表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/68

第十話:箱庭の日常

結局、旅団の増員はピタリと「三人」で止まり、ウリエルが密かに覚悟していた「五色戦隊」や「超次元サッカーチーム」の出番は永遠に失われた。


それは小さな名探偵にとって嬉しい誤算だったが——平穏な箱庭の日常は、ルミナの素朴な疑問で予期せぬ方向へ転がる。


「魔女になる前の私たちは、何と呼ばれるべきか?」


その問いに、ウリエルは前世の記憶の隅から、何の気なしに一つの言葉を拾い上げた。

そして、その場のノリで与えた「魔法少女」というクラス名が、彼の預かり知らぬところで、少女たちの間で厳かな正式名称として定着していくのだった。

ウリエルは縁側に座って、庭の三人の少女の背中を眺めながら、一つのことを真剣に考えていた。


称号が要る。


旅団というものは、名前があるだけでは足りない。

中核メンバーには称号が必要だ。基本中の基本だ。


三人。


なら——「三幻神」だ。


心の中で膝を打った。

完璧だ。ちょうど三人で、髪色も緑・青・赤と三色揃っている。


それからふと思った。


ママがまた誰かを拾ってきたら、どうする。


四人なら、四天王。


もっと増えたら——

五人なら、五色戦隊。

七人になったら、七人衆。

もし本当に十一人まで膨らんだら。


(イナズマイレブンだ)


ウリエルは空を見上げた。


(それだけはやめてほしい。サッカーをしなきゃいけなくなる)




結果として、杞憂だった。


その後の三年間、旧い家の人数は五人のまま変わらなかった。

多くもなく、少なくもなく。


五色戦隊の枠は永遠に空き、サッカーチームは永遠に笑い話で終わり、四天王も出番がなかった。


それはそれで、悪くなかった。




三年というのは、長いようで、短い。


旧い家は賑やかになった。

縁側に座って中の声を聞いていると、ウリエルは時々、自分がおっさん転生者だという事実を忘れた。

かなり徹底的に忘れた。


ガラティーナがこれだけの子供たちを受け入れたことに、ウリエルは一度だけ疑問を持った。

あまりにもすんなりしすぎていて、ちゃんと考えたのかと思えなかったから。


聞きに行くと、彼女はちょうどフェンリアの毛を梳かしていた。

手つきは熟練していた。一生やってきたかのように。

フェンリアは別人のようにおとなしくなって、足元に丸まっていた。


「どこが窮屈なの」


ガラティーナは俯いて、耳をぴくぴくさせているフェンリアを見た。


「ちょうどいいと思うんだけど」




後になって、ルミナが本を読みながら、平然とした顔で何気なく漏らした。


「魔女様がね、私たちはいずれ家族になるんだから遠慮しないでって」


ひと呼吸置いて、付け加えた。


「あと、ウリちゃんに『あなたたちに優しくしてあげて』って」


「俺がいつ優しくしてないんだよ」


「してないことはない」


ルミナは真面目に答えた。


「だから将来の話をしてたんだと思う」


ウリエルは彼女の静かな横顔を見て、この言葉のどこかがおかしい気がして、考え込んだ。


(……ママ、あの子たちに一体何を言ったんだ)




ある午後、ガラティーナが窓際で独り言をつぶやいているのが聞こえた。

旧い家は防音などというものを知らなかった。


「これ、少し詰めればルミナちゃんにちょうどいいわねぇ」

「フェンリアちゃんのはしっかり縫ってあげないと、走るとすぐ傷んじゃうしぃ」


そこで一瞬、間が空いた。


「……ウリちゃんの将来のお嫁さんが、みすぼらしい格好じゃ困るし」


廊下のウリエルの足が止まった。


(……)

(ママ、まだそれ覚えてたの。もしかして嫁候補を集めてたつもり?)


