第百三話:みかんちゃん
数時間前、自分を十倍速で追いかけ回し、必死に茂みへ放り投げた“歴戦の円頭虎”。
今は母さんの膝の上で、お腹を見せてゴロゴロと喉を鳴らしている。
ウリエルは石から跳ね上がって、ガラティーナの懐の茶トラの猫を指さした。
指先がぶるぶる震えているのに、口からは一切音が出なかった。
ガラティーナは顔を上げて彼を一瞥した。
「どうしたのぉ?」
表情は少し疑問に満ちているが、依然としてあぐらをかいて座っており、手の動きは全く止まっていなかった。
白い指が茶トラの毛玉の顎をゆったりと撫でて、時計回りに円を描く。
悪名高き歴戦の円頭虎は瞼すら持ち上げず、喉からゴロゴロという音を出し、半目で極めて満足そうに彼女の懐に寄りかかっている。
尻尾がガラティーナの懐から垂れ下がり、悠々と左右に揺れ、時折彼女の手首を掃う。
「母さん、これ何か分かってるよね?」
ウリエルはようやく言葉を絞り出した。
声は低く張り詰めて、猫を指す指がわずかに震えていた。
ガラティーナは手の動きを止めて、顔を上げてウリエルを見た。
瞳は澄んでいて無邪気だった。
彼女は両手を伸ばして円頭虎の前足の脇に差し込み、普通の家猫を持ち上げるように抱え上げた。
猫の後ろ足と尻尾が宙に垂れてぶらぶら揺れ、丸い頭が左右に振れたが、侮辱されたような反応は全くなかった。
「この子のこと?」
ガラティーナは猫を視線と同じ高さに掲げて、隣の家のペットを紹介するような軽快な口調で言った。
「『みかんちゃん』っていうのよぉ」
ウリエルの表情が極めて微妙に歪んだ。
左の眉毛は生え際まで跳ね上がり、右の眉毛は限界まで押し下がり、顔全体が抽象芸術に近い非対称性を呈していた。
(みかんちゃん? 何この土臭くて母さんのフィルター全開の馬鹿げた呼び名)
(歴戦の円頭虎がみかんちゃん)
ガラティーナは息子の表情の変化に全く気づいていないようだった。
円頭虎を再び懐に抱き戻し、背中の茶トラの短毛を撫でて、猫に向かって話す口調はちょっとした過ちを犯した子供を教育するようだった。
「ウリちゃんはさっき、わざと投げたわけじゃないのよ。あなたがいい子だって知らなかっただけ。今度一緒に遊ぶときは、ちゃんと挨拶してからにしようね?」
それから顔を上げて、ウリエルの背筋がぞわっとするほど優しい口調で。
「ウリちゃん、これからはこの子ともっと仲良くなってからじゃないと、今日の午後みたいに投げて遊んじゃダメよ。そうしないとこの子、いじめられてるって思っちゃうから」
ウリエルは呆然と聞いていた。
母さんの目には、というか母さん特有の謎フィルターを通すと、自分が生き延びるために十倍速の黄金級魔物を茂みに投げ込んだ生死の瀬戸際が、加減を知らない猫じゃらし遊びにしか見えていないのか?
彼はその場で、短くも激しい脳内会議を繰り広げたが、全く結論は出ず、それから諦めた。
ため息をついて石のベンチに戻って座り、膝がガラティーナの膝から半身分ほど離れた位置に置かれた。
みかんちゃんは彼女の膝に丸まって、丸い頭を膝に乗せ、その角度から斜めに彼を一瞥した。
その丸々とした頭を見て、それに母さんがいることもあって、彼は何かに憑かれたように右手を伸ばし、この変態魔物の額をつついてみようとした。
指先が茶トラの毛皮に触れるまで、まだ十数センチある。
みかんちゃんの右前足が上がる動きは速すぎて過程が全く見えなかった。
ウリエルはぼやけた茶トラの残像だけを捉えた。
それが彼の手首に向かって直進する。
パシッ。
極度の「動」が、瞬時にして極度の「静」へと転換した。
ガラティーナの手がいつの間にか上がっており、半空で軽くその猫の爪を握っていた。
彼女はみかんちゃんの前足を握り、爪を出した肉球を掌でしっかり包み込んだ、ウリエルの指の前から移動させ、もう片方の手で猫の鼻先をつんと突いた。
幼稚園の先生がおもちゃを取り合う子供たちを教育する口調とほぼ同じだった。
「ダメよ。こうやって叩いたら相手が怪我しちゃうから」
ウリエルの手が宙で固まった。
彼は自分の指を見下ろし、それからガラティーナの掌の中でまだ不満そうに動いているみかんちゃんの爪を見て、瞬間的に息を呑んだ。
爪先が引っ込んだ後は柔らかそうで殺傷力皆無に見えたが、彼はさっき自分の目で、この猫が「目を細めてうたた寝」から「爪を弾き出す」への切り替え速度を目撃した。
発生ゼロフレーム。この瞬間、彼は「十倍速」という言葉のヤバさを、身をもって思い知った。
