第百二話:ママ降臨
テントの中で眠るセラフィーナ。
洞窟に静けさが戻ったその時、虚空に金色の扉が開いた。
現れたのは、わざわざ転送門で様子を見に来た、我が母。
夕食を終えた洞窟は、静かすぎるほど静かだった。
焚き火が時折ぱちぱちと軽い音を立て、火の粉が熱気に乗って洞窟の天井へ舞い上がる。
鍋にはスペアリブがまだ半分弱ほど残っていた。
ウリエルは平たい石の上に座って、手持ち無沙汰にジャガイモを噛んでいる。
咀嚼音が空洞のホールに響いて、かえって一層際立っていた。
セラフィーナはその隣に座り、静かに前方の漆黒の洞窟の奥を見つめている。
誰も何も言わなかった。
満腹になった後、空気がまた少し重苦しく気まずいものになった。
ウリエルはコホンと咳払いをして、強引に沈黙を破った。
「伯爵家のお嬢様が雨林で一日中泥にまみれて、お風呂にも入れないって辛くないですか?」
セラフィーナがこちらを見た。
「何その質問」と言いたげな、ごく普通の目だった。
「冒険者としての覚悟があります。この程度の困難は何でもありません」
彼女は少し間を置いて、淡々と続けた。
「それよりもウリエルさんは忘れているようですが、少し前まで私は呪縛教団に誘拐されて地下牢に数日間閉じ込められていました。あの時の環境はここよりずっと劣悪でしたよ」
ウリエルは言葉に詰まった。
(やべ。完全に忘れてた)
(彼女、呪縛教団に何日も監禁されてて、つい最近まで体験してたんだ。それに比べたらこの洞窟は豪華キャンプみたいなもんか)
彼は黙ってジャガイモを口に押し込み、何も言えなくなった。
「休暇中の予定は何かありますか?」
セラフィーナが話題を変えた。
「家に帰るつもりです」
ウリエルはジャガイモを飲み込んで、当然のように答えた。
「大金を稼いだから、母さんに高価な贈り物でも買って帰ろうかと」
セラフィーナは頷いた。
このマザコン全開の回答にも、彼女はまったく驚く様子はなかった。
また沈黙。
今度の沈黙は前よりも長く、炎のかすかなパチパチという音だけが残った。
それからセラフィーナが立ち上がり、スカートに付いていない埃を払った。
「先に休みます。眠くなったら起こしてください。交代で見張りをしましょう」
「いらないでしょ」
ウリエルは顔を上げて彼女を見て、手を振った。
「ここは危険なんてないし、あなたも捕食者の痕跡はないって言ってたじゃないですか。ぐっすり眠ったらダメなんですか?」
「油断できません」
セラフィーナの口調が急に真剣になった。
彼の目を見下ろして言った。
「あなたのお母さんも、きっとあなたが無事に帰るのを待ってると思いますよ」
ウリエルはため息をついて、その言葉には答えなかった。
彼はウエストポーチから三つの小さな布袋を取り出し、キャンプの外周へと歩いて行った。
粉末をまき始める。
白い粉を一周撒き、続いて黄色い粉を一周、最後に灰褐色の粉を一周。
「何をしてるんですか?」
セラフィーナはその場に立ったまま、彼が三周回るのを見ていた。
「忌避剤を撒いてます。虫除け、獣除け、毒除け、火除け」
ウリエルは三つの空袋を畳んでウエストポーチに押し込み、ふっと息を吹いて、手に残った粉末を叩き落とした。
「三重の備えです。これで安心して眠れますよ」
セラフィーナは半信半疑で地面の三つの円を見つめた。
見張りを続けるのを諦めて、テントの一つに腰をかがめて入り、幕が彼女の後ろで閉じた。
ウリエルは石のベンチに座り直した。
鍋にまだ残っているジャガイモとスペアリブを見て、スプーンを手に取って食べ続ける。
眠るのは急がない。
食べ終わって、少し腹を落ち着かせてから寝ればいい。
洞窟のホールは極めて静かだった。
彼が骨付き肉をくちゃくちゃと噛む音だけが響いている。
テントからは何の動きもなく、セラフィーナは本当に疲れているようだった。
それから焚き火から二メートルも離れていない空中で、空気が突然、水面のような波紋を起こした。
眩しい金色の光球が虚空に現れ、一回転して、それから無音で広がり、扉になった。
扉は透明な金色の薄膜で、膜の向こうには別の空間がぼんやり見えていた。旅館の部屋だ。
それから頭が隙間から覗き出した。
瞳が瞬きをして、ウリエルに正確に照準を合わせた。
「ウリちゃん~」
ガラティーナが声を落とし、甘ったるく柔らかな声が漏れ出した。糸を引く蜂蜜のような声だった。
