〈公爵からの呼び出し-サヴォイア家の懸念-国王への報告〉
そんな折、ユリウスのもとに一通の密書が届く。
差出人は、アヤナーラの父、サヴォイア公爵だった。
公爵邸の応接の間。重厚な扉の向こうで、公爵は鋭い眼光をユリウスに向けた。
「ユリウス。……単刀直入に聞く。殿下は、我が娘に何をしている。」
その声には、親バカな溺愛ぶりだけではない、一国の重鎮としての威圧感がこもっていた。
「……殿下は、アヤナーラ様を深く、深く愛していらっしゃいます。ただ、その愛があまりに純粋で……」
「誤魔化すな!」
公爵が机を叩いた。
「娘からの便りが、ここ数ヶ月、不自然なほど型通りなものばかりだ。あれほど明るかったアヤナーラが…久方ぶりに見たアヤナーラは痩せ細り生気を失っているよう見えた。公務にも全く姿を見せず…殿下は、アヤナーラを監禁しているのではないか?」
ユリウスは沈黙した。肯定は主君への裏切りだが、否定はアヤナーラを見捨てることになるからだ。
「…公爵。殿下は今、隣国のアルベルト殿下の動きを極端に警戒されています。アヤナーラ様を守るため、という大義名分のもと、その自由を制限されているのは…事実です。」
公爵の顔が怒りと悲しみで歪む。
「守る…だと?」聞いたことのないような低く恐ろしい声だった。
「あんな顔の娘を、私は一度たりとも見たくなかった。……ユリウス。これ以上、殿下が踏み外すなら、私はたとえ反逆者と呼ばれようとも、娘を奪い返すぞ。」
ユリウスは深く頭を下げた。
ステイルの側近として。そして、一人の人間として。
王城の平穏が、足元からも崩れようとしているのを確信していた。
もうこのままではいけない。
側近として正せなかった罪は重いが、今までのことを全て国王陛下に話さなければ。
とユリウスは決意した。
国王陛下にこの事実を報告すれば、殿下は失脚し、弟君が国王になるだろう。私自身も主を売った不忠義の罪で処刑されるかもしれない。……だが、それでも。これ以上殿下が『怪物』に成り果てるのを、見てはいられなかった。
ユリウスは国王陛下の従者に国王へのお目通りを願い、国王陛下に全てを伝えた。
「優秀だと思っていたが…愛に狂ったか…。アヤナーラを迎えてからステイルの異変は感じ取ってはいたが、まさかここまでとは…。アヤナーラをしばらく公爵家に帰そう。ユリウスよ。その報告書が出来次第まずは私に通せ。ユリウスはしばらく私に自由に会えるよう従者に伝えておく。必ず戦争になどさせない。愚息を止めるぞ。…ユリウス。よくぞ、報告してくれた。」
国王のその言葉にユリウスは安堵した。
そしてステイルに決して手をかけさせはしないと心に誓った。
1週間後…
国王の命令によりアヤナーラの公爵家への帰省が決まった。
それと同時にアースパーニャ公国の第二王子、そして騎士団長のアルベルト殿下が"彰人"その人物だと判明した。
竜殺しとして、殿下が最も警戒していた相手だった。
そして、そのアルベルト殿下から書状が届く。
「アヤナーラ王子妃にお目通りを願いたい」と…
ユリウスはまず国王に報告し、アヤナーラではなくステイルに会うよう取り図るよう指示を受ける。
そしてその時は国王の近衛騎士を謁見の間に控えさせる、そして自らも謁見の間の隠し部屋で待機すると告げた。




