↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
117/118

第百十六話:同名の人物

潜入調査のつもりが、いつの間にか舞台に立たされていた。

ウリエルは内心で頭を抱えた。


情報量が違う。余計なことを言えばボロが出る。詳しく話すほど危ない。


彼は咳払いをして、声色を変え、ゆっくりと口を開いた。


「収穫はありました。ですが、まだ確かめるべきことがいくつか残っています」


一拍置いて、遠くの巨大な闘技場の輪郭に視線を向けた。


「まずは『勇者への道』を見に行きます。現地を確認してから、次の段階を決めましょう」




話すほどに自信がなくなり、最後のほうは声がかすかに揺れていた。だが、ルミナはまったく気づいていないようだった。


彼女は真剣に頷き、ウリエルがわずかに安堵する質問を投げかけた。


「魔女様もご一緒なのですね?」


隣のティアンが穏やかに微笑んで頷いた。


ルミナはすぐに注意を任務配分へ戻し、視線を周囲の建物の輪郭の間で素早く走らせ、それから自分の判断を提示した。


「書記官、大聖堂へ向かい教皇を調査いたしたく。フェンリアには聖都衛兵隊の動向を調査させます。ご許可いただけますでしょうか」


ウリエルの心臓がドキリと跳ねた。


大聖堂? 教皇の本拠地?


大聖堂に潜入するのと普通の建物に潜入するのは、まったく別の概念だ。万が一教皇が本当に教団の上層部で、教皇衛兵隊が全員精鋭だったら、ルミナが一人で侵入して何かあったらどうする。


「危険すぎるから行かせない」とは直接言えない。ルミナの戦闘能力は誰よりもよく分かっている。危険を理由にすることは彼女の専門性を疑うことと同じで、かえって書記官が自分を信頼していないと思わせてしまう。


「まずは冒険者ギルドへ向かってください」


ウリエルは慌てて右手を上げ、空中で押し下げる動作をした。


「地元の冒険者ギルドには新しい情報が集まります。まずはそちらから調べてください。大聖堂と衛兵隊については、情報が揃ってから決めましょう」


ルミナは何かを悟ったような表情を一瞬浮かべ、軽く腰を折った。


「謹んでお命に従います。書記官は勇者への道の期間中に教皇の公的な動向を観察し、同時に部下には他のルートで側面情報を収集させる——部下は理解しました」


彼女はキラへ振り向き、二言三言伝えた。


「手配して。三人で分かれて行動する」


三人の少女は躊躇なく、瞬く間に賑やかな通りの人混みに消えた。


ウリエルはその場に立ち尽くした。本当に頭が痛い。


いや、おかしいだろ。休みに入ってまだ数日だぞ。


金雀花ホテルで二十六名の魔法少女に崇拝の眼差しで三日間囲まれ、聖都に逃げてきて温泉でリラックスしようと思ったら、温泉には元カノが浸かっていて、宿には母さんが転送門を開けて布団を畳みに来ていて、通りの向こうには命令を待つ旅団の幹部三人が立っている。


どうしてまた、こんな危険な形で別々に動くことになってしまったんだ。


頼むから、『勇者への道』だけは最後まで見せてくれ。そのあとは何事もなく異世界旅行を終わらせたい。せめて最後くらい平和に。頼む。


この言葉をどこかの神様に向けて心の中で三回唱え、それから深く息を吸い込み、隣のティアンモードの母さんへ顔を向けて笑顔を絞り出した。


「行こう、試合を見に」




勇者への道の試合会場は聖都の郊外にあり、歩いて三十分ほどでようやく遠くに巨大な闘技場の輪郭が見えてきた。近づいてみると遠目で見るよりさらに圧巻だった。目測で高さは少なくとも十数階建てのビルに相当し、アーチ型の門が外壁の底部に整然と並び、人波がさまざまな方向から入り口へ押し寄せていた。


場外は人声でごった返している。空気には小商人が記念品を売る呼び声と、試合を見に来た観客たちの興奮した会話が満ちていた。


ウリエルはチケット売り場でかなり長い時間並んだ。売り場の窓口上には巨大な告知が貼られていて、料金ランクが詳しく記載されていた。


一般席は銀貨20枚、前列席は銀貨50枚、VIP個室は金貨10枚。横には各種学生割引と団体割引の説明が印刷されていた。


(おおっ、学生割引と団体割引まであるのか? なら学生証を探さないと)


彼はポケットから学生証を取り出して窓口に差し入れた。チケット係が学生証を一瞥する。王都第一学院の校章と学科情報がはっきりと印刷されている。銀貨20枚を受け取り、手早くチケットを二枚切って差し出し、定番の「良い観戦を」と添えた。


学生チケットは一枚につき銀貨10枚で、割引率もかなり高い。


彼はそのうちの一枚をティアンに渡し、二人がチケットを手に振り返った途端、一人の人物と鉢合わせた。


キラが姿を変えていた。


仕立ての良い深い青のジャケットとペンシルスカート、シャツの襟元には銀のブローチを留め、前髪は相変わらずあの見慣れた前髪だが、全体の雰囲気が「無口な陰湿オタク女」から「若くして成功した大商人」へワンクリックで切り替わっていた。


「書記官様。VIP席は魔女様の分も含めて、すでにご用意しております」


ウリエルは手に持ったばかりの学生チケットを見下ろし、それから顔を上げてキラを見た。


「もうチケット買っちゃったよ。いらないでしょ」


その口調は、とても誠実だった。なぜなら彼は本当にそう思っていたからだ。


今、自分は最も普通の平民学生の服装をしていて、母さんも普通の学生に偽装している。一般席、人混みに放り込まれても誰も気づかない。キャラ設定に完璧に合致している。


VIP個室は違う。VIP個室に座れるのはどんな人間か? 地元の権力者、外地から来た大商人、教皇の名代として訪れた来賓、もしかしたら各大学院の引率教師や参加選手の家族もいる。


