第四百三十五話:ネームドボスの可能性
防具に関してはみんなにも好評だった。
まあ、見た目を気にするのはサクラくらいで、カインもシリウスもよっぽどダサくなければ受け入れてはくれそうだけど。
無事に了承も得られたので、みんなの分も作り、これで防寒具に関しては問題なくなっただろう。
後は、探しに行くだけだね。
「アリス、少しいいだろうか」
一応、他にも仕事がないかナボリスさんに聞きに行こうと部屋を出ると、フェラトゥスと出会った。
フェラトゥスは、その見た目のせいもあって、下手に外に出すことはできない。
だから、城の一室を与えて、できるだけそこで過ごしてもらうことになったのだけど、何か用事でもあったんだろうか。
「どうしたの?」
「少し頼みたいことがあってな。こんなこと、我が言うのは間違っているのかもしれないが、どうしても確認しておきたい」
そう言って、話し始めたのは、以前船で一緒に生活していた仲間についてだった。
フェラトゥスはどうやら、あの日誌の書き手のようだ。
船の中では指揮官を任されており、みんなをまとめる立場にあったようだ。
あの日誌の最後のページが書かれた後、残った船員達は決死の下山に乗り出した。わずかな食糧、十分でない衣服で、雪山の中を進もうとしたのだ。
その結果どうなったかというと、大量の死者を出したのである。
そりゃそうだ。ただでさえ、防寒具を着ていても寒い場所で、恐らくただの軍服だったであろう人達が寒さをしのげるわけもない。寒さにやられ、そのまま死んでいった人も数多くいたことだろう。
それに、魔物の存在もある。その当時からスケルトンがいたかどうかはわからないが、そうでなくても他の魔物だっていただろうし、それらに襲われて、という可能性も十分にあるだろう。
そうして徐々に数は減っていき、部隊は散りぢりになってしまったようだ。
フェラトゥスは残った数少ない部隊をまとめ上げ、何とか下山を試みようとしたが、最終的には全滅した。そして、フェラトゥスとして蘇ったというわけだ。
「あの時、我は運よくこうして転生することができた。しかし、他の仲間達がどうなったかまではわからない。我はそれが気になってしょうがないのだ」
「まあ、気持ちはわかるの」
自分はなぜか生き返ることができたが、他の仲間はどうなってしまったのか。
自分と同じように、別の姿に転生してどこかで生きているのか、それともそんな機会も与えられずにあの世に行ったのか。生き残った身としては、それが気になるのはわかる。
まあ、予想としては、そんな機会も与えられなかったか、あるいはあってもスケルトンとしてさまよっている程度のものだと思うけどね。
あのスケルトンは恐らく、そんな彼らの死体からできたものだと思う。だから、スケルトンとして蘇った、と言ってもおかしくはない。
だが、そこに意思があるかどうかはわからない。体が同じでも、意思がなければそれは蘇ったとは言わない。
確実にとは言えないけど、あまり期待しない方がいいんじゃないだろうか。
「我と同じように、別の姿となって転生している可能性はどれくらいあるだろうか?」
「うーん、なんとも言えないの。神様次第だろうけど、そんな手間をかける理由も見当たらないし、普通に考えればそのままあの世行きって可能性が高いの」
やはりぶち当たるのは神様の意図である。
様々な可能性を考えたが、やはりフェラトゥスを生き返らせた理由はわからない。
人族の味方として、敵として、どちらだったとしても、あそこに留めておく必要はどこにもないのだから。
そんな、理由がはっきりしない転生を他の人にもやるだろうか?
まあ、可能性はゼロではないけれど、もし同じようにネームドボスに転生させ、それぞれのボスフィールドに縛り付けているのだとしたら、ちょっと大変だな。
もし生きているとなれば、フェラトゥスは彼らに会いたいと願うだろう。俺としても、できれば会わせてあげたいと思う。
でも、そのためにネームドボスを探し出し、わざわざかつての船員だったかどうかを問いただすのは無理がある。
向こうから会いに来てくれるんだったら、楽でいいんだけど。
「そうか……。すまない、時間を取らせた」
「別に構わないの。仲間に会いたいと思うのは、当然のことなの」
前向きに考えるなら、そう言う人の魂を持ったネームドボスがいるということは、仲間にできる可能性もあるってことだ。
フェラトゥスが『リビルド』によってボスではなくプレイヤーとして扱われたように、他のネームドボスも『リビルド』によって仲間に出来る可能性は高い。
ネームドボスは、最低レベルでも30はある。それに、ネームド特有の固有スキルや高いステータスが合わされば、十分な戦力となってくれることだろう。
狙って探そうとは思わないが、もしたまたま見つけるようなことがあれば、試してみてもいいかもしれないね。
「そちらはこれから再び霊峰の捜索をするのだろう? 我も同行していいだろうか」
「構わないの。もしかしたら、何かあるかもしれないし」
わざわざあんな所にネームドボスを配置していたってことは、普通に考えれば、あの霊峰のボスということになるだろう。
であれば、ボスを撃破したことによって何か変化があるかもしれないし、何ならボス自身が行くことによって発動する仕掛けなんかもあるかもしれない。
まあ、絶対あるとは言わないけど、何かの役に立つ可能性はあるかもしれないしね。
「感謝する。準備ができたら声をかけてほしい」
「わかったの」
さて、それじゃあみんなを呼びに行こうか。
俺はひとまず、一番近いであろうカインの下に向かうことにした。
特に行く日を決めていなかったとはいえ、防寒具ができたことは伝えていたから、呼び出されることはすでにわかっていたようだ。
特に苦労することもなくみんなを呼び集め、ポータルの前に集合する。
「みんな、防寒具のサイズは大丈夫そうなの?」
「ああ、問題ないぜ」
「ピッタリですよ」
「イナバの分まで用意してもらっちゃって、ありがとね」
「一緒に行くなら用意しないわけにはいかないの」
サクラの手の中には、小さな防寒具を着せられたイナバさんが収まっている。
まあ、元々毛皮で覆われているのだし、そんな用意する必要もないかもしれないけど、凍結状態が発症するくらい寒いとなると、普通に寒い可能性もある。
まあ、着脱はいつでも可能だし、暑かったら脱げばいいだけの話だ。
イナバさんも気に入っているのか、特に文句は言ってこない。
サクラに頼まれて、あれこれ意匠をいじった甲斐があったというものだ。
「目標はスターコアの発見、みんな気を引き締めていくの」
「「「おおー!」」」
みんな出かけ声をあげ、準備はばっちり。
さて、行くとしようか。
そうして、俺達はポータルをくぐり、再び霊峰へと挑むのだった。
感想ありがとうございます。




