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第百一話:付きまとう影

母さんが、来ている。

ウリエルの瞳に、一条の光が閃いた。


観測者、起動。


視界が切り替わった瞬間、無数の強烈な光が四方八方から網膜に突き刺さった。


岩壁、地面、テント、鉄鍋、焼き台。


あらゆる物体の表面が、まばゆい銀白色の光斑を反射している。


何十枚もの鏡で太陽光を同時に顔に当てられているような感覚だった。


エーテルの輝きが空間全体を埋め尽くして、まさに視覚テロレベルの有様だった。


(この規格外の強度。この目が潰れそうなほどの暴力的な閃光。これは輝光級特有のものだ)


(こんな山奥まで来る輝光級なんて、この世界に一人しかいない)


(母さんが来てる)


「ぐえっ——」




ウリエルは勢いよく目を閉じた。


両手で必死に顔を覆い、ひどく苦しそうな悲鳴を上げた。


半分は目に刺さった痛み。


もう半分は魂の底からこみ上げてくる疲労感だった。


ウリエルはこういう手口を嫌というほど知っていた。洞窟全体が塵一つなく磨き上げられているのも、これだけの用意がされているのもだ。母さんがついてきていると想像しただけで、彼は絶望的な気分になった


突然の悲鳴は、歩み寄ってきたばかりのセラフィーナをひどく驚かせた。


直後、慌ただしい足音が近づいてくる。


セラフィーナが大股で駆け寄り、右手はすでにウエストのナイフの柄に当たっていた。


視線がホール全体を素早く走る。


テント、焼き台、鉄鍋、岩壁、洞窟の天井。


身を隠せそうな場所をすべて確認した。


「何がありましたか?」


声が張り詰めている。戦闘前の構えだった。


「奇襲ですか? それともトラップに引っかかりましたか?」


ウリエルは目を覆ったまま、その場に固まった。


(まずい。まさか正直に言えるわけがない)


(「環境を観察していたら、母さんが残した光で目がやられました」なんて言えるか)


(「このテントも鍋も焼き台も、全部母さんがこっそり用意したやつです」なんて絶対に言えない)


(どうする、どうする——)




