第百十一話:実家からの逃走
「母さん。俺にとって、この世界に母さんより優れた女性はいない」
その究極の必殺技は、母のフィルターを通った瞬間、最悪の形で暴走した。
石の上にも三年どころか、千年待っても終わらないような絶望的な時間を経て。
ウリエルは依然としてソファで顔を掌に埋める姿勢を保っていた。
「後悔先に立たず」と名付けられた彫刻のように。
これでますます面倒なことになった。
一本しかなかった逃げ道が、両方とも塞がれた。
彼女に「さっきのは冗談だ」と言う?
ダメだ。
母さんの理解方式では、この「冗談」の指向は完全に彼のコントロール外だ。
八割方「ウリちゃんが母さんを好きって言ったのは冗談だから、母さんは自分を基準にしなくていい。みんな今のままで良い」と理解して、現状維持。
枕投げ継続、嫁育成継続、毎朝ハート型目玉焼きと「腰は痛くない? ママが揉んであげる」継続。
もう一方は?
「そういう意味じゃない」と言う?
そこで問題が来る——どういう意味だ。
彼女が「じゃあウリちゃんは一体どういう意味なの?」と追及したら、どう答える。
俺は……母さんのことが好きだ?
ワオォーッ!
ウリリ彫刻が、ついに動いた。
言葉で説明できないなら逃げる。
後で機会を見つけて、別ルートから攻める!
彼は一目散に腰を曲げて靴を履いた。
靴紐を結ぶのが飛ぶように速い。
指が二回転して引っ張ると、普段より倍以上手際が良い。
「ウリちゃん? どこ行くのぉ? ママも一緒に行くよぉ」
ガラティーナは音に気づいて、また部屋のドアを開けて顔を出した。
ウリエルは振り返りもせず、また一目散に階段の入口まで走って、慌てて逃げ出した。
「栗買ってくる。一人で行くから」
栗を買う口実で、ウリエルは王都の街頭に飛び込んだ。
彼は商業街に沿って無目的に歩いた。
これからの日々がどれほど耐え難いか完全に想像できた。
あの三人の少女は絶対に母さんから、極めて恐ろしい嫁特訓を受けるだろう。
遠くに逃げないと。
王都を離れて、母さんが見つけられない、あるいは少なくとも簡単についてこられない場所でしばらく過ごす。
嫁育成計画の熱が冷めたら、戻って、機会を見つけて話を元に戻す。
ウリエルは平民学生仕込みの聞き込み能力を存分に発揮した。
商業街の掲示板の前でしばらく立ち、よく行く酒場でしばらく座り、最後に冒険者ギルドのホールに回った。
どこへ行っても人と数言交わし、尋ねるのは全て同じこと。
王都周辺でおすすめの観光地はないか。
得られたおすすめは多種多様だった。
ある果物を売る女将は王都が良いと言った。
王城の方の庭園広場、中央区の商業街、数日間回るには十分だと。
酒場の隅で、ある冒険者がテーブルを叩いてラシ大森林を推薦した。
そこの樹冠歩道は大陸屈指の自然景観で、亜人の村に客として行けるとも。
彼が興に乗っているところ、酒場の隅で竪琴を抱いた吟遊詩人が適当にコードを弾き、口でメロディーを口ずさんだ。
「lahee~」
それから数人の酔った冒険者が一緒に適当に口ずさみ始め、調子が天の彼方に飛んでいった。
ギルドのカウンター脇に座っていた老冒険者は、ゆっくりと言った。
若いの、度胸があるならダンジョンだ。
あそここそ本当の冒険者が行くべき場所で、各層が異なり、最深部まで行けば普通の人が一生見られないものが見られると。
具体的に何かと聞くと、もう言わず、へへと笑って杯を持って飲み続けた。
冒険者ギルドの受付員は微笑んでチラシを差し出した。
「聖都トリドですね。歴史や文化に触れたいなら、あちらが最適です。それに、そこの天然温泉は全大陸で有名ですよ」
ウリエルは現状に基づいて合理的に分析した。
王都はやめだ。
そもそも遠くに逃げるつもりなのに、市内をうろつくのは観光じゃなくて散歩だ。
ラシ大森林——さっきあの古代樹海から這い出したばかりで、短期間でこの種の生息地に再訪する意欲は全くない。
地下城は良さそうだが、一人で地下城に潜るなんてことの冒険レベルは明らかに「普通の学生」というキャラの範囲を超えている。
聖都トリド。
人文景観、温泉、王都から十分遠い、穴に潜る必要もなく木に登る必要もない。
それに名前を聞いただけで光明と治癒を重んじる場所だ。
あのいかがわしい暗殺や教団の陰謀は絶対にあそこまで浸透できない!
