第二百七十八話:試練を超えて
ギミックの解除は順調だった。
四回目はいざ知らず、五回目、六回目も難なく突破。残すギミックはあと一つとなった。
ここまでくれば耐性はほぼなくなり、十分にダメージを与えることも可能である。
もちろん、すべて解除した方が耐性は完全になくなるし、試練をすべて終えるとこちらにバフを付与してくれるので解除した方がいいのは確かだけどね。
ただ、その最後の試練が少し面倒なものだった。
それは、『射撃攻撃で一定ダメージを与える』である。
射撃攻撃は基本的に遠距離での物理攻撃、つまり、弓とか銃での攻撃のことを指す。
この中で射撃攻撃ができる人は誰かと言われれば、そう、アリスの体であるイナバさんしかいないのだ。
もちろん、他にも方法がないわけではない。
例えば、プレイヤーはそこらのものを拾って投擲することができる。投擲は射撃攻撃扱いなので、これを使えば一応条件は満たせる。
だが、投擲によるダメージは基本的に投げたものと筋力の能力値によって決定される。
タンク役としてある程度筋力に振っているカインはともかく、サクラやシリウスはそこまでの威力は出ないだろう。
ただでさえ、石ころ程度では碌なダメージが出ないのに、それがさらに下がってしまっては一定ダメージに届かせるのに何ターンかかることやらだ。
ただ、これは俺のミスでもある。ギミックの中に射撃攻撃によるダメージがあったのは知っていたのに、攻撃手段を用意していなかったのだから。
せめて、ダメージを与える系のアイテム。例えば爆弾とか、そのあたりを持っていれば投擲でもそれなりのダメージを与えられたというのに。
今のままだと、イナバさんに頑張ってもらうしか方法がない。
まあ、このギミックは諦めて三ターン待つのも手ではあるが、ここまで来て耐えるのも割とつらいだろう。
すでにギルドスキルである【ギルドスキル:ホワイトブレッシング】は使ってしまっているし、MPポーションも数が少ない。
三ターン耐えられるかと言われたら耐えられはするだろうが、試練後も戦うことを考えるとできれば温存しておきたい。
できることなら、イナバさんにやってもらいたいところだけど……。
「イナバ、やれるか?」
「む、無理だよぉ……弓の使い方なんて教わってないし」
「アリスの得物は元々弓だ。スキルを思い出せば、すぐに使えると思うぞ」
「そ、それはそうかもしれないけど、ヘイト買いたくないんだけど!」
イナバさんの意見はもっともである。
現状、最も攻撃を受けているのはカインだが、狙われているのはシリウスである。
これは、シリウスが回復役であり、何度も何度も回復スキルを使っているからだ。
バフ系は最悪戦闘前にかけられればいいが、回復は戦闘中に使わなくてはならない。そして、スキルを大量に使う、すなわち相手にとって厄介だと判断されたプレイヤーは積極的に狙われる。
公平なゲームマスターなら完全ランダムということもあるかもしれないけど、俺の場合はこいつだったらこう行動するだろうという予測の下、狙いを決定することが多いので、ヘイトを貯めるイコール狙われやすいというのはよく理解できた。
イナバさんが全体攻撃以外であまり狙われないのは、全く攻撃してないからである。これが、積極的に弓で攻撃なんてしてたらかなり狙われていたことだろう。
一応回復スキルは使っているが、それ以上にシリウスが使いまくってるから相殺されてる感じだろうな。
まあ、今更弓で攻撃し始めたところでそこまでヘイトが溜まることはないと思うが、怖いのは確か。せっかくここまで来たのだから、下手に攻撃してその均衡を崩したくないのはわかる。
「これ以上は守り切れないかもしれませんよ。ここで決着をつけず、いつつけるというのです」
「元々戦わないって条件だったじゃん! アリスさんが何言ってるのかは知らないけど、僕を巻き込まないでよ!」
一番の理由はそれだ。
イナバさんは俺が着いていくから一緒についてきただけに過ぎない。
本来なら、町で大人しく待っていたかったのに、戦わなくていいという条件で連れてこられたのだ。
それを持ち出されればカインも弱い。いくら憎んでいる相手とはいえ、正当な発言には文句はつけられない。
イナバさんも嫌がっていることだし、ここは待つのが正解かな。
「……わかりました。無理を言ってしまって申し訳ありません」
「わ、わかればいいんだよ……」
さて、イナバさんは攻撃できない。投擲で稼いでもいいが、それでは時間がかかりすぎる。
であれば、三ターン待ってでも、別のギミックにさせた方がいい。
その考えの下、三ターンを耐え凌ぎ、別のギミックへと変わった。
最後のギミックは、単純明快。一定数のダメージを与えろ、である。
これなら、他の三人でどうとでもなる。最後七回目の試練ということもあって、その条件は早々に達成されることになった。
〈……見事〉
日輪の試練が終わり、アウラムは翼を閉じる。
辺りを支配していた炎上フィールドは鎮火していき、やがて元の火山のフィールドへと戻っていった。
これからが本番だと思っていたけど、もしかして戦わなくてもいい感じ?
〈よくぞ我の日輪の試練を乗り切った。そなたらであれば、我が竜玉を授けるのにふさわしい〉
アウラムはそう言って脇へ退く。
戦っている最中、一歩も動かなかったその先にあったのは、巨大な隕石だった。
間違いなく、スターコアが眠っている。そんな予感が俺にはあった。
どうやら竜玉というのは、スターコアのことで間違いないらしい。
「やっと終わったか……」
「流石に疲れましたね……」
「もうMPすっからかんだよぉ……」
アウラムの宣言を前に、三人はその場に座り込む。
アウラムの攻撃は苛烈だった。特に、最初の攻撃に関してはカインが全力でガードしてもかなりのダメージを受けるものである。
防御スキルを重ね掛けし、さらに【プロテクション】によるダメージ軽減を前提にしたダメージ量である。そりゃ死にかけるわ。
回復に関してはシリウスがかなり優秀だった上に、イナバさんも微力ながら回復に参加していたのでギリギリ間に合っていた。
サクラに関しては今回最大のダメージディーラーである。サクラがいなければ、最初の試練を早々に突破することはできなかっただろう。
誰一人として、欠けていては勝つことはできなかった。そう考えると、パーティって大事なんだなって思う。
そんな中に入っていけないのが少し寂しいが、今はみんなが無事だっただけで嬉しかった。
「まじでドラゴンを倒しちゃったよ……。いや、倒したというか、認められたっていうべきかもしれないけど」
イナバさんも今回の結果には驚いているようである。
この世界の常識であれば、ドラゴンを相手にするには最低でも十数パーティが必要となるらしい。
それがネームドドラゴンが相手となれば、もっと必要になることだろう。
それを、たった一パーティで打倒したのだから、驚くのも無理はない。それも、わずかとはいえ自分も貢献したのだから余計に驚いているかもしれないね。
とにかく、俺達はアウラム相手に生き残った。これだけ理解できていれば問題はないだろう。
「きゅぅ……」
俺もほっと胸を撫でおろし、その場に座り込む。
考えないようにしていたけど、かなり緊張していたんだ。
なにせ、一発でも当たれば死な上に、回避力は十分じゃないって状況だったのだから。
今回はあえて狙わないようにアウラムが配慮してくれたからこそ、無傷で済んでいるのである。
一応当たっても何とかなるように対策はしていたけど、使わずに済んでよかった。
さて、少し休憩したら竜玉とやらをいただこう。そう考えて、俺は隕石の方を見つめていた。
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