第十話:箱庭の日常
結局、旅団の増員はピタリと「三人」で止まり、ウリエルが密かに覚悟していた「五色戦隊」や「超次元サッカーチーム」の出番は永遠に失われた。
それは小さな名探偵にとって嬉しい誤算だったが——平穏な箱庭の日常は、ルミナの素朴な疑問で予期せぬ方向へ転がる。
「魔女になる前の私たちは、何と呼ばれるべきか?」
その問いに、ウリエルは前世の記憶の隅から、何の気なしに一つの言葉を拾い上げた。
そして、その場のノリで与えた「魔法少女」というクラス名が、彼の預かり知らぬところで、少女たちの間で厳かな正式名称として定着していくのだった。
ウリエルは縁側に座って、庭の三人の少女の背中を眺めながら、一つのことを真剣に考えていた。
称号が要る。
旅団というものは、名前があるだけでは足りない。
中核メンバーには称号が必要だ。基本中の基本だ。
三人。
なら——「三幻神」だ。
心の中で膝を打った。
完璧だ。ちょうど三人で、髪色も緑・青・赤と三色揃っている。
それからふと思った。
ママがまた誰かを拾ってきたら、どうする。
四人なら、四天王。
もっと増えたら——
五人なら、五色戦隊。
七人になったら、七人衆。
もし本当に十一人まで膨らんだら。
(イナズマイレブンだ)
ウリエルは空を見上げた。
(それだけはやめてほしい。サッカーをしなきゃいけなくなる)
結果として、杞憂だった。
その後の三年間、旧い家の人数は五人のまま変わらなかった。
多くもなく、少なくもなく。
五色戦隊の枠は永遠に空き、サッカーチームは永遠に笑い話で終わり、四天王も出番がなかった。
それはそれで、悪くなかった。
三年というのは、長いようで、短い。
旧い家は賑やかになった。
縁側に座って中の声を聞いていると、ウリエルは時々、自分がおっさん転生者だという事実を忘れた。
かなり徹底的に忘れた。
ガラティーナがこれだけの子供たちを受け入れたことに、ウリエルは一度だけ疑問を持った。
あまりにもすんなりしすぎていて、ちゃんと考えたのかと思えなかったから。
聞きに行くと、彼女はちょうどフェンリアの毛を梳かしていた。
手つきは熟練していた。一生やってきたかのように。
フェンリアは別人のようにおとなしくなって、足元に丸まっていた。
「どこが窮屈なの」
ガラティーナは俯いて、耳をぴくぴくさせているフェンリアを見た。
「ちょうどいいと思うんだけど」
後になって、ルミナが本を読みながら、平然とした顔で何気なく漏らした。
「魔女様がね、私たちはいずれ家族になるんだから遠慮しないでって」
ひと呼吸置いて、付け加えた。
「あと、ウリちゃんに『あなたたちに優しくしてあげて』って」
「俺がいつ優しくしてないんだよ」
「してないことはない」
ルミナは真面目に答えた。
「だから将来の話をしてたんだと思う」
ウリエルは彼女の静かな横顔を見て、この言葉のどこかがおかしい気がして、考え込んだ。
(……ママ、あの子たちに一体何を言ったんだ)
ある午後、ガラティーナが窓際で独り言をつぶやいているのが聞こえた。
旧い家は防音などというものを知らなかった。
「これ、少し詰めればルミナちゃんにちょうどいいわねぇ」
「フェンリアちゃんのはしっかり縫ってあげないと、走るとすぐ傷んじゃうしぃ」
そこで一瞬、間が空いた。
「……ウリちゃんの将来のお嫁さんが、みすぼらしい格好じゃ困るし」
廊下のウリエルの足が止まった。
(……)
(ママ、まだそれ覚えてたの。もしかして嫁候補を集めてたつもり?)