貧乏学生二人が堂々とVIP席に座り込んだら、絶対に無数の視線を引く。万が一VIP個室でセラフィーナと鉢合わせたら、言い訳を即興で作る余地すらない。


キラは反論しようと口を開きかけた。おそらく「どう」とか「いえ」とかの語頭音がすでに出ていた。


彼女はウリエルの地味な学生らしい私服に目をやり、隣に立つルームメイトモードの短髪の魔女へ視線を移した。


彼女は悟った。


これは作戦の一環に違いない。書記官様はすでに全て手配済みで、自分のVIP個室の用意はかえって余計な行為、それどころか書記官の偽装計画を破壊する可能性さえある。自分はさっき、大声で騒ぎ立てるところだった。この天衣無縫の潜伏計画を破壊するところだった。


キラは半歩後退し、姿勢を正し、右手を胸に当て、抑制的で厳粛な礼をした。


「承知しました。VIP席の件は私にお任せください」


ウリエルは困惑の表情を浮かべた。この言葉が一体どういう意味なのか、まったく理解できなかった。だが今の状況ではゆっくり質問している余裕がない。


頷いて、いいよと言った。


キラは彼とティアンをもう一度見て、それから身を翻して列に並ぶ人波の中へ足早に消えた。


ウリエルが振り返ると、ちょうどティアンが売り場脇の軽食屋台から戻ってきていた。腕にたくさんの物を抱えている。


氷で冷やした果汁二杯、香ばしく焼けた肉串の袋、カラフルな紙で包まれた蜂蜜飴玉のバケツ——おそらくポップコーンの代替品——それに応援用の小旗二本、聖都の市章が印刷されていて手に持って振れるやつだ。


彼女はそのうちの一本をウリエルの手に押し込み、それから肉串の竹串から一番大きな肉を剥がし、「あーん」と声をかけながら彼の口元へ差し出した。


ウリエルは周囲の人々をちらりと見て、ティアンの手を叩いた。


「今はルームメイトモードだよ」


ティアンは少し考えて、その肉を自分で食べた。




二人はチケットをチェックして入場し、階段を伝って中列の観客席に着席した。環状の観覧席が層を重ねて上へ積み上がり、ざっと見て数万人は収容できそうだ。観覧席の中央は巨大な楕円形の競技場で、競技場の真上には巨大な魔法投影スクリーンが浮かび、現在の日程情報と選手の名前が表示されている。


放送システムの音声は信じられないほど明瞭で、解説者の声が会場全体に響き渡り、後列の観客でもはっきり聞こえる。


試合はすでに数ラウンド始まっていた。砂地に軽鎧を着た選手が立ち、長剣を手に青い半透明の人影と激しく交戦している。


その人影が英霊だろう。姿はぼやけていて、剣を振るたびに空を裂く風音が響く。


選手の長剣が弧を描き、避けきれなかった英霊の腰を刃が薙いだ瞬間、その姿は激しく明滅し、無数の光の粒となって消えた。


観覧席から歓声が上がり、解説者の声がタイミングよく響き、勝利した選手の番号と名前を発表し、それから次の選手を呼び出し始めた。


ウリエルはティアンが差し出す肉串を噛みながら、心の中でさっきの選手の実力を評価していた。


それから次の選手、また次の選手、次々と続く。レベルは高低さまざまだが、基本的にはどれも悪くない。


まるでNPC同士の闘技場バトルを眺めているような気分だ。


ティアンは隣で静かに試合を見ている。手の果汁カップがもう底に近く、空のカップを足元に置き、また蜂蜜飴玉を一粒取り出してウリエルの口元へ差し出した。


餌やりのリズムが絶妙だ。さっき肉串を差し出した時間間隔とほぼ一致している。


七、八ラウンドの試合を見終えて、選手と英霊の戦闘スタイルはそれぞれ異なり、激しいものもあれば堅実なものもあった。ある選手は英霊に反撃されかけて、最後に極めてトリッキーな地面スレスレの転がりで致命の一撃を避け、反撃の一剣で試合を勝ち取った。


観覧席の歓声が次から次へと湧き上がる。


放送が再び響き、解説者が咳払いをして、響き渡る明瞭な声で次の選手の情報を告げた。


「次の選手——王都第一学院、ウリエル」


ウリエルは肉串を噛む動作を止めなかった。ふと、この名前はどこかで聞いたことがあると思った。


ああそうだ、俺自身だ。


いや、出場登録なんてしてない。たぶん同名だ。


竹串を置き、首をかしげて、独り言を言った。


「他にもウリエルって人がいるんだ。俺の名前って結構モブだな。悪くない」


そんなことを考えているうちに、場内アナウンスがもう一度ウリエルの名を呼んだ。


ティアンが瞬きをして、肘で軽く彼を小突いた。


ウリエルはティアンの表情を見て、それから場内の巨大魔法スクリーンに表示された名前を見た。


王都第一学院。ウリエル。


ウリエルの口がぴたりと止まった。口の中には、まだ飲み込みきれていない肉が残っていた。


場内の観客が静かに次の選手の登場を待っている。解説者がもう一度名前を呼び、その声に戸惑いが混じり始めた。


近くに座っている観客数名がきょろきょろし始めた。おそらく、まだ競技場に現れない選手を探しているのだろう。


ウリエルは周囲の状況とティアンの反応を見て、サッと立ち上がった。


「マジかよ。俺じゃん」




【第百十六話・終】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが気になる!」「笑った!」と少しでも思っていただけましたら、 ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!


ブックマークの登録も、ぜひよろしくお願いいたします! 次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。