番外編:〈銀の記憶と薔薇の余生〉
長い長い年月が流れた。
かつて「氷の王子」と呼ばれた男は、歴史に名を残す賢王となり、その隣には常に「慈愛の薔薇」と称えられた妃の姿があった。
二人の子供たちは立派に育ち、孫たちの笑い声が城に響くようになっても、ステイルのアヤナーラに対する独占欲と情熱は、ついに枯れることがなかった。老いてなお、ステイルはアヤナーラの手を離さず、彼女が庭園を歩けばその足元を気遣い、彼女が微笑めば世界で一番幸せな男のように目を細めた。
「アヤ……。君とこうして、何度目の春を迎えただろうね」
ある日の夕暮れ。静かな離宮のテラスで、二人は並んで椅子に腰掛けていた。
ステイルの銀髪は雪のように白くなり、アヤナーラの髪もまた穏やかな色に変わっていたが、重なり合った二人の手の温もりだけは、あの若かりし頃と何も変わっていなかった。
アヤナーラは、ステイルの肩にそっと頭を預けた。
前世、綾乃としての人生は短く、愛する家族を遺して逝くという未練を残していた。けれど今、アヤナーラとしての人生は、ステイルという一人の男の重すぎるほどの愛に満たされ、何一つ思い残すことのない輝かしいものとなった。
「ステイル。私、この世界であなたに見つけてもらえて……あなたと生きて、本当に幸せだったわ」
「……私の方こそ。君がいない世界など、私には想像もできない。……あの日、君が私に感情を教えてくれた時から、私の時間は君と共にしかなかった」
ステイルは震える手で、アヤナーラの手をより強く握り締めた。
「……アヤ。もし次があるのなら、また私が見つけてもいいだろうか。今度はもう少し、スマートに君を口説いてみせるから」
「ふふ、またそんなことを。……ええ、私を見つけてくださいね。またステイルを好きにさせてくださいね。」
夕日が空を真っ赤な薔薇色に染め上げ、やがて静かな夜がくる。
二人は互いの温もりを感じながら、ゆっくりと、深く、眠りに落ちるように瞳を閉じた。
ーーー翌朝、駆けつけたルカヌスとシリウスとルナマーリア、そして側近として最後まで仕えたユリウスが見たのは、微笑みを浮かべたまま、手を繋いで安らかに旅立った二人の姿だった。
「……最後まで、兄上らしい。一秒たりとも、彼女を一人にはしなかったんだな」
ルカヌスが涙を拭いながら、穏やかに微笑んだ。
ステイルは、アヤナーラを一人で死の淵へ行かせはしなかった。そしてアヤナーラもまた、彼を孤独に置き去りにしなかった。
前世の呪縛も、運命の悪戯も、すべてを超えた二人の愛。
ヴァレンシュタットの歴史書には、こう記されている。
『銀の王と薔薇の妃。二人の愛は死をもってしても分かたれることなく、同じ日の同じ刻、共に天へと昇った』と。
空には、二人の魂を導くような、眩いばかりの光が満ち溢れていた。
番外編、思ったよりも書きたいものが多くなってしまいました。
ここでこの世界での話は終わりになりますが、3人の新たな世界での転生の話も書きたいと思ってます。
その時は第2部として書いていこうと思ってますので読んでいただけら嬉しいです。
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読んでくださった皆様ありがとうございました。