ウリエルは窮余の一策を捻り出した。彼は猛然と腰を上げ。


右手を大きく広げ、力いっぱい右目を覆う。


左手を大仰に前に突き出し、禁断の秘術でも発動しようとしているかのような、歪んだポーズを取った。


「アマテラス!!」


声が空洞のホールで跳ね返った。


テラス……ラス……ス……


セラフィーナのナイフを抜きかけた動きが、ぴたりと止まった。


二センチ引き出したところで、刀身が鞘の途中に引っかかっている。


彼女特有のジト目が、真っ直ぐウリエルを見つめた。


その目は完全な困惑と、理解の及ばない何かで満ちていた。


ウリエルはわざとらしく二度咳払いして、ゆっくり腕を下ろした。


視界の端でセラフィーナの反応を確認する。


周囲を警戒する様子はもうない。


臨戦態勢でもない。


この中二を極めた謎ポーズと、どの魔法体系にも存在しない謎の呪文に、完全にフリーズさせられていた。


「大丈夫」


彼は何でもなさそうに、光で滲んだ目を揉んで、まばたきして視界を戻しつつ、自分へのごまかしの口実を作った。


「飯にしよう。あの鍋、できたてっぽいし」


そう言いながら、鉄鍋の横の平たい石に向かって歩き出した。


まるで今まで何もなかったかのように。




二歩踏み出した瞬間、ばしゃっという音とともに、氷のように冷たい液体が頭上から降り注いだ。


水流がウリエルの髪を伝って首筋に流れ込み、全身を一瞬で芯まで冷やした。


刺激的なミントと乳香が混じり合った強烈な匂いが、鼻腔に一気に突き刺さった。


ウリエルはびくっと震えて、勢いよく振り返った。


セラフィーナが後ろに立っていた。


右手には、空になった細口のガラス瓶が握られている。


ウリエルは自分のびしょ濡れの襟元を見下ろして、それから彼女の手の空き瓶を見上げた。


瓶の胴体に小さな羊皮紙のラベルが貼ってあり、共通語でこう書かれていた。


「聖水・呪詛解除用」


文字は整然として一糸乱れない。錬金工房の標準品だった。


「何をするんですか」


「この聖水は強力な精神支配と呪詛を解除するためのものです」


セラフィーナは空き瓶をウリエルに向けてもう一振りして、一滴も無駄にしていないことを確認した。


「突然の悲鳴、異常な挙動、意味不明の呪文、そしてその危険度ガン無視の態度で、得体の知れない鍋に近づこうとした。聖水が最も確実な解除手段です」


「呪われてない!」


ウリエルが大声で抗議した。


セラフィーナの手はすでにウエストポーチから二本目の聖水を取り出していた。


親指が栓を押し開ける動きは淀みなく、手首が高々と持ち上がり、今にも浴びせかけてくる構えだった。


「待って待って! 本当に呪われてない!」


ウリエルは胸の前で両手を猛烈に振って、半歩後ずさった。


「俺はあなたのレンタル彼氏でしょ! ちゃんと見て!」




「レンタル彼氏」という単語を聞いた瞬間、セラフィーナの親指が栓の上で止まった。


彼女は二秒間、ウリエルの顔をじっと見つめた。


それからようやく、それ以上の行動をやめた。


「では説明してください」


聖水のビンをポーチに戻しながらも、視線は怪物を品定めするような目でウリエルを上から下まで眺め続けていた。


「突然目を覆って悲鳴を上げ、意味不明なポーズを取り、どの既知の魔法体系にも属さない……呪文を叫んだ。そして何事もなかったかのように、素性の分からない鍋の中身に近づこうとしている。補給品は綺麗に整頓されているのに人影がない。鍋の中身はまだ湯気を立てている。テントを張った人間が、まるで煙のように消えている。こういう見えない危険は、円頭虎の十倍は厄介です——なのにあなたはこんなに平然としている」


ウリエルは彼女の言葉を聞きながら、自分の行動を改めて見直してみた。


(……セラフィーナの言ってることは、全部正しい)


(彼女の視点から見たら、俺の行動は完全に普通じゃなかった)


「だから毒見してるんです」


ウリエルは開き直って答えながら、平たい石のそばに腰を下ろし、荷物からカトラリーを取り出した。


「俺が先に食べて、毒があれば俺が先に倒れる。毒がなければあなたが食べる。これを捨て身の毒見って言うんです。自己犠牲の精神ってやつですよ」


ウリエルは迷わずジャガイモをすくって口に入れた。


なじみのある、力強いスパイスの旨味が舌の上で炸裂した。


(間違いない。1万パーセント母さんの仕業だ)


「毒なし。美味い。あなたも食べますか?」


スプーンを差し出した。




セラフィーナはその場を動かなかった。


近づくどころか、石柱のそばまで一歩退いた。


背中を石に預け、周囲の闇を警戒しながら、荷物から固くてぱさぱさの携帯食糧を取り出して、表情ひとつ変えず小さく一口囓った。


ウリエルはスペアリブを咀嚼しながら、哨兵のように背筋を伸ばして立つセラフィーナを眺め、少し眉を寄せた。


(このままではまずい)


(飯すら食わないなら、あの二張りの丁寧に整えられたテントにも絶対入らない)


(彼女の性格からして、石壁に寄りかかったまま一晩中立っていても、「未知のトラップ」の中には絶対入らないだろう)


(もし明日、捜索隊に見つかった時に目の下にクマでも作ってたら、そうなれば俺は社会的に抹殺される。絶対に駄目だ)


(騙す。しかも、いかにもプロっぽい嘘をつく)


「実はですね」


ウリエルはスペアリブを口に含みながら、もごもごと切り出した。


「冒険者の伝記を結構読んでて。冒険者の間には、暗黙の互助の伝統があるんですよ」


セラフィーナの咀嚼が止まり、視線がこちらに向いた。


「山奥で他の誰かが残したテントや補給品を見つけた時、それは避けて通るためのものじゃなくて、使うためのものなんです」




「主に、迷子になったり遭難したりした後続の人のために救助の便宜を図るため、という目的です。物資を要所に残しておく方が、後から捜索隊が探しに来るよりずっと役に立つ。先に来た人が食料一つ、テント一張りを残していくことは、この場所に脱出のチャンスを一つ置いていくことと同じです。その物資を使ったら、帰りに自分の持ち物を補充して残していく。その決まりが受け継がれていくんです」


スプーンで汁を掬って、ふーふー吹いて、ずずっと啜る。


セラフィーナはその鍋を見つめ、口を開いた。


「たとえば?」


ウリエルは畳みかけた。


「誰かの水を飲んだら、解毒薬を少し残していく。飯を食べたなら、火打ち石か水を置いていく。次にここを通る誰かのためです。非常に崇高な互助の精神ですよ」


洞窟のホールにウリエルの真剣な声が響き渡った。


セラフィーナは黙って最後まで聞いた。


「一理ありますね」


ウリエルはすかさず畳みかけて、自分の横の平たい石をぽんぽんと叩いた。


「だからもう立たないで、座って何か食べてください。体力を補充しないと明日歩けなくなる。捜索隊に担架で運ばれたら恥ずかしいですよ」


セラフィーナは少し迷った。


それから石柱を離れ、ゆっくりと焚き火のそばに歩いてきて、その平たい石に腰を下ろした。


「確かにここは安全ですね」


セラフィーナは地面の踏み跡のない灰を一瞥して、ウリエルの言葉に乗っかった。


「捕食者の活動痕跡がない。小型の穴居生物の糞や足跡すらない。静かすぎるくらい静かです」


ウリエルはスペアリブをもう一口ほおばった。


(そりゃそうだ)


(輝光級のオーラがここを包んでいる。この洞窟は今頃、雨林全体で一番安全な場所だ。学院の寮よりも安全かもしれない)




【第百一話・終】

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