〈独占欲の告白-銀の王子の執着と甘い代償〉
夜会が終わり、城が静寂に包まれ始めても、ステイルの胸の中に灯ったドロりとした嫉妬の火は消えるどころか、激しく燃え上がっていた。
「……はぁ」
何度目か分からない深い溜息をつく。脳裏にこびりついて離れないのは、今夜、ある若手騎士と談笑していたアヤナーラの姿だ。
彼女が楽しげに小首を傾げるたびに、その騎士が頬を染め、憧憬の眼差しを彼女に向けていた。ステイルは、その騎士の視線が彼女の白い首筋や、開いた背中に触れるたび、その男を今すぐ地下牢へ叩き込んでやりたい衝動に駆られていた。
以前の彼なら、この燃えるような嫉妬を「冷徹」という氷の殻に閉じ込め、彼女を凍りつくような沈黙で突き放して傷つけていただろう。あるいは、言葉もなく彼女を寝室へ連れ去り、気が済むまで狂ったようにその身体を抱くことでしか、己の独占欲を証明できなかったはずだ。
だが、今の彼は違う。彼女が教えてくれた「愛」が、彼を変えていた。
ステイルは、着替えを終えて寝室へ戻ってきたアヤナーラを見つけるなり、背後からしがみつくように抱きついた。大きな身体を丸めるようにして彼女の細い背に顔を埋め、消え入りそうな、けれど熱を帯びた声で囁く。
「……アヤ。嫉妬した。……狂いそうなほど、嫌だった」
アヤナーラの身体が、びくりと震える。
「あんな風に、私以外の男に笑いかけないでくれ。……君が他の誰かに微笑むたび、私は自分が君にふさわしくない『怪物』に戻ってしまう気がするんだ。……だから、お願いだ。今は私だけを、私だけをたっぷり甘やかしてくれないか」
独占欲を「攻撃」ではなく、剥き出しの「愛の要求」としてさらけ出した瞬間だった。
不器用で、あまりにも切実なステイルの告白。アヤナーラは、背中に伝わる彼の微かな震えと、自分を求める必死な温もりに、胸がぎゅっと締め付けられた。
彼女はステイルの腕の中でゆっくりと向き直る。
「はい、私の王子様。……どうぞ。」
アヤナーラが慈愛に満ちた微笑みで両手を広げると、完璧な王子と称えられる男は、まるで迷子の子供のように、すぐさまその胸へと飛び込んだ。彼女の柔らかな体温と、薔薇の香りに包まれて、ようやくステイルの荒い呼吸が落ち着き始める。
「ああ、アヤ……。なぜ君は他の男にもあんな優しい笑顔を送ってしまうんだ。……あいつに触れられたその場所も、見られたその肌も、本当はすべて私だけのものなのに……」
首筋に熱い唇を這わせながら、ステイルがぶつぶつと独り言のような執着をこぼす。
「ふふ、笑顔のない王子妃なんて、民衆もステイルも嫌でしょう? それにね、……私は愛しているあなたに、世界で一番の笑顔を向けているつもりなのよ?」
アヤナーラは、彼の身体をぎゅっと抱きしめた。
「……それに、ステイル。私だって、あなたが若い令嬢たちと、あんなに近くでお話しされているのを見るのは、胸がチクチク痛むのよ? ……私以外の女性に、そんなに優しくしないでくださいませ」
アヤナーラが少し拗ねたように、潤んだ瞳でステイルを上目遣いに見つめる。
その瞬間、ステイルの中で張り詰めていた理性が、音を立てて千切れた。
「…………っ、アヤ。君は、自分が何を言ったか分かっているのか」
ステイルの瞳から「甘え」が消え、狩人としての「欲」が宿る。彼はアヤナーラを逃がさないように抱き上げ、そのままベッドへと押し倒した。
「私が他の女を愛することなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。……私の心も、身体も、魂のひとかけらまで、君に捧げている。……君だってそうだ。私のものだ。……ああ、愛している。決して、……地獄まで追いかけてでも、離しはしない」
熱を帯びたステイルの瞳には、もう「王子」としての仮面などどこにもなかった。
彼は、彼女のすべてを自分の熱で塗りつぶすように、深く、激しく、その愛を刻み込んでいった。
嫉妬の余韻は、いつしかどろりとした甘い情熱へと変わり、二人の夜を深く沈めていく。ステイルは彼女を抱き締めながら、心の中で何度も誓う。
この薔薇の温もりのためなら、自分は何度でも、喜んで愛の狂信者になろう、と。




