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第二百七十七話:ちょっとした想定外

 もう【威圧】は通らないと判断し、イナバさんを下がらせる。

 かなり緊張していたのか、その顔色は真っ青だ。こちらまで心臓の音が聞こえてくるほどである。

 流石にイナバさんを前に立たせるのは無茶が過ぎただろうか。これならば、多少時間をかけても三ターン耐え忍んだ方がよかったかもしれない。

 もちろん、それによってイナバさんが攻撃される回数も増えるわけだけど、最前線で受けるより後方で受けた方が避けやすいし、何より威圧感が少ないだろう。

 アウラムには【プレッシャー】のスキルがあるし、イナバさんがこんなに怯えているのは、そのせいもあるかもしれないね。

 【威圧】と違って、【プレッシャー】はデバフだから【状態異常無効】では防げない。まあ、仮に防げるとしても、イナバさんなら怖がっていそうな気もするけど。


「アリス、次はどうする」


「きゅっ」


「耐え忍ぶか。了解」


 とにかく、これ以上恐怖状態にしようとしても無駄だ。であれば、さっさと耐えきった方がいい。

 そう思って指示を出したが、その瞬間、アウラムの角の色が変わるのが見えた。


「きゅぅ?」


 どういうことだ?

 まだ次のギミックへ移行するには早い。自動的にギミックが切り替わる場合、攻撃せずに待つ必要があるので、少なくとも【威圧】をかけようとしていたターンはカウントされないはず。

 でも、それだと時間的に辻褄が合わない。

 もちろん、リアルとなっているせいで一ターンがどういうくくりになっているかは曖昧だけど、それでもなんとなくはわかる。

 偶然かもしれないけど、自然と攻撃してはされてを繰り返しているしね。

 なら、あれはギミック解除による移行? 恐怖状態にしていないはずなのになぜ……。

 いや、まさか?

