第百八話:謎の資金力
ウリエルは壁に寄りかかったまま、突然ある考えが頭をよぎった。
(二つの旅団。総勢数十人。中核から末端まで、魔女から魔法少女まで、全部ひっくるめて男は俺一人。その理由が「魔法少年という呼称がルミナの組織定義と合わない」だけって……)
(理屈はそうかもしれないけど、あまりにもおかしすぎる)
彼ははっと顔を上げた。
違う。
この魔法少女たちに気を取られて、本当の肝心事を完全に忘れていた。
大またでガラティーナの前に歩み寄り、さっきルミナに問い詰めた時よりさらに急いた口調で切り出した。
「母さん、なんで急に、こんな大掛かりな引っ越しになったの? 何かあったの?」
ガラティーナはこてんと首を傾げ、表情は無垢そのもの。
「あっちは退去したんですよぉ。ウリちゃんの荷物もママが全部持ってきたよぉ。一つも忘れてないし、靴下もペアにしておいたからぁ」
ウリエルはあきれ返った。
その答えは何の意味もない。
「ありがと母さん——じゃなくて、なんで退去したの?」
「学院の都合ですよぉ」
ガラティーナは当然のように答えた。
「学生たちがみんな休暇に入ったからぁ、寮の契約が切れちゃったんですぅ」
ウリエルはおでこをガリガリと掻き毟り、顔を梅干しのようにしかめた。
学院が寮を使わせなくなった。
それだけだ。
た!だ!そ!れ!だ!け!の!た!め!に!?
敵の最大の攻撃手段は休暇だった。
一体この道中で何をそんなにビビっていたんだ。
呪縛教団が襲撃してくるとか、母さんの正体が完全にバレたとか、最悪のシナリオを片っ端からリハーサルしてきた。
騎士団のあの馬鹿共は尋問の時にすら脳味噌を忘れてくるレベルだ。あいつらに危機察知能力を期待するなど夢物語に等しい。こちらが最悪の事態を想定して脳内シミュレーションを重ねてきたというのに。
結果、ただ学院が夏休みに入って寮を追い出されただけ。騎士団だって尋問時にはまだ質問くらいはする。それなのに俺ときたら、誰に問われたわけでもないのに、ずっと一人で勝手にテンパって頭を抱えていたのだ。
この顔をしかめておでこを掻き毟る動作を、ガラティーナがすぐに察知した。
「どうしたの? アレルギー?」
ガラティーナがすぐさま近づいてきて、顔が急接近した。
ウリエルの動きをじっと見つめる瞳には、純粋な心配だけが浮かんでいた。
手がすでに上がっていて、指先にほんのり温もりがある。
狙いは彼の頭だ。
「樹海で、変な植物でも触ったのぉ? ママが見てあげるからぁ——」
「大丈夫大丈夫大丈夫」
ウリエルは後ろに反って、両手を前で四回振った。
「ただ掻いてるだけで本当に大丈夫。そうだ、みかんちゃんは?」
「樹海にいますよぉ」
ガラティーナはしばらくウリエルを見つめ、本当に大丈夫だと確認してから手を引っ込めた。
その口調には、どこか当たり前だと言わんばかりの響きが混じっていた。
「あそこがあの子の家だからぁ。連れて帰ったら居心地悪いかもしれませんしぃ」
ウリエルは頷いたが、実はみかんちゃんについて聞きたいことが山ほどあった。
あの猫はいつから母さんと知り合いなのか、歴戦個体レベルの能力は具体的にどのくらいなのか。
でも背後にルミナが立っている。
背筋をピンと伸ばし、両手を身の前で組んで、標準的な待機姿勢だ。
こういう話題は後で母さんと二人きりの時に聞く方が安全だ。
「ウリちゃん飼いたいの? ならママ連れて帰ってくるよぉ」
ガラティーナはウリエルが気にしている様子を見て、自分から提案した。
「いやいやいや、いらない。ちょっと聞いただけ」
ウリエルは首を激しく振った。
それからくるりと向きを変え、再び書記官の面構えを取り戻してルミナと向き合い、より切迫した実務的な話題に切り替えた。
「フロア全体を借りて拠点にしたのですか?」
「はい」
ルミナは軽く頷いた。
「私の一存で手配いたしました」
「いい場所だ」
ウリエルは豪奢な周囲を一巡見渡した。
「豪華だし、立地もいい。ただ、費用はかなりかかるだろう。資金が足りなくなったら私に言うか、魔女に直接頼んでもいい」
「費用と資金の面は何ら問題ございません。どうぞご案じなさいませんよう」
ウリエルは眉を上げた。
ルミナの答えがあまりにも即答すぎた。
思考も躊躇もなく即座に返ってきた。
何かおかしい。
「どういうことですか?」
彼は半歩前に出て、この娘が何か変な方向に行っていないか心配になった。
「お前たちそんなに金があるのか? ホテルのオーナーを脅したりしてないだろうな?」
ルミナの表情に極めて微細な変化が現れた。
明らかにこの質問に戸惑っている。
いつも冷静で決断力のある瞳に珍しく戸惑いの色が浮かび、まるで彼が放った言葉の真意を懸命に読み取ろうとしているかのようだった。エルフ耳が軽くぴくりと動いた。
ウリエルもこの反応は想定外だった。
軽く聞いただけなのに、人を固まらせてしまった。
咳払いをして、より具体的な質問に変えた。
「このフロア、一日いくらかかる?」
ルミナは瞬時に我に返り、今度は躊躇なく答えた。
「相場で計算しますと、フロア全体の貸切で一晩金貨二、三百枚ほどです」
ウリエルは息を呑んだ。
金貨二、三百枚一晩。
彼は以前学院の寮に住んでいて、一ヶ月の生活費を全部足してもこの額の端数程度だった。
ということは問題は振り出しに戻った——彼女たちはどこからその余裕を持ってきたのか?
