第百十五話:旅団集結
教皇は何年も公の場に姿を現さず、謁見した勝者の一部が失踪している。
もしこれが呪縛教団と繋がっているなら、セラフィーナが勇者への道に参加するのは危険すぎる。
ウリエルは決めた。まず現地で観察する。
結局、お腹が空いているかという話は棚上げになった。
ガラティーナはじっとしていられない性分で、ウリエルの洗濯をしに行ってしまった。
そしてウリエルには、もっと重要な考えるべきことがあった。
教皇が何年も姿を現していない。
謁見された人々の一部が失踪している。
もしこの件が呪縛教団と関係しているなら、セラフィーナがこのタイミングでトリドに現れたのは偶然じゃない。
彼女は勇者の道に参加しに来たんだ。
もし彼女が勝てば、次に教皇に謁見する人物になる。
全身に悪寒が走り、背筋が凍りついた。
いや、落ち着け。
これはあくまで推測だ。
教皇が教団の人間だという直接証拠はない。
失踪した勝者たちが何か不測の事態に遭ったという直接証拠もない。
だが逆に考えれば、直接証拠を手に入れた時には、セラフィーナはもう教皇の密室にいるかもしれない。
では、どうする?
一つ目、セラフィーナを直接探して、勇者の道には裏があると伝え、参加を止めさせる。
致命的な欠陥は、彼女が「どうしてそんなことを知っているんですか」と聞き返してきたら、筋の通った説明が何もできないことだ。
二つ目、別の理由を作って彼女を遠ざける。
ここまで考えてウリエルは乾いた笑いを漏らした。
自分はあの女の相手にはまったくならない。
三つ目、自分が勇者の道に出場し、優勝まで突き進み、彼女の代わりに先に教皇に会い、問題を解決してから出てくる。
この案は手っ取り早いが、派手すぎる。
これまで維持してきた「モブ学生」というキャラと完全に矛盾する。
それに本当の主人公補正を持っている誰かに蹴り飛ばされるかもしれない。
しかも万が一教皇が本当に強敵で、母さんが出張ったら、またしても国家級の大事件になる。
前回の事件だってまだ収まってないのに。
折衷案。
現地で試合を見る。
うん、元々そうするつもりだった。
勇者の道の流れを自分の目で見て、教皇の代理人がどんな人物か見て、今年の勝者が誰なのかを見て、その勝者が教皇に謁見する前に接触して、いくつか聞いてみる。
もし問題があれば、そこから動いても間に合う。
なければ取り越し苦労で、タダで現地観戦できたと思えばいい。
「母さん。俺たち、先に勇者の道を見に行こう。現地で状況を観察する」
彼は顔を上げて、浴室で洗濯をしているガラティーナに向かって声をかけた。
「いいわよいいわよ! ママも一緒に見に行く!」
「だだだだダメだって」
喜び勇んだ返事を聞いて、ウリエルは条件を追加した。
「ティアンモードに戻ってくれ。学生の身分で。ルームメイトモードで」
こう手配したのには明確な理由がある。
教皇がもし、とんでもない老いぼれだったら、どれだけ昔からの情報網を握ってるか分からない。
万が一相手が目ざといやつで、本当に教団と関係があったとしたら、その場でかつて暴れ回った聖剣の魔女を認識してしまったら、終わりだ。
だが普通の学生なら話は別だ。
学生の身分は説明しやすい。
聞かれたら「僕は学生でよく分からないんです」で済む。
どこに現れても「旅行に来ました」で説明できる。
しかもティアンモードの母さんは、気質が穏やかな美少年学生にしか見えない。
何の脅威も感じさせず、誰にも警戒されない。
教皇が男の子好きだったら別だが……
ガラティーナは「ルームメイトモード」と聞いた瞬間、ただの喜びだった笑顔を、誇らしげなものへとグレードアップさせた。
声には隠しようもない賞賛が満ちていた。
「ウリちゃんは本当に細やかねぇ。同年代の子と一緒にいる方が親しみやすく見えるし、もしかしたら新しい友達もできるかもしれないわね。女の子とも知り合えるかもしれないし。いいわ、じゃあママはティアンに戻るわ。ティアンがあなたと一緒に勇者の道を見に行くわね」
翌日、ウリエルはほぼ外出しなかった。
一日中宿の客室にこもって、脚本を書き殴った。
