウリエルが「実は向こうが先に動いて——」と言いかけた、その瞬間。
三人が、同時に倒れた。
予兆もなく、完全に揃えて。
三本の丸太を一斉に押し倒したように、床に「どさ、べた、ばた」と三つの鈍い音を立てた。
ウリエルはその場で固まった。
「……ママ」
「うん」
ガラティーナがぱんぱんと手を叩いた。
当然のことをした、という顔で。
「ウリちゃんに打たれた子が大人を連れてウリちゃん**を**虐めようとしたから、ママは彼らを追い払うのよぉ」
地面の三人をちらと見下ろした。
「進学を脅しに使うのも、悪い大人と悪い子の証拠。少しお仕置きしただけ」
「……」
論理は明確。立場は一貫。
どこにも突っ込みどころがなかった。
ウリエルは心の中で喝采を送った。
次の瞬間、理性が戻ってきた。
「ママ」
地面の三人を見ながら言った。
「目を覚ましたら、もっと大事になる」
「うん」
ガラティーナがしゃがんで、一番外側の巨漢の襟を掴んだ。
「じゃあ重ねて外に捨ててこようか?」
「置く場所の問題じゃなくて」
ウリエルは顔を擦った。
「目が覚めてから、これがうちのせいだとわかったら——伯爵家の名前を持ってまた来る。次はもっとめんどくさいことになる」
一拍置いた。
「それに……もし、もっと大きなところに知られたら」
最後の半分は言わなかった。
でも、ママにはわかると思った。
ガラティーナは巨漢を放して、立ち上がった。
少しの間、考えた。
「……そうね」
頷いた。
「じゃあどうしよう」
ウリエルが答えるより前に——彼女はくるりと向きを変えて、台所へ歩いていった。
ウリエルは引き出しが開く音、フライ返しが一度ぶつかった音、続いて別のより鮮明な金属の摩擦音を聞き取った。
ガラティーナが出てきた。
手に、光る菜切り包丁を持っていた。
「……」
ウリエルはその包丁を見た。
ガラティーナが包丁を手に台所から三人の前まで歩いてくるのを、ただ見ていた。
「ママ」
口を開いた。
自分の声が震えていないか、確信が持てなかった。
「何、するの」
「ん?」
ガラティーナが首を傾けた。
とても無邪気な顔をしていた。
「食後にリンゴでも剥いてくれるつもり? 今じゃないし、それ菜切り包丁だし」
ウリエルはその場に立って彼女を見ながら、我慢しきれずにツッコミを入れた。
床に三人が転がっている。
ママの手には包丁がある。
ま、まさか——
口封じ……?
【第十三話・終】
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