彼はそっと扉を引いて、何も聞かなかったことにして、逃げた。




三年は、あっという間に過ぎた。


ルミナはウリエルが適当に並べた「魔女旅団」の理念を経典のように扱い、自ら布教を始めた。

庭に立ち、緑の髪を風になびかせて、彼が物語を語った時よりもよほど厳かな口調で宣言した。


「旅団の信条は三つ。一、悪を討ち、正義を守ること。二、強さをもって弱者を虐げないこと。三、魔女様と書記官様の導きに従うこと」


フェンリアは両耳をぴんと立てた。


「了解!」


キラは無表情のまま聞いていて、少し経って、静かに頷いた。


ウリエルは縁側で頬杖をつきながら、内心冷や汗をかいていた。


(ルミナ、あれは君たちをなだめるために適当に作った話なのに、俺が語った時よりずっと様になってる……)




フェンリアはウリエルが口にする変な発明に一番食いついた。

滑車、てこ、貯水機構——「え、そんなことできるんですか!?」という目は毎回本物だった。


「書記官様、これ試してみていいですか!」


「いいよ。手を挟まないように」


「はーい!」


キラは口数が少なかった。

でも、何かの仕組みについてウリエルが話すたびに、黙って聞いていた。

口も挟まなかった。


数日後、びっしり書き込まれた紙を持って現れた。


「ここが、わからなかった」


「どこが?」


「……全部」


ウリエルはその紙を受け取って、ざっと見渡した。

問いが次々に連なり、きれいに並んでいた。


(この子の頭、本当にとんでもない)


三人ともガラティーナの戦闘実演には毎回、最高密度の崇拝を捧げた。


「さすが魔女様——!」

「……あの動作の効率、通常の術式を遥かに超えている」

「わわわわわ!」


ガラティーナが実演を終えて振り返ると、目を細めた。


「みんな上手だったね。ちゃんと見れた?」


ウリエルは隣で、いつも通りの顔をしていた。




ある夜、彼は彼女に聞いた。


「ママ、俺たちが何の遊びをしてるか、わかってる?」


ガラティーナは小さな服を縫っていた。

銀髪が耳のそばに垂れていた。


「遊びでしょ。ウリちゃんがお話を作って、みんながその決まりに従って動いてる。違う?」

「……そう見えるんだ」

「違うの?」


彼女は顔を上げて、あたりまえのように笑った。


「子供には子供の世界があるんだから、ママが全部わからなくていい」


一拍置いて。


「でも、みんないい子」

「うん」

「ウリちゃんも、いい子」

「……ママ、もう十二だよ」

「うん、いい子」


ウリエルはもう何も言わないことにした。

いい子でいい。いい子で。




十二歳になったある午後、ルミナが彼を探しに来た。


「書記官」

「なに」

「一つ聞いていいですか」


いつものように向かいに座って、真剣な顔をした。


「魔女は、魔女になってから魔女と呼ばれる」


(何を言い出すんだこれは)


ウリエルは一瞬固まった。


「……そうだな」


「では、魔女になる前は、何と呼ぶんですか」


ウリエルは眉を寄せた。


(この問いはどこから来たんだ)


「見習い魔女?」


ルミナが自分で続けた。


「私たちの今の状態は、厳密には魔女とは言えない。修行は途中で、信条も実践できていない……」


ひと呼吸。


「だからこの段階に、正式な呼び名があるのかと思って」


ウリエルは頭をかいた。

この問い、たしかに妙だ。


記憶の隅から、一つの言葉が浮いてきた。


「魔法少女」


彼は言った。


「そう呼ぶ」


ルミナはきょとんとした。

それから、その名前を口の中で転がした。

目がわずかに輝いた。


「……魔法少女」

「うん」

「この名前」


声に、珍しく熱がこもった。


「とても、いいと思います」


言い終わると、立ち上がってさっさと行ってしまった。


(急に聞いてきたと思ったら。まあ、みんな女の子なんだし、魔法少女でいいか)


【第十話・終】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが気になる!」「笑った!」と少しでも思っていただけましたら、 ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!


ブックマークの登録も、ぜひよろしくお願いいたします! 次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