彼はそっと扉を引いて、何も聞かなかったことにして、逃げた。
三年は、あっという間に過ぎた。
ルミナはウリエルが適当に並べた「魔女旅団」の理念を経典のように扱い、自ら布教を始めた。
庭に立ち、緑の髪を風になびかせて、彼が物語を語った時よりもよほど厳かな口調で宣言した。
「旅団の信条は三つ。一、悪を討ち、正義を守ること。二、強さをもって弱者を虐げないこと。三、魔女様と書記官様の導きに従うこと」
フェンリアは両耳をぴんと立てた。
「了解!」
キラは無表情のまま聞いていて、少し経って、静かに頷いた。
ウリエルは縁側で頬杖をつきながら、内心冷や汗をかいていた。
(ルミナ、あれは君たちをなだめるために適当に作った話なのに、俺が語った時よりずっと様になってる……)
フェンリアはウリエルが口にする変な発明に一番食いついた。
滑車、てこ、貯水機構——「え、そんなことできるんですか!?」という目は毎回本物だった。
「書記官様、これ試してみていいですか!」
「いいよ。手を挟まないように」
「はーい!」
キラは口数が少なかった。
でも、何かの仕組みについてウリエルが話すたびに、黙って聞いていた。
口も挟まなかった。
数日後、びっしり書き込まれた紙を持って現れた。
「ここが、わからなかった」
「どこが?」
「……全部」
ウリエルはその紙を受け取って、ざっと見渡した。
問いが次々に連なり、きれいに並んでいた。
(この子の頭、本当にとんでもない)
三人ともガラティーナの戦闘実演には毎回、最高密度の崇拝を捧げた。
「さすが魔女様——!」
「……あの動作の効率、通常の術式を遥かに超えている」
「わわわわわ!」
ガラティーナが実演を終えて振り返ると、目を細めた。
「みんな上手だったね。ちゃんと見れた?」
ウリエルは隣で、いつも通りの顔をしていた。
ある夜、彼は彼女に聞いた。
「ママ、俺たちが何の遊びをしてるか、わかってる?」
ガラティーナは小さな服を縫っていた。
銀髪が耳のそばに垂れていた。
「遊びでしょ。ウリちゃんがお話を作って、みんながその決まりに従って動いてる。違う?」
「……そう見えるんだ」
「違うの?」
彼女は顔を上げて、あたりまえのように笑った。
「子供には子供の世界があるんだから、ママが全部わからなくていい」
一拍置いて。
「でも、みんないい子」
「うん」
「ウリちゃんも、いい子」
「……ママ、もう十二だよ」
「うん、いい子」
ウリエルはもう何も言わないことにした。
いい子でいい。いい子で。
十二歳になったある午後、ルミナが彼を探しに来た。
「書記官」
「なに」
「一つ聞いていいですか」
いつものように向かいに座って、真剣な顔をした。
「魔女は、魔女になってから魔女と呼ばれる」
(何を言い出すんだこれは)
ウリエルは一瞬固まった。
「……そうだな」
「では、魔女になる前は、何と呼ぶんですか」
ウリエルは眉を寄せた。
(この問いはどこから来たんだ)
「見習い魔女?」
ルミナが自分で続けた。
「私たちの今の状態は、厳密には魔女とは言えない。修行は途中で、信条も実践できていない……」
ひと呼吸。
「だからこの段階に、正式な呼び名があるのかと思って」
ウリエルは頭をかいた。
この問い、たしかに妙だ。
記憶の隅から、一つの言葉が浮いてきた。
「魔法少女」
彼は言った。
「そう呼ぶ」
ルミナはきょとんとした。
それから、その名前を口の中で転がした。
目がわずかに輝いた。
「……魔法少女」
「うん」
「この名前」
声に、珍しく熱がこもった。
「とても、いいと思います」
言い終わると、立ち上がってさっさと行ってしまった。
(急に聞いてきたと思ったら。まあ、みんな女の子なんだし、魔法少女でいいか)
【第十話・終】
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