もっと直接的な聞き方に変えることにした。
「あなたたちの活動資金は、今いくら残っているのですか?」
ルミナは今度は完全に躊躇なく、数字を口にした。
「現在、すぐに動かせる資金は金貨一千万枚です」
ウリエルは頷いて、頭の中で自動計算を始めた。
一千、一晩二、三百、ってことは二、三日で……
ちょっと待て。
いくら?
「一千万!?」
ウリエルは瞬時に取り繕っていた態度を崩し、素っ頓狂な声を上げた。
ソファに座っていた魔法少女たちが一斉に顔を上げ、フェンリアが噛んでいた干し肉すら止まった。
ルミナは表情を変えずに繰り返した。
「はい、金貨一千万枚です」
金貨一千万枚。
それ、母さんの貯金より二百万も多いじゃん!?
喜ぶどころじゃない。
むしろ怖い。
昔、旧い家で膝を抱えて彼のホラ話を聞いていた女の子たち、どこから金貨一千万枚を調達したんだ?
彼は勢いよく一歩踏み出し、両手でルミナの肩を力強く掴み、目玉が飛び出そうなほど見開いた。
「一千万!? 金貨一千万枚って言ったのか!? お前たち一体何をした!?」
完全に取り乱した。
書記官としての威厳も、冷静沈着な観測者のイメージも、この金貨一千万枚の前では学院の廃墟より粉々だった。
でもそんなこと気にしていられない。
今はこの緑髪のエルフから合理的な説明を引きずり出したいだけだ。
この子たちがまさか殺人強盗とか、何か有害な錬金術製品に手を出したとか……
ルミナの体は、彼が肩を掴んだ瞬間に硬直した。
この完全に取り乱した、目をカッと見開いた様子。
これは怒りではない。
失望だ。
書記官様は、旅団が稼いだ金額があまりにも少なすぎると嫌悪しているのだ!
彼女の瞳の底に、かすかな慌てが走った。
そして次の瞬間、彼女は片膝を突いた。
動作は鮮やかで、言葉の端々に真心からの自己批判が滲む。
「申し訳ございません。私の力不足でございます。金貨一千万枚は確かにあまりにも少なく、旅団の格に遠く及びません」
「違う違う違う!」
ウリエルは完全に訳が分からなくなり、慌てて腰を曲げて彼女を助け起こした。
「少ないとか言ってない! 一千万で十分多い、むしろ多すぎるって分かる!? まず立って。聞きたいのはどこからこんな大金を調達したか、何の事業をやったのかってこと!」
ルミナは彼に支えられて立ち上がり、顔にはまだ幾分の戸惑いが残っていた。
彼女は再び直立し、一つ一つ報告し始めた。
「完全に書記官閣下が当初教えてくださった通り、旅団は三つの分野で事業を展開しました。一つ目がサービス業、二つ目がガチャ事業、三つ目が不動産です。初期に蓄積した資金を利用し、各地で値上がり余地の大きい中核地区の物件を購入しました。王都商業区といくつかの重要な拠点都市の土地を含みます」
ウリエルは聞いているうちに、封印していた黒歴史の記憶が唐突に蘇ってきた。
旧い家。
夕食後。
自分は確か、異世界転生ネット小説のビジネスケーススタディをいくつか語っていて、調子に乗って確かに一言言った。
「もしお前たちに元手があるなら、ガチャが一番儲かる。人間ってのはな、運試しが大好きなんだ。ガチャを引く方が真面目にギルドでクエスト受けるよりよっぽど刺激的だぞ」。
それから「不動産は永遠に固い資産」とか「サービス業は未来の基幹産業」とか。
あの時は完全にホラ吹いてただけだった。
目をキラキラさせて自分を見つめる三人の少女に、自分の知識の凄さを見せびらかしたかっただけだ。
彼女たちが何を聞いても答えて、説明できないときは「これは複雑だから、後でな」と誤魔化していた。
結果、彼女たちは本当にやった。
しかもここまでやり遂げた。
「それから」
ルミナが突然、ウリエルにトドメの一撃を加えた。
「金雀花ホテル自体も旅団の資産です。書記官がご必要なら、いつでも閉館して、建物全体を拠点として使用できます」
この一撃で、ウリエルは自分の頭が発光しそうだった。
そして背後からガラティーナの声が聞こえた。
真摯な感嘆と少しおバカな誇りが混じっている。
「ウリちゃん、あの頃からもう商売の才能があったんだねぇ。ママの貯金より多くなってるよぉ」
【第百八話・終】




