〈聞き慣れぬ名は、毒のように…2〉
ステイルはアヤナーラの手を取りピッタリとくっついて歩いていた。
そして何度もアヤナーラを見ては微笑みかけていた。
そんなステイルにアヤナーラは、何度私の心臓を止める気ですか…と思いながらのデートだった。
あるお店の前を通った時にふと夢の中の記憶と重なった。
「あきと…さん?のハンカチとそっくり…」と無意識に呟いていた。
ステイルはアヤナーラが男性物のハンカチに目を留めほとんど聞こえなかったものの、"アキト"とだけは聞き取れた。
…その瞬間胸の奥に黒く渦巻く何かが燃え上がったのを感じた。
「アヤナーラ嬢、どうかしたのかな?欲しい物でもあったのかい?」と平静を保ったように聞く。
アヤナーラは夢のことを考えてしまっていたことに気づき「あ、いえ、素敵なハンカチはないかしら?と思って見ておりました」と慌てて返した。
何かを隠されたと思ったステイルはアヤナーラの手を強く握ってしまう。
「あの…殿下どうされました?」と聞かれて、ようやく力が入り過ぎていたことに気づき「いや、申し訳ない、なんでもないよ」と答えた。
後ろに控えていたユリウスはステイルの異変を感じた。
あのお店でアヤナーラ様が呟いた一言を聞いた後からどうにも様子がおかしい。
ハンカチ1つで機嫌が悪くなるなど…一体アヤナーラ様は何をおっしゃられたのか?
あのお店の後からのステイルの変化はエミリーにも感じられた。
「ユリウス様、ステイル殿下に何かあったのでないでしょうか?」と思わず聞いてしまうほどに。
そんなエミリーに「何かあったら殿下はきっと私たちにすぐに伝えにくるはずですので、今はお二人のデートの邪魔はしないようにいたしましょう」とだけ告げた。
城下町からの帰りの馬車の中。
いつもは私を見て微笑みかけてくれるステイル様が私を見てくれない。
ずっと窓からの景色を見ていて、でも手は繋いだまま力がこもっている。
思わず「殿下…あの…私…何か気に触るようなことしてしまいましたか?」と震える声で聞いてしまう。
すると、驚いたようにこちらを見て「君が気に触るようなことをするなんてないから大丈夫だよ」と告げてくれた。
でもその顔にはいつもの笑みは無かった。
城へ着いたあともステイルはいつもの甘い言葉も視線を合わせてくれることもなくそのまま自室に戻ってしまった。
…冷たい後ろ姿だった。
ユリウス様から「申し訳ございません。緊急の案件がありましてご挨拶もせずに失礼をいたしました。」とお詫びがあった。
公爵邸へ帰る馬車の中。
「エミリー、私何かしてしまったのでしょうか…
殿下は何もしていないと言われたのですがいつもの殿下とはまるで違う方のようで…」と泣きたい気持ちを抑えながら呟いた。
何かあったのかはエミリーにも感じられたが「きっと大丈夫ですよ、だって殿下はあんなにもお嬢様のこと大切にしてくださってるではないですか」と慰めの言葉をかけた。
自室に戻ったステイルはすぐに地図を出し先程のハンカチが売っていた店を探す。
そしてユリウスを呼び人払いをし、「先程の店のことを調べろ。アヤナーラ嬢が見ていたハンカチと同じものを誰に売ったか、そして"アキト"なる人物を知っているか調べ上げろ!」と拳を叩きつけながら命じる。
まるで人が変わったようなステイルを見たユリウスは恐怖を抱く。
「…かしこまりました。すぐに調査いたします。」とは答えたものの、一体あの店で何があったのかと不安が過ぎる。




