第百十四話:聖都トリド、ママが夜中に襲来する
聖都トリドを満喫し、明日はいよいよ勇者への道。
湯上がりのウリエルが部屋に戻ると、そこにはなぜか母がいた。
ウリエルは更衣室でひとしきり笑ってから服に着替えて出た。
フロントの女の子は彼が出てきた時、まだ明らかに「先輩と先輩の彼氏を同じ浴槽に入れて大事故寸前だった」という失態をまだ引きずっていた。
店の備品を回収する手が震えている。
ウリエルは機嫌が良かったし、勤労学生は大変だと思ったので、銀貨十枚をチップとして追加で渡した。
女の子が銀貨を受け取った表情は、まるで免罪符を授かったかのようだった。
その後二日間、ウリエルは聖都トリドで回れる場所を全て回り尽くした。
聖都は大聖堂と温泉以外にも見どころが多い。
聖遺物博物館には歴代教皇が使用した聖器が展示され、大鐘楼は頂上まで登れば街全体を見渡せる。
ただし階段は一人通るのがやっとなほど狭い。
冒険者ギルドにも足を運んだ。
聖都の支部は王都より小さく、雰囲気もずっと緩い。
フロアにはクエストの達成報告をする行列もなく、隅のテーブルで若い冒険者数名がトランプをしていて、その中の一人は顔中に紙切れを貼られていた。
明らかに午後ずっと負け続けている。
ウリエルは冒険者の日常を見学するつもりで入ったのだが、入った途端に目ざとい酒場の店員に訛りを見抜かれ、「王都から? こりゃ珍しい客だな」と声をかけられて、トランプをする若手全員が一気に集まってきた。
彼らは一斉にウリエルを囲み、王都の学院について聞き出そうとした。
何かの噂を確かめようとするように。
顔に紙切れを貼られた、負け続けていた男が景気良く全員分の酒代を奢った。
「銀級、いや金級まで? 学院の学生が? 卒業前にそのランクなのか?」
髪がぼさぼさの痩せた背の高い男が、化け物を見る目でウリエルを見た。
「すげえな」
麦わらを咥えた小柄な冒険者が椅子の背もたれに寄りかかって感嘆した。
声には嫉妬ではなく、純粋な尊敬だけがこもっていた。
「あっちはたった一、二か月で、俺たちが何年もかけて辿り着くランクまで行くのかよ」
髭面の中年冒険者が言い終えると、一口酒をあおった。
ウリエルは自然に話を「勇者の道」に向けた。
セラフィーナから聞いた情報を確認したかったし、地元の具体的な事情も聞いておきたかった。
若い冒険者たちはその話題になると手を振って、口々に言った。
自分たちの実力じゃ無理だ、石級か鉄級の対決なんて酒場の酔っ払いの喧嘩を見た方がマシだ、恥さらしもいいところだ。
でも観客としてなら行ける。
会場は城の郊外にあって、歩いてすぐだ。
毎年勇者の道の期間中は、街中の冒険者が観戦に走って、ギルドの依頼数も半減する。
ウリエルが会場の場所を聞くと、顔に雀斑の残る剣士が窓の外のある方角を指して、どこの通りのどこの路地を曲がったところだと答えた。
ウリエルは指された方角を記憶の中で辿った。
あの、自分が闘技場跡かと思っていた聖都のランドマーク。
あれは歴史遺跡じゃない。
勇者の道の試合会場だったのか。
現代のスタジアム並みに大きい。
明後日、正式に始まる。
ウリエルは指を折って数えた。
あと二日か。
ここまで来たんだ、見てから帰ろう。
ルミナと母さんなら大丈夫だろう。
出発の時にあそこまではっきり言ったんだから、数日待ってもらったくらいで動揺するほどヤワじゃない。
その日の晩、彼は宿の近くの小さな食堂で地元名物のボボ牛のステーキを食べ、街角のスイーツ屋台で蜂蜜イチジクを買って宿に持ち帰り、夜食にした。
宿に戻った時にはすっかり真っ暗になっていた。
通りの人波はだんだん消え、教会の鐘の音だけが正時に鳴り響き、その余韻が路地に響き渡った。
今日は満喫した。
この数日間、聖都を駆け回って観光し尽くしたせいで、宿に戻る頃には毎日汗だくだ。
珍しく今夜は早めに帰れたから、シャワーの下に立って長い時間お湯を浴びた。
全身の毛穴が熱気を吐き出している気がした。
洗い終わると、手を横に伸ばした。
タオル掛けは空っぽだった。
ここ数日一人暮らしに慣れすぎて、風呂に入る前に着替えを持ち込むのを忘れていた。
でもまあいい。
部屋には自分一人しかいないんだ。
出てから服を着ても同じだろう。
彼はバスタオルを巻いてバスルームから出た。そこで足が固まった。
ガラティーナが自分のベッドのそばに立っていた。
腰をかがめて、シーツの皺を一つ一つ丁寧に撫でて伸ばしている。
口元には薄い笑みを浮かべ、口ずさんでいるのは、彼が百回は聞いた子守唄だった。
静かな部屋の中でメロディーがふわふわと漂っている。
ウリエルは浴室の入り口に立ったまま、頭の中に一行の文字が流れていった。
(俺、服を着ていない)
ガラティーナは物音に気づいて動きを止め、振り返った。
