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〈鳥籠からの解放〉

嵐のような謁見が終わり、国王にもひどく叱られたあとステイルは自室に戻った。


私はどこで道を間違えてしまったのか…

ただ、アヤを愛し守りたいと思っていただけだったのに…

でも、こんな私をアヤは選んでくれた…

自分が選ばれたというこの上ない幸福。

それと同時に救いたいと言われた瞬間に突きつけられた自分の醜さ。


私は…本気で彼女を壊そうとしてしまった…

彼女の聖域を土足で踏み荒らしてしまったのだ…

と、今更ながら後悔する。


どうしたら許してもらえるのだろうか…そんなことをぐるぐる考える。


そこへアヤナーラが部屋に入って来た。


ステイルは弾けるように顔を見上げ、縋るような…拒絶を恐れるような目で彼女を見上げた。


「アヤ…申し訳なかった…私はなんという大変なことをしてしまったのか…」と顔を手で覆う。


それを見たアヤナーラは自分の手をステイルの手に重ね「ステイル様。もう何もおっしゃらなくて大丈夫ですよ。」と微笑む。


そして「ステイル様、私…あなたとの赤ちゃんを授かりました。私、とても嬉しいのです。」と言って重ねた手を自身のお腹に導いた。


「…君と…私の…子…?」とお腹に導かれた手を凝視した。


「ええ、私とステイル様の赤ちゃんですよ。これからは家族として私とこの子だけを見ていただけませんか?私とあなたの子を守ってくださいませんか?私はこれからもあなたを愛し続けます。ですから、あなたも心の檻から自らを解放してあげてください。」


ステイルはアヤナーラのお腹に顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。

「アヤ、すまなかった…アヤ…愛している…」


「ステイル様、最後にもう一度だけ、魔道具を使って私の記憶を覗いてくださいませんか?」


彼女の唐突な提案に、心臓が跳ね上がる。

あの、彼女を壊そうとした呪わしい魔道具を、彼女自身から手渡されるとは。


「恥ずかしい気持ちもありますが…"綾乃"の記憶ではなく、私…"アヤナーラ"の記憶を見ていただきたいのです。」


震える手で魔道具を受け取り、精神を沈める。

視界が切り替わった瞬間、ステイルを襲ったのは火傷しそうなほど熱い「恋心」だった。


ーステイルとの出会いー

なんて優しい手…なんて素敵な微笑みなの。

私、どうしましょう。ステイル様のお顔が頭から離れない。いただいたこの薔薇は、一生大切にするわ……!


ー学園にてー

あっ、ステイル様!わざわざこちらへ来てくださったの?……まさか、私に会いに?いけない、自惚れてはダメよ。でも……嬉しい。お姿を見るだけでこんなにも胸が苦しい…


ー前世の記憶を思い出した時ー

戸惑った…。

だって私はアヤナーラなのよ?なぜ"綾乃"として生きていたことを思い出してしまったの?

小さな子どもを見るとどうしても陽菜を思い出してしまう。それはどうしたらいいの…?

よく前世では、異世界転生のアニメや小説が流行ってたけど、本当に自分がその立場になるとどうしていいかわからないものね…。

二つの記憶が存在するのよ?頭が混乱する…。でもこの世界には私しかいない。神様は意地悪だ。もしも生まれ変われるなら最初から記憶がある状態にしてほしかったわ。それに、私は"綾乃"じゃない。アヤナーラなのよ。

…ただ、"綾乃"はこうして記憶を思い出せば本当に彰人に愛されていたわね。

私もステイル様にそんな風に愛されたい。


ー結婚式ー

夢じゃないのね。ステイル様が、私の夫になる。誰にも渡したくない。私が世界で一番、ステイル様を愛している…。最近のステイル様は怖いと思うこともあるけれど…私が小さな頃からずっとお慕いしていたステイル様と結婚…。はぁ、幸せ…。


ーステイルが彰人に執着しているときー

…ステイル様は私を見てくれなくなった。

夢の…記憶の中の"綾乃"と"彰人"しか見ていない…。私も正直…最初はステイル様の中に彰人の影を探してしまった…。でも、ステイル様は違うとすぐにわかった。だから、ステイル様だけを見ようと思ったのに…。なんでこんなことに…。今この時を生きているのはアヤナーラで、ステイル様の妻は私なのに…。でも、思い出してしまった大切な記憶を消されるのは嫌な気分になる…。全てを受け入れて愛してほしいと思うのは私のわがまま?…ステイル様、アルベルト殿下にどうか剣を向けないで。戦争なんて起こさないで。いっそのこと、私が二人の前から消えたらいいの?でも、私ステイル様を愛してる…。ステイル様のそばに居たい…。


----

次々と流れ込んでくるのは、ステイルへの彼女の真実の情熱だった。


彼女の愛は、自分の執着に負けないほど、深く、重く、そして純粋だった。


前世の記憶を取り戻したあとも"アヤナーラ"としてステイルを想う気持ちだった。


記憶の底から引き戻されたステイルの視界は、溢れる涙で激しく滲んでいた。


「……ああ、なんてことだ。私は、なんて馬鹿だったんだ…」


ステイルは震える手で顔を覆い、溢れる涙を拭おうともせず、アヤナーラを強く抱き寄せた。


「アヤナーラ……。私は、あなたが私を恐れていたと思い込み、独りよがりな絶望に浸っていた。だが、違ったのだな。あなたの心の中には、あんなにも温かく、強い私への想いがあった……。それを知らずに私は……」


ステイルは彼女の肩に顔を埋め、熱い吐息とともに言葉を紡ぐ。


「愛している、アヤナーラ。前世の記憶でもない、義務でもない。今、私の腕の中にいるあなただけを、狂おしいほど愛している…。もう、あなたを閉じ込めたりしない。私の愛であなたを縛るのではなく、あなたの愛で私を繋ぎ止めてほしい。生涯をかけて、私はあなたを誰よりも幸せにすると誓う。……だから、これからも…私を愛してくれないか…」とても優しい口づけをする。


アヤナーラの記憶にあった情熱に負けないほど、深く、重い、切実な告白だった。





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