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〈嵐の到来…3〉

アヤナーラの体調は安定したものの数日間眠り続けていた。

その間ステイルはずっと眠ることもせずに付き添っていた。


ある夜、眠っているアヤナーラが優しく微笑みながら「…あきと…」と呟く声が聞こえた。


その瞬間どす黒いものが身体中を駆け巡った。


また"アキト"と言ったな。

その言葉を聞くだけで私の心が崩れていく。


アキトとは一体誰なのだ。

私と言う存在がありながら、病に倒れた彼女がなお、縋るように呼ぶ男は…


夢の中でもその男のことを考えているのか。

私のアヤナーラの心にいるお前は誰なのだ。

私のアヤナーラには指一本触れさせない。

私が見たこともない、慈愛に満ちた"女の顔"を彼女にさせる…その正体は誰なのだ。


許さない…絶対に許さない!


お前がどこの誰であろうと、この世界の果てまで追い詰め、地獄の底まで引き摺り出し、私の手で何度でも殺してやる。

もしも夢の中にしか現れない者だとしても私が必ず夢の中に入り込みこの手でとどめを刺す。


私は力強くアヤナーラの手を握っていた。



「…いっ、痛い…」と強く握られた手を振りほどこうとするアヤナーラ。


重い瞼を開けるとそこには目の下にはクマが出来、明らかに顔色の悪い窶れたステイルがいた。


「…ステイル…殿下…」


そんな声に弾かれたように顔を見上げる。


「ああ、アヤナーラ嬢…目覚めてくれた…

はっ、すまない、アヤナーラ嬢…手を強く握りすぎていたようだ。目覚めてくれて本当によかった。あぁ、本当によかった………

…アヤナーラ嬢気分はどうだい?」

と差し出された手は私の頬をなぞった。


「ステイル殿下…申し訳ございません。どうやらお忍びの後に倒れてしまったようです。ご心配をおかけしました。でもだいぶ良くなった気がします。」と微笑む。


「君は鎮静化したはずの流行病に罹ってしまったんだ。たまたま昔私も罹って治してもらえてね、一度罹った者の魔力を込めた血があれば君は治ると聞いて、私の血をあなたの中に入れてもらったんだよ。ねえ、アヤナーラ、今、君の中には私の血が流れているんだよ。これで名実共に私のものになったんだよ。ねぇ、アヤナーラ。君も嬉しいだろう?」と、どす黒い笑顔で私に告げる。


その笑顔を見て私は恐怖を覚えた。

またあの時と同じだ…と怖くなってしまった。


話を変えようと…「…ステイル殿下、もしかして私が目覚めるまでずっとついていてくださったのですか?」と聞く。


「ああ、君を失いたくないからね。ずっとあなたの手を握っていたよ。目覚めて本当によかった。……でもね、あなたが興味深い名前を呟いていてね、私は忘れられないんだ…。


ねえ、アヤナーラ?……"アキト"とは誰のことなんだい?


君を女の顔にさせるその男は一体誰なんだい?私では物足りないのかい?」


優しい口調だがその目は笑っていない。

そしてステイルは、私を熱を持った獣のような瞳で睨め付け、私の上に覆い被さり、深い口づけをした。


扉の向こうで控えていたユリウスとエミリーが異変に気づき急いで「失礼いたします。殿下、アヤナーラ様はまだご病気です!それにまだ婚姻前ですっ!おやめください!」とステイルを無理矢理引き離した。


「病み上がりのところ大変申し訳ございませんでした。ステイル殿下はずっとあなた様についておりましたので城へ戻し休養させますのでこれにて失礼いたします。」とユリウスから告げられた。


私は変わってしまったステイルを見てショックからしばらく動くことができなかった。

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