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第百五話:市民生活に戻りました

その後、二人は無事に捜索隊と合流し、雨林を抜けた。

セラフィーナはヴァルドリッチ家の馬車で、ウリエルは乗合馬車で、それぞれ王都へ。

まるで何もなかったかのように、日常が戻ってくる。

テントの外から物音が聞こえた瞬間、ウリエルは目を覚ました。


ファスナーを引いてあくびをしながら這い出し、大きく伸びをすると、全身の骨がポキポキと心地よい音を鳴らした。


セラフィーナはすでに昨夜の平らな石の上に座っていた。


髪は一本の乱れもなく整えられ、襟はきっちりと折り返されている。


膝の上には手のひら大のノートが広げられていて、何かを書き込んでいた。


物音を聞きつけて手を止め、その感情の起伏が全くないジト目が、ウリエルを的確に捉えた。


「ウリエルさん、随分とのんきですね」


ノートを閉じて腰のポーチにしまいながら、淡々と口を開いた。


「運もいい。誰も見張らずにあんなに熟睡して、いびきまでかいてて、それで何も起きなかったんですから」




ウリエルはばつ悪そうに後頭部の跳ねた髪をかいた。


「あはは、昨日走り疲れたんですかね。何もなくて良かったですよ」


適当に誤魔化しながら、携帯食料と水を取り出した。


朝食は簡素だ。持ってきたビスケットと、水筒に入った冷たい水。


石に腰かけてかじりついた瞬間、セラフィーナの視線が飛んできた。


「目やに」


ウリエルはビスケットを膝の上に置いて、手の甲で目尻を二回こすった。


二回目だ。


「食べたら出発します」


ウリエルはビスケットを持つ手を口元で止めた。


息継ぎなしの四連撃が飛び出す。


「どこへ? 素材はまだ掘るんですか? 今何時ですか? ここで救助を待たなくていいんですか?」


セラフィーナは無表情のまま、淡々と四連撃を返した。


「出口を探しに。掘りません。もう夜明けのはずです。この地下の亀裂は隠れすぎていて、捜索隊には見つけにくい。自分で歩いて出た方が早い」


ウリエルは返す言葉もなかった。


ビスケットを二口でかき込み、水筒の水で流し込んで、立ち上がってお尻の砂を払った。


二人は洞窟ホールの反対側にある、まだ通ったことのない入り口から奥へと進んだ。


この道は来た時の隙間よりもさらに狭く、頭上の岩壁が低く迫り、あちこちに尖った岩と湿ったコケが張り出している。


ウリエルは少しかがまないと通れなかった。


足元は起伏が激しく、何箇所かはほぼ垂直に登るような砂利の坂になっていた。


およそ二十分歩いたところで、前方の通路の奥から白みがかった夜明けの光が漏れてきた。




二人は足を速めて洞口から外へ出た。


草木の生々しい匂いを含んだ強風が顔面に吹きつけてきた。


視界が一気に開けた。




ここは外に突き出た山腹の岩棚だった。


テーブルを数枚並べたくらいの広さで、見晴らしがよく、清々しい景色が広がっていた。


数歩前は断崖で、高さはそこまで極端ではなく、せいぜい数十メートルほど。


断崖の七、八メートル下は木々の梢が連なっていて、枝と葉が重なり合い、分厚い緑のじゅうたんを敷いたようだった。


さらに遠くを見れば、古代樹雨林が足元一面に広がっている。


高さもバラバラな樹冠は形態も様々だ。傘のように丸みを帯びたものから、塔のように尖ったもの、あるいは紫色の小花を咲かせるツル草がびっしりと絡みついたものまである。


ワイバーンほどの大きさの鳥が数羽、遠方でゆるやかに輪を描いていた。


朝の光が東から斜めに差し込んでいる。夜明けからまだ間もないらしい。


ウリエルは岩棚の端まで歩いて下を覗いた。


岩壁はほぼ垂直で、足がかりになる出っ張りはない。


しかし七、八メートルの落差で、下には密集した梢の層がある。枝が十分に密で、人一人の体重なら受け止められそうに見えた。


距離と角度を目測してから振り返り、セラフィーナを見た。


「降りる道はないですね。でも木の上に飛び降りれば衝撃を和らげられそうです。飛べる? 先に俺が降りて、下で待ってますよ」


セラフィーナは首を振った。


腰のポーチに手を入れて探り、磨き上げられた透明な魔晶石を一個取り出した。


「急がなくていいです。景色がいいので、記念に写真を撮りましょう」


ウリエルは魔晶石を見下ろして、目を丸くした。


「……どうやって撮るんですか?」


セラフィーナは余計な説明を省いて、そのまま彼の隣に並んで立った。


距離の取り方が絶妙だった。


匂いが届くほど近く、けれど体が触れることは一切ない。


魔晶石を二人の前に掲げて、静かに指示した。


「光の輪を見て」


ウリエルは顔を上げた。


頭上の虚空にいつの間にか拳大の光の点が浮かんでいた。


丸くて、空に浮かぶ小さな月のようで、二人に向かってかすかに瞬いている。


彼はすぐに口の端を引き上げた。


学生証の写真と見分けがつかない、これ以上ないくらい標準的な営業スマイルを。




かちっという軽い音。


セラフィーナが魔晶石を握りつぶすと、強烈な白い光が瞬間的に閃き、ウリエルは目を細めた。


撮影完了。


セラフィーナは手を離し、砕けた結晶のかけらが舞い落ちるに任せた。


両手を合わせると、掌に淡いマナの光が滲んだ。


軽くこすり合わせてから開くと、掌に手のひら大の薄い板が現れた。


質感はインスタント写真に似ていて、表面にはまだ魔力の余熱がかすかに残っていた。


ウリエルは目を見開いた。


(チェキじゃないか! 異世界版!)