二人の視線が空中で交錯した。
ウリエルの口が脳より先に動いた。
「どうして来たんだよ」
「あら」
ガラティーナは彼の姿を見て、まず小さく声を上げ、さっきより笑顔が一回り大きくなった。
「ウリちゃん、先に服を着て。風邪引いちゃうわよ」
そう言いながら彼女はベッドの端からウリエルの清潔な服を取って手渡し、そして万年不変の黄金コンボが始まった。
「お腹空いてない? ここのご飯、お口に合ってる? ママが何か作ってあげようかぁ——」
一方的に話しながらテーブルに歩み寄り、彼がテーブルに置いたまだ食べ終わっていないイチジクの箱を点検し始めた。
「これ、すっごく甘いわねぇ。足りてる? 他にも何か食べるぅ?」
ウリエルは服を猛スピードで着終えた。
彼は「お腹が空いているか」という質問にも「ちゃんと食べているか」という質問にも答えず、再び聞いた。
「何しに来たんだって。何かあったのか? また転送門を開けて、ちょっと顔を見に来ただけか」
ガラティーナはその言葉を聞いて、まず首をかしげ、それからぼんやりした表情を浮かべた。
頭のアホ毛が跳ね上がり、全身が「あれ、何かあったんだっけ」というポーズで固まった。
それから彼女はポンと手を叩いた。
パシンと鋭い音がした。
「思い出した! ルミナが心配してるって言ってたから、ママが先に見に来たのよ」
ウリエルは枕の上に倒れ込んだ。
(ルミナ? 心配? あのルミナがトイレの前で待ち伏せして「謹んでお命に従います」と教科書の暗唱よりも即答した時、あの顔には、心配してる様子なんて一ミリもなかったぞ)
(彼女が何か言ったことが母さんの耳に入った途端に「心配」に変換されたんじゃないのか)
「何が心配なんだよ。旅行——じゃなくて情報収集に来たって言っただろ? 安全だし、何の問題もないって」
ガラティーナも疑問そうな様子になった。
「でもルミナがぁ、トリドも呪縛教団の根城かもしれないって言ってたのよぉ?」
ウリエルの表情が顔に張り付いた。
数秒経ってから声が出た。
「は?」
「あなたが出発してから、ルミナが王都でトリドの情報をたくさん調べたのよ。ママは全部覚えてないけど、すごく大事なことがいくつか分かったって。何だったかしら……うーん」
ガラティーナは人差し指を顎に当て、首をかしげて少し考え、目が輝いた。
「あ、そうだ。一つはね、教皇が何年も公に姿を現していないって。全部代理人が公的な活動を担当してるの。勇者の道で優勝した人だけが、教皇に謁見できるんですって」
ウリエルは今のところ特に不自然だとは思わなかった。
何かの宗教的伝統だろう。
「でもね、教皇に謁見した人たちの中に、何人かいるのよ」
彼女はもう一本指を立てた。
「その後、突然消息が途絶えた。誰もその人たちがどこに行ったか分からないの」
ウリエルは微かに眉をひそめた。
教皇が何年も姿を見せず、勇者の道の勝者だけが謁見できる——これは大聖堂の広場で聞いた通行人の会話と完全に一致する。
だが謁見後に一部の人間が行方不明になる、この点は聞いていなかった。
いや、自分だけじゃない。
あの酒を奢ってくれた若い冒険者たちも明らかに知らなかった。
彼らが勇者の道について語る時、声には憧れと夢しか乗っていなくて、警戒心のかけらもなかった。
「じゃあ残りの人たちは? 一部が失踪しただけだって言ったよな?」
ウリエルはこの恐ろしい推論に反論する理由を探した。
ガラティーナは頷き、相変わらずゆったりとした口調で言った。
「ほかの人たちはねぇ、ルミナがまだ調べてるのぉ」
ウリエルは言葉が出なくなった。
教皇に謁見した勝者の一部が失踪した。
この事実だけで十分に鳥肌が立つ。
それに加えて教皇が何年も姿を現していないことを並べて見れば、どう考えても偶然には見えない。
せめて、あのチャンピオンたちが実力を上げようと無茶して、ダンジョンで遭難したとか、その程度であってほしい。
そして彼がベッドの縁に座って眉を寄せている間に、ガラティーナは恐ろしい話をし終えると、軽く手を叩いて、また自然に最初の話題に戻った。
まるで、さっき話していた連続失踪や教皇庁の闇など、夜食一つより重要じゃないかのように。
「ウリちゃん、お腹空いてない? ママが下の厨房でコンロ借りて、何か作ってあげようか?」
【第百十四話・終】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが気になる!」「笑った!」と少しでも思っていただけましたら、 ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!
ブックマークの登録も、ぜひよろしくお願いいたします! 次回もよろしくお願いします!