 俺はアウラムのキャラシを確認する。

 本来、魔物にキャラシは存在しないし、あったとしても名無しのため確認はできないが、ネームドは別だ。なにせ名前があるからね。

 だから、アウラムのキャラシも見ることができる。

 そこには、状態異常の欄にきっちり『恐怖』の文字が書かれていた。

 【威圧】が成功していたのか? 効いていないように見えたけど、最後にやったのが成功したということだろうか。

 なんにしても、これでまた一つギミック解除である。

 試練は全部で七つ。後五つ解除すれば試練は終わりだ。

 と言っても、その後に普通の状態で戦う必要があるわけだけど……。


「アリスさん!」


「ッ!? きゅきゅっ!」


 その時、流れ弾なのか、俺の方に炎の球が飛んできた。

 とっさにカインが【カバー】してくれたが、下手したら当たっていたかもしれない。

 何やってるんだ。いくら予想外のことがあったとはいえ、回避を怠るなど絶対にやってはいけないことである。

 すでにカインは【ロイヤルガード】となっているおかげで、【カバー】の射程を無視するスキルを獲得しているから行けたけど、そうでなければ今ので俺は死んでいただろう。

 しっかりしないと。俺はカインに礼を言いつつ、頭を振って集中力を取り戻す。


「きゅぅ!」


「もう次のギミックですか? まあ、早いのはありがたいですが」


 俺は次のギミックを伝える。

 次のギミックは物理ダメージのみで一定ダメージを与えるというものだった。

 攻撃には物理と魔法という概念があり、剣で斬る、矢で射るなんかは物理攻撃として扱われる。

 物理攻撃の中でも、相手に近寄って攻撃するのを近接攻撃、弓のように遠距離から攻撃するのを射撃攻撃とも呼ぶけど、今はそれは置いておこう。

 魔法攻撃は当然ながら魔法による攻撃のことなので、この場合はサクラの魔法がそれに該当する。

 つまり、今回はサクラの攻撃なしで一定ダメージを稼がなければならないわけだ。


「私の出番ですね。シリウスも準備しなさい」


「わかってるよ。イナバ、攻撃中でも【カバー】はできるだろうが、極力避けろよ。もしかしたら間に合わないかもしれないからな」


「怖いこと言わないでよ!」


 イナバさんが戦えない以上、物理攻撃役はカインとシリウスになる。

 こうなってくるとイナバさんには弓スキルを覚えさせた方がよかったかもしれないが、元よりイナバさんを戦わせる気はなかった。

 さっきはイナバさんしか適役がいなかったから仕方なくやったけど、これ以上前に出したら後でどやされそうである。

 今だって目に涙を浮かべているしね。これ以上戦えというのは酷だろう。

 だから、後はカインとシリウスにかかっている。

 どちらも役割的にはサブアタッカーだけど、果たしてどこまでいけるか。


「【チャージアタック】!」


「【セイントセイバー】!」


 カインが盾を構えて突撃するのに合わせて、シリウスも剣を構えて飛び掛かる。

 【セイントセイバー】は聖なる力を宿した剣で斬りかかるというものである。

 本来、剣で斬りかかる系の攻撃は物理攻撃に分類されるが、これは聖属性の魔法攻撃としても扱う。

 ただの無属性攻撃である剣が属性を帯びることになるので、少し便利なんだよね。

 まあ、今回の場合、アウラムは火属性なので弱点というわけでもなく、あまり関係ないが。

 それでも使ったのは、多少なりとも威力が上がるからだろう。

 基本的に、普通に攻撃するよりスキルを乗せた方が威力は高い。よほど理由がなければスキルを使った方が無難だ。


「防御無視を無視するのはどうかと思いますが……」


「そうでもなきゃネームドは名乗れないんだろ」


 カインの【チャージアタック】は、本来相手の防御力を無視してダメージを与えるが、アウラムのそれはどちらかというと防御力ではなく特殊耐性だ。

 なので、防御無視の効果は適用されない。ちょっとややこしいけど、これはルール通りである。

 特殊耐性を突破する方法は今のところないので、もし使われたら真正面から突破しないといけない。

 本当に面倒くさい。これだからネームドは困る。


「だが、すでに三回目だ。耐性も落ちてきてる」


「ですね。さっきより通りがいい気がします」


 日輪の試練は最初が一番厳しくて、徐々に優しくなっていく。

 三回目ともなれば、ダメージカットも半分以下まで落ちているのでダメージを稼ぐのはそう難しいことではない。

 そこらへんはレベルの暴力だよね。防御力はいくら上げても限界があるけど、攻撃力は上げれば上げるだけ有利になるから。


「来たか」


「サクラ、多分次はお前だぞ」


「わかってるよ。ちゃんと準備してるわ」


 角の色が変わる。

 シリウスが予想していたが、今度は魔法攻撃で一定ダメージを与えるというものだった。

 どっちかというとこちらの方が先に来て欲しかったが、まあ三回目も四回目もそう変わらない。

 早めに突破できそうということを喜んだ方がいいかもしれないね。


「【セイントオーダー】。一気に決めちまえ」


「バフありがと。これだけあれば、三発くらいで行けるかも」


 【セイントオーダー】は三ターンの間味方が与えるダメージにプラスするスキル。

 剣を天に掲げ、勇ましい号令をかけるスキルなのだけど、シリウスのはいたって冷静な口調で行われていた。

 まあ、指揮官が冷静なのはいいことなのかな? ちょっと迫力には欠けるけど。

 とはいえ、バフがかかるのは変わりないので、問題はない。

 そろそろMPが厳しくなってくる頃だろうし、次のギミックではMPポーションを飲むか、ギルドスキルを使うかした方がいいかもしれないね。

 俺はリーダーであるカインに指示を出し、タイミングを任せる。ギルドスキルはリーダーにしか使えないからね。

 あと半分、頑張っていこう。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 順調に見える……が( ˘ω˘ )
[一言] 危うく丸焦げになる所でした あと半分でドラゴンキラー(の場にいた)兎になれる!
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