母さんの手の動きがはっきり見えてから、ようやく後から気づいた。
このみかんちゃんがさっき自分の手首に向かって威力不明の猫パンチを繰り出していたことに。
ガラティーナが止めていなければ、今頃手の甲に四つの穴が開いていただろう。
運が悪ければ、手そのものがなくなっていたかもしれない。
彼は手を引っ込めて背中に隠した。
ガラティーナは円頭虎を抱えて彼の方に近づいてきた。
みかんちゃんの前足を持ち上げて、ウリエルの前に差し出し、にこにこ笑ってウリエルを見た。
「ほら、ウリちゃんとみかんちゃん、握手して。これで仲直りしましょ?」
ウリエルは目の前にある毛むくじゃらの爪を見つめて、唾を飲み込んだ。
みかんちゃんは口を開けて適当なあくびをした。
舌も出して、二列の鋭い牙がウリエルの心臓をざわつかせる。
長さも鋭さも「虎」の字に相応しかった。
あくびを終えると、口を閉じて半目でウリエルを見た。
ガラティーナに持ち上げられている前足には、抵抗や攻撃の兆候は一切なく、ただぐったりと持ち上げられている。
ウリエルは猫を一瞥した。
それから母さんを一瞥した。
ガラティーナはにこにこ笑って彼を見ていて、その笑顔は純粋で一切の雑念がなく、二人の子供を仲直りさせようとしている若い母親のようだった。
(まあ、母さんがいるし、何かあるわけない)
彼は震えながらその猫の手を握った。
肉球の触感は子猫と変わらず、ただサイズが少し大きいだけだった。
硬く上下に二回振った。
猫の尻尾がそれに合わせて二回揺れた。
ガラティーナは満足そうに頷いて、人と猫の手を離し、みかんちゃんを再び膝の上に戻した。
猫は身を翻して、お腹の少し色の薄い産毛を露出させ、四肢を天に向けてゴロンと転がった。
根に持つつもりは全くないようだった。
「この子、本当にいい子で人懐っこいのよ」
ガラティーナはお腹を撫でながら言った。
(みかんちゃん。この名前は確かに母さんのネーミングセンス全開だな)
ウリエルはみかんちゃんが彼女の膝の上で無防備にお腹を見せている様子を見て、頭の中で何かがカチッと嵌まり、全てを理解し始めた。
「母さん、ちょっと聞きたいんだけど」
彼は好奇心に駆られて小声で尋ねた。
「円頭虎って種族、実は人に誤解されてるんじゃないか? 本当は人懐っこいけど、遊ぶときに加減を知らなくて、うっかり人を怪我させたり殺したりして、それで可愛いふりして狩りをするって記録されたんじゃ?」
ガラティーナはお腹を撫でる動きを止めず、わずかに首を傾けてウリエルを見た。
瞳に意外そうな光が走り、それから優しい笑顔を浮かべた。
「違うわよぉ」
彼女はみかんちゃんを抱き上げて、自分の膝の上に立たせ、両手で猫の前足を支えた。
みかんちゃんは立ち上がってから頭を振り、耳が慣性でパタパタと二回叩いた。
「みかんちゃんだけがいい子なの。他の円頭虎だったら、投げた瞬間に飛びかかってあなたを引き裂いてたわよぉ」
母さんが最も優しい声で最も背筋が凍る言葉を言うのを聞いて、ウリエルはゆっくりと後ろに寄りかかった。
彼はみかんちゃんを見下ろした。
みかんちゃんは後ろ足で自分の耳の裏を掻いて、二回掻いてから止めて爪を舐め、爪を舐め終わってから頭を掻いた。
見られていることに気づいて、丸い頭を傾けた。
その表情は友好的とも敵対的とも言えなかった。
「つまり」
ウリエルはゆっくりと言った。
「さっき抱いてたのは可愛い子猫じゃなくて、円頭虎という種族全体で唯一人を噛まない子猫だった、と」
「そうとも言えるわね」
ガラティーナは頷いて、みかんちゃんを再び懐に抱き戻した。
「この子は性格がいいだけ。他のだったら、ママはあなたにそんなふうに遊ばせられないわよ」
みかんちゃんは口を開けて再びあくびをした。
今回のあくびの語尾には細かい「にゃあ」が付いて、柔らかく、成体の円頭虎が地面の小石まで震わせた咆哮とは、比べものにならない。
ウリエルは手を伸ばしてスプーンを取り、鍋からスペアリブを一つすくった。
それからスペアリブから小さな肉片を引き裂いて、手のひらに乗せて差し出した。
みかんちゃんは嗅いで、頭をウリエルの手のひらに近づけてガブガブと肉を口に入れ、それから頭を背けた。
尻尾が彼の手首を一周掃って、まるで「せっかくだから食ってやったぞ。もう下がれ」と言っているようだった。
【第百三話・終】
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