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番外編2 〈銀の継承者:小さなライバルと王の意地〉

シリウスが3歳になった頃。かつての冷徹な王子に生き写しの少年は、その賢さと可愛らしさを武器に、ステイルから「アヤナーラという名の領地」を次々と奪い取っていた。


「母上! シリウスね、このお花を母上にあげたくて一生懸命摘んできたの!」


庭園で、シリウスが天使のような笑顔でアヤナーラに駆け寄る。アヤナーラは顔を輝かせ、「まあ、嬉しい! ありがとう、シリウス」と彼を抱き上げ、その頬に口づけをした。


その様子を、数歩後ろから国王ステイルが、眉間に深い皺を寄せて睨んでいた。


「……シリウス。母上は公務で疲れている。あまり甘えて困らせるな」


「困ってないもん! 母上、シリウスを抱っこしてるの、嫌い?」


「いいえ、大好きよ。ねえ、ステイル?」


アヤナーラに同意を求められ、ステイルは「……っ、嫌いなはずがなかろう」と苦虫を噛み潰したような顔で答えるしかない。シリウスは母の腕の中から、父にだけ見える角度で「ニヤリ」と、かつてのルカヌスのような勝ち誇った笑みを向けた。


ステイルのイライラはどんどん募る。


シリウスが庭園の隅で一人遊びに没頭した、その一瞬の隙を見逃さず、ステイルはすかさずアヤナーラの背後にぴったりと張り付いた。


「ふふふ。ステイルは、シリウスとも本気で張り合うのね」

(本当に、愛おしいお方だわ……)


アヤナーラが楽しげに微笑むと、ステイルは彼女の腰をさらにきつく抱き寄せ、その首に顔を埋める。


「当然だ。たとえ我が息子であろうとも、私から君を奪うことは万に一つも許さない」


だが、その独占欲に満ちた声は、案外遠くまで届いていたらしい。シリウスがハッとして振り返り、親密な様子の二人を見るなり、顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。


「あー! また僕の母上に抱きついてる! 離れてください、父上っ!」

シリウスは、ステイルとアヤナーラの間に無理やり割り込もうと、小さな体でステイルを押し返す。


「父上! 僕は将来、絶対に母上と結婚しますからね! 父上はもう、どこかへ行ってくださいっ!」


シリウスが頬を膨らませてアヤナーラにすがり付くと、ステイルの瞳に大人気ない対抗心が宿る。


「無理だ! アヤナーラは私の妻であり、私の魂だ。お前に譲るはずがなかろう!」


ステイルも負けじと、シリウスの反対側からアヤナーラを抱きしめる。


左右から引っ張りだこになったアヤナーラは、苦笑しながらも、その騒がしい温もりに胸がいっぱいになった。

(……本当に、幸せ。ステイルと巡り会えて、本当に良かったわ)


かつて孤独の銀世界にいた王子が、今や息子と愛を競い合っている。その賑やかな幸福を噛み締めながら、アヤナーラは二人を優しく、等しく抱きしめ返すのだった。



ーその夜…寝室ー


ようやく二人きりになれると思ったステイルだったが、ベッドの真ん中には、小さな銀色の頭が我が物顔で収まっていた。


「……シリウス。自分の部屋で寝るように言ったはずだ」


「やだ! 今日は母上と、明日のピクニックのお話をするの!」


「話なら、今ここで私が聞いてやる。アヤ、君も甘やかしすぎだ」


ステイルが強引にシリウスを抱え上げようとすると、シリウスはアヤナーラの夜着をぎゅっと掴んで離さない。


「母上! 父上が怖い顔してシリウスをいじめるー!」


「ステイル、そんなに怖がらせなくても……。いいじゃありませんか、今夜くらい」


アヤナーラにたしなめられ、ステイルは絶望の表情で天を仰いだ。


(……こいつ、わざとやっているな。私の息子なだけあって、アヤの落とし方を熟知していやがる)


結局、ステイルはアヤナーラとの間にシリウスを挟んで眠ることになった。しかし、夫としての意地がある。シリウスが寝入った深夜、ステイルは静かにシリウスの体を端へ寄せ、最短距離でアヤナーラを抱き寄せた。


「……アヤ。私を一番に愛すると誓っただろう。子供相手でも、私は譲るつもりはない」

眠っているアヤナーラの耳元で大人気なく独り言をこぼすと、ステイルは満足げに彼女の香りを吸い込んだ。


翌朝、目が覚めると、シリウスがステイルとアヤナーラの間に割り込み、ステイルの腕を退かしてアヤナーラを独占していた。


「……ユリウス!シリウスの教育係に、もっと厳しくしろと伝えろ」


朝食の席で、目の下に隈を作ったステイルがユリウスに命じると、それを聞いていたルカヌスは笑い転げた。


「ははは! 兄上、因果応報だね。自分と同じくらい独占欲の強い子を作っちゃったんだから、諦めて仲良くアヤナーラを奪い合いなよ」


ステイルは、自分にそっくりな顔でアヤナーラに甘えるシリウスを見ながら、盛大なため息をつく。だが、その瞳には、かつての孤独な「氷の王子」の頃にはなかった、騒がしくも愛おしい家族への熱い情熱が宿っていた。


ルカヌスは…「父上の血は恐ろしいな」と呟いた。

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