セラフィーナがその呆然とした状態を遮るように、写真をウリエルに向けた。



なんとも言えない、シュールな構図だった。


二人は山腹の岩棚に並んで立ち、肩はほぼくっつきそうなほど近いのに、どちらも頭を寄せたり体を傾けたりする仕草は一切ない。


姿勢は冒険者ギルドの証明写真と見紛うほどに直立していた。


写真の中で二人とも笑顔を浮かべてはいるが、ウリエルは商会の営業職員そのものの表情で、セラフィーナはお嬢様定番の完璧なほほ笑みを貼り付けている。


どう見ても、心から笑っているようには見えなかった。


「一枚いりますか?」


実にいい質問だ。ウリエルは思わず真面目に考えてしまった。


持ち帰ったら、母さんはきっと大喜びするだろう。


手に取って表と裏を三十分は眺め回したあと、額縁に入れてリビングの一番目立つ場所に飾るのが目に見えている。


それに、これはれっきとした「リア充証明」でもある。


いつか「どうせゲイだろ」とからかわれた時、この写真を叩きつければ、痛快なざまぁ展開になる。


持ち帰らなければ、態度は明確になる。


純粋な取引関係で、記念の一枚すら残す気がないということだ。


セラフィーナは彼が眉をひそめる様子を見て、考え終わるのを待たずに写真を彼の手の中に押し込んだ。


「行きますよ」


短くそれだけ言い残し、彼女は崖端へ歩き、迷いなく飛び降りた。


下の梢の層からぱきぱきと枝の折れる音が聞こえた。


「ちょ、ちょっと!?」


ウリエルは慌てて写真をポケットに突っ込み、続いて飛び降りた。




その後の展開は順調だった。


着地してから地図に沿って外へ歩き、一時間も経たないうちに、正面から完全武装の冒険者一隊と出くわした。


先頭の人物は捜索識別旗の三角旗を掲げている。


隊長はセラフィーナの顔を見た瞬間に早足で駆け寄り、「ようやく見つけた」と繰り返しながら登録ボードを取り出して、行方不明中の行動経路を確認した。


セラフィーナは手短な説明で、崩落の経緯、洞窟のルート、岩棚の位置を淀みなく伝えた。




終始、誰もウリエルに一言も聞かなかった。


後ろの冒険者たちが何度も彼に視線を向けてくるのに、目の中の推測は隠そうともしていない。


ウリエルは黙って隊列の最後尾に付き、何も見えていないふりをした。


雨林を出るまで、彼とセラフィーナの間に会話は一切なかった。




雨林を抜けて森の縁に出ると、ヴァルドリッチ家の紋章が入った豪華な馬車が数台、すでにそこで待ち構えていた。


セラフィーナは捜索隊への対応を済ませると、まっすぐウリエルの前に歩いてきた。


「では帰ります。さようなら」


「さようなら」


いつもと全く変わらない口調だった。


教室で授業が終わる時も、廊下で擦れ違う時も、食堂で相席のまま食べ終わる時も。全部、この調子だった。


セラフィーナは振り返り、先頭の豪華馬車に乗り込んだ。




ウリエルはその場に立ったまま、馬車が動き出すのを見送った。


車輪がごろごろと音を立てて道の先に消えるまで。


三十秒ほどその場に立ち尽くしていたが、まだ「ようやく今回の事件が終わった」という実感が湧かなかった。


しばらくしてから、ようやく踵を返して自分の帰りの馬車を探しに向かった。


途中でふと気がついた。


さっき、彼女の馬車に同乗して帰ることもできたのではないか。


汗の匂いが染みついた乗合馬車に乗り込んでから、ウリエルは自分の中で折り合いをつけた。


(まあ、これでよかった)


(同じ馬車で帰ったら、またどんなことになるか分かったもんじゃない。この馬車こそが、俺みたいなモブにふさわしい場所だ)


硬い木の板の座席にもたれかかり、車輪が石畳を踏む振動が尻に響き、ずっとがたがたと揺れ続けた。




王都に戻ったのは午後を過ぎた頃だった。


ウリエルは揺れでしびれた腰をもみながら、先に宿に戻って風呂に入り着替えようと思っていた。


人気のない路地を通りがかった瞬間、一つの人影が何の前触れもなく目の前に立ち塞がった。



ウリエルはすぐに足を止めた。


まじまじと見る。


緑の髪。エルフの耳。氷の美人。


ルミナだ。


ウリエルの心臓が瞬時に喉元まで跳ね上がった。


ルミナが自ら出向いて彼を待ち伏せするのは、一つしか可能性がない。


また何かあった。


ルミナは片手を胸に当て、わずかに頭を下げた。


声は彼一人にだけ届く大きさだった。


「書記官。魔女様はすでに拠点を移されました。私がご案内いたします」




【第百五話・終】

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