もし教皇に本当に裏があるなら、起こりうる突発事態に対応するために、十分な数の、十分に筋が通ったデタラメ台本を事前に用意しておかなければならない。
最低でも魔女に数行の台詞を書いておかないと、彼女が何を言えばいいか分からなくなる。
昼と夜、宿の一階のレストランで食事をする時は、わざとフロアの中央のテーブルを選び、周囲の旅行者の雑談に耳を澄ませた。
勇者の道の前日、トリドの旅行者はほぼ全員が試合目当てだ。
みんなが地元の名物料理を味わいながら、大声で、間もなく開幕する選抜試合について語り合っている。
隣のテーブルでは商人風の旅人たちが今年の有力選手を議論し、向こうのテーブルでは三人家族が明日何時に場所取りに行くか相談している。
王都から来た学生だと知った誰かが、目を輝かせた。
「王都の学生? 君も選手なのか?」
ウリエルは笑って手を振り、いや観客として来たんだと答えた。
食事の合間にティアンへルミナたちの状況を聞いた。
ティアンは食べながら口を開いた。
「彼女たちは後から来るみたいっすね。ルミナさんが魔法少女たちの業務を片付けてからだとか。王都の方にまだ残務があるらしいんすけど。ここ数日、魔法少女たちはみんなすごく頑張ってるっすよ。遠出するって知って、訓練にいつもより積極的になってるんだ」
ウリエルは長く息を吐いた。
王都からトリドまで、普通の馬車なら何日もかかる。
ルミナたちが手元の仕事を片付けてから出発すれば、こちらに着くのは早くても勇者の道が開幕してから一、二日後だ。
誰もが転送門を開いて直接飛んでこられるわけじゃない。
この家には輝光級が一人しかいない。
その輝光級は今、目の前で食事をしている。
勇者の道の開幕当日、聖都トリドの通りは早朝から尋常じゃない賑わいだった。
路地はすでに聖都の郊外へ向かう人波で埋まり、多くの人が選手の名前が印刷された小旗を手に持っている。
小商人が人波の脇で屋台を押しながら食品や冷たい飲み物を売っていた。
教会の鐘はけたたましく鳴り響き、遠近の鐘の音が路地で交錯し、街全体がまるで見えない指揮棒に動かされた巨大なオーケストラのようだった。
彼は普通のシャツを着て、ティアンを連れ、前後になって宿の正面玄関を出た。
ティアンは今日も制服姿で、この格好なら人混みに放り込んでも絶対に誰にも二度見されない。
完璧だ。
ところが二人が宿を出た直後、ウリエルは通りの向こう側に立つ三つの見慣れた影を見た。
彼を見つけると、こちらに向かって歩いてきた。
迫り来る彼女たちを見て、俺の胸は激しく高鳴った。
ウリエルの予定は強制的に中断された。
(彼女たちは明日到着するはずじゃなかったのか)
(えっと……俺、何か移動手段のスピードを読み違えたか?)
ルミナが一歩前に出て、優雅に一礼し、それから恭しく口を開いた。
目には隠しようのない期待が宿っていた。
「書記官。この危機に満ちた街で単独潜入調査をなさったこの数日間、きっと重要な情報を掌握されたことと存じます。私どもはどのような行動を取るべきでしょうか」
ウリエルの視線は無意識にルミナから逸れた。
調査? 収穫?
この数日間、何を調査したか。
温泉の温度と入浴法、冒険者ギルドの日常、聖都のどこの菓子屋台がうまいか、大聖堂の入り口の教皇衛兵が何人いるか。
以上だ。
教皇と教団の実質的情報について、今掌握している情報量はトリドに到着した初日とほぼ何も変わらない。
「ノーコメント」とは言えない。
ルミナは彼の指示を待っている。
フェンリアもキラも高度に集中した待機状態だ。
フェンリアの尻尾は普段のように振り回されておらず、キラも短髪の魔女をじっと見つめていない。
最低限、即興で一つ作らなければ。
【第百十五話・終】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが気になる!」「笑った!」と少しでも思っていただけましたら、 ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!
ブックマークの登録も、ぜひよろしくお願いいたします! 次回もよろしくお願いします!