そこで温泉に浸かれば、絶対に避難の天国だ!
これに決めた。
ウリエルが冒険者ギルドから出た時、空はすでに暗くなっていた。
二、三歩歩いてから突然思い出した。
栗を買うと言っていた。
だが栗の屋台は閉店していて、道中で口が寂しくて食べ終わったとしか言えない。
金雀花ホテルの最上階に戻ると、ガラティーナはリビングのソファに座って何かを編んでいた。
顔を上げてウリエルを見た最初の一言がこれだった。
「ウリちゃん、栗を買うのにこんなに時間かかったのぉ? 何かあったの?」
ウリエルはすぐに背筋を伸ばし、両手を身の前で組み、あの冷酷な書記官の態度を取った。
「情報収集に行った」
「あらぁ、お疲れさま」
ガラティーナは手に持っていた半分編んだものを置き、魔女モードに切り替えて彼の芝居に乗る気配は全くなく、ただ立ち上がって近づいて彼を見て、手を伸ばしてウリエルの頬に触れた。
「疲れてない? お腹空いてない? ママ、スイカ切ろうかねぇ?」
ウリエルはせっかく取った態度が瞬時に詰まり、彼女が振り返ってキッチンに入り、氷桶から丸々としたスイカを取り出すのを見守った。
それから小さく小さく切って、ついでにスイカの種を取り除き、皿に盛って運び出した。
ウリエルは黙ってスイカを一切れ手に取って一口かじった。
最高だ。
一切れまた一切れ食べて、三切れ目を手に取った時にようやく状態を整え直した。
「魔女」
ガラティーナは横で切り続けていた。
ウリエルが食べただけまた切って皿に追加する。
彼が突然正式な呼称で呼ばれて一瞬固まった。
「うん?」
「書記官は遠出する。非常に重要な事務を処理するためだ」
「どこに行くのぉ? どれくらい? 誰と一緒に?」
ガラティーナは手のスイカを空中に掲げ、三連追及。
「他の都市に行く」
ウリエルは書記官モードを保ち、口調は事務的だ。
「正義を伸張し、旅団の信条を貫くため。一人で行く」
「じゃあママも——」
「魔女」
「じゃあ魔女があなたと一緒に——」
「魔女」
ウリエルは慌てて手を振り、用意していた言い訳を投げ出した。
「今回の行動は単独執行が必要だ。人が多いと敵に察知されやすい。お前はここに残って、ルミナたちを連れていろ。これは書記官の判断だ」
ガラティーナはスイカを皿に戻し、指先で指を拭い、顔を上げて彼を見た時、目にはさっきのような構わずついて行きたいという熱意が消え、代わりに一層の真剣な心配があった。
「それで危険があったらどうするの?」
ウリエルは本来「俺は成人男性だぞ、出かけて何の危険があるんだ」と言おうとしたが、喉元まで出かかった言葉を咄嗟に飲み込み、別の言葉にすり替えた。
いつも親と冗談で反論する口調で、適当に極めて恥ずかしい条件をでっち上げた。
「じゃあ俺が三回『聖剣の魔女』と叫ぶ。お前が転送門を開いて俺の側に来い」
この返答の裏の意味は「安心しろ、何も起きない」で、普通の親はこれを聞いて笑って「ふざけないの」と言う。
だがウリエルは一つのことを忘れていた。
彼の母親は普通の親ではない。
ガラティーナは躊躇なく承諾した。
「いいよ」
ウリエルは、またしても自分がとんでもない巨大な墓穴を掘ってしまったような気がしたが、今はもう深く考えるのをやめた。
(構うもんか。掘ったら掘ったで。最悪聖都にいる時に注意して、「聖剣の魔女」に関わる言葉を口にしなければいいだけだ)
彼は母さんに「明日出発する」と告げ、ついでに皿のスイカを何切れも口に詰め込んで、立ち上がって部屋に戻った。
その夜、ガラティーナは部屋で箪笥を引っくり返し、彼の荷物袋を満杯に詰めた。
ただウリエルは旅団メンバーの鋭い目から逃れられなかった。
ちょうどトイレを済ませて、ドアを押して出ようとした時、トイレのドアが開くと、入口に人が立っていて、彼はビクッと飛び跳ねた。
幸いルミナだった。
彼は心の中で悪態をついた。
(誰が夜中にトイレの入口で人を待ち伏せるんだ!)