彼女は扉の枠の後ろに身を縮め、こそこそと盗みを働く泥棒のようだった。魔王を単独討伐した勇者には、とても見えない。
ウリエルはびくっと震えた。
彼の最初の反応は彼女を見ることではなかった。
テントを見た。
テントは静まり返っていて、幕はぴくりとも動かず、中から起こされた様子は一切なかった。
テントのファスナーが開く兆候がないことを確認してから、慌てて体を戻し、光の扉の中の母親に向かって「しーっ」のジェスチャーを猛烈に送った。
ウリエルの顔には、恐怖とも無力感ともつかない表情が浮かんでいた。
彼は実のところ、全く驚いていなかった。
あのジャガイモとスペアリブの鍋を見た瞬間から、母さんがいることは分かっていたし、絶対に来ると確信していた。
ガラティーナは意図を理解して、光の扉をもう少し押し開いた。
そっと光の扉をまたぎ出て、台所に忍び込んでおやつを盗む猫のようだった。
彼女が出てきた後、光の扉は無音で収縮して消え、洞窟のホールは再び提灯だけが照らす薄暗さに戻った。
ウリエルは彼女が何かを抱えていることに気づいた。
食べ物か、自分に持ってきたものかもしれない。
彼女はウリエルの隣に歩いてきて座った。
「スペアリブ、美味しかった?」
それが彼女の第一声だった。
ウリエルは頷いて、同じように声を落とした。
「美味しかったです」
ガラティーナは嬉しそうに頷いて、それから表情が急に少しおどおどしたものに変わり、声には苦悩が滲んだ。
まるで何か深刻な問題を真剣に反省しているようだった。
「ママねぇ、もしかして失敗しちゃったかなぁ?テントは一つだけにしておくべきだったかしらぁ?」
ウリエルは声を落としたまま、歯ぎしりして返した。
「テント一つだけ用意して何するつもりだよ? 俺たちのどっちかが外で立って見張りするのを便利にするためかよ?」
「だってウリちゃんたち、恋人同士でしょぉ?」
ガラティーナは瞬きをして、目は純真そのもの。
口調も真剣で冗談を言っているようには見えなかった。
「そうしたら仲が深まるんじゃないかなって」
ウリエルは焦った。
体全体を使って、腕を胸の前で交差させて振り回し、動作は大きいが音は出さない。
全体的に無声劇を演じているようで、必死に声を押し殺して説明した。
「全然そこまで行ってない。本当に行ってないから」
「じゃあどこまで行ったの? キスはした?」
ガラティーナは瞬きをして、前に身を乗り出した。
完全に近所の噂好きのオバチャンの顔だったが、その顔面偏差値はオバチャンの一万倍はあった。
ウリエルは両腕を投げ出して、生気のない顔で天を仰いだ。
音量をコントロールするのに必死だった。
「母さん、野次馬根性丸出しじゃん! わざわざ転送門で飛んできたの、それ聞くためかよ?」
ガラティーナは「へへっ」と馬鹿笑いした。
この笑い声は彼女の精緻で神聖に近い顔と全く似合わず、馬鹿っぽい満足感が滲み出ていた。
「あはは、ママはウリちゃんがちゃんとご飯食べてるか見に来ただけなのにぃ」
その時、彼女の懐に抱えていたものが突然動いた。
ウリエルはようやく気づいた。
それは生き物で、中で落ち着きなくうねうね動いている。
極めて細い「にゃう」という声が伴った。
ガラティーナは懐を見下ろして、手を伸ばし、その小さな頭を優しく撫でた。
「いい子ね、騒がないで」
ウリエルは視線を彼女の懐に移し、小さな頭がガラティーナの懐から突き出すのを見た。
一匹の茶トラの子猫。
茶トラの毛並み。丸々とした頭。耳が頭の両脇にぺたんと付いている。目は半分閉じて、頭を撫でられている満足げな表情だった。
この猫は見たことがある。
数時間前だ。
彼も抱いた。顎を撫でて、前足を持って揺らして、それからあまり優雅とは言えない放物線で茂みに投げ込んだ。
投げた後、茂みから体格にまったく見合わない咆哮が響いた。
違う。
これは猫じゃない!
歴戦の円頭虎だ!
ウリエルは石から跳ね上がった。
ガラティーナの懐で目を細めて撫でられるサービスを享受している茶トラの猫を指さして、わななく指先でガラティーナの懐を指さし、口をパクパクさせているのに声が出なかった。
【第百二話・終】
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