ルミナは直接本題に入った。
「書記官が出行されます。我々はどのような協力が必要でしょうか?」
ウリエルは手の水滴を振り払い、無表情で彼女を見た。
「お前たちは引き続き王都で行動を展開しろ。あの教団の王都における残党を徹底的に殲滅することを確実にしろ。俺の単独行動に人が多いと、絶対に隠れている敵を驚かせる」
ルミナは静かに聞き終え、全く余計な疑いを持たなかった。
「御意のままに」
やはり、ルミナを相手にするのは母さんを相手にするより楽だった。
翌朝早く。
馬車駅の早朝便はすでにもうすぐ発車だった。
プラットフォームにはまばらに数人の旅客が立ち、馬車の御者が車の屋根に最後の荷物を縛りつけている。
ウリエルは馬車の横に立ち、肩に母さんが夜通し詰めた荷物袋を掛け、手には布で包んだ弁当を持っていた。
ガラティーナは彼と一緒に駅まで来て、見送ると言った。
彼が車に乗ってから帰ると。
「着いたらちゃんとご飯食べるんだよぉ。好きなものを食べていいけど、お腹壊さないでね。弁当にはママの作った目玉焼きサンドイッチが入ってるから、車の中で食べられるよ。冷めても大丈夫。服が汚れたら宿屋に頼むか、ママを呼んで洗ってもらって。溜め込んじゃダメだよぉ。お金は足りる? 足りなかったらママ、ここにまだ——」
「足りる。足りる」
ウリエルは母さんが虚空から金を取り出し始める前に、袖を彼女の手から静かに引き抜き、振り返って一歩で馬車に乗った。
車両のドアが彼の後ろで閉まる。
彼は荷物を隣の空席に置き、車窓から外を見た。
ガラティーナがプラットフォームに立ち、彼に手を振っている。
プラットフォームが車窓の外でゆっくり後退し、ガラティーナはつま先立ちでもう二回手を振り、それから沿道の建物に遮られた。
ウリエルは座席の背もたれにもたれかかり、弁当を膝の上に置き、長く息を吐き出した。
この息は何日も溜め込んでいたが、ついにこの瞬間に全て吐き出された。
馬車が王都の城門を通過する時、彼は車窓を少し開けた。
窓の外で次第にまばらになる建物と遠くでゆっくり広がる平原を見つめ、それから手を上げて、自分の顔の半分を覆った。
肩が制御不能に激しく震え始め、一陣の傲慢な忍び笑いが指の隙間から漏れ出た。
「ひひひ。金鱗豈池中の物ならんや、一たび風雲に遇えば便ち竜と化す」
【第百十一話・終】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが気になる!」「笑った!」と少しでも思っていただけましたら、 ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!
ブックマークの登録も、ぜひよろしくお願いいたします! 次回もよろしくお願いします!




