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〈隣国の王子-解かれた封印-昏睡の淵-〉sideアルベルト

深い、深い闇の底へ沈んでいた。

白竜に抉られた肩の傷から、私の血は絶え間なく流れ出し身体が冷えていった。

代わりに意識の中に『熱い記憶』が流れ込んできた。


(……これは、私の記憶か?)


騎士の鎧ではない。ネクタイを締め、重い鞄を肩にかけた自分。

鋼の剣ではなく、一本のペンを握りしめた自分。

そこは、魔法も魔物も存在しない、無機質で、けれど穏やかな鉄とコンクリートの世界。


私はそこで、一人の少女に恋をしていた。

『神崎彰人』として生きた人生は、彼女の笑顔を守るためだけに捧げられていた。


彼女の細い指先、照れるとすぐに赤くなる頬。

そして、病室の白いベッドで、今にも消え入りそうな声で私を呼んだ、あの最期の瞬間一一。


(ああ、そうだ……。私は、彼女を…救えなかった)


守りたかった。

病という理不尽から、運命という残酷な手から。

死の影に怯える彼女を抱きしめることしか出来なかった、あの日の絶望。

拳を握りしめ、己の無力さを呪いながら、私は彼女を、『綾乃』を看取ったのだ。

彼女ともっともっと長く一緒に居たかった。


……ドクンっと。

止まりかけていた心臓が、激しく跳ねた。


かつての私が、闇の向こうから呼んでいる。

「今度こそ……今度こそ守り抜くんだ!」


その誓いが、冷え切ったアルベルトとしての身体に、凄まじい熱を灯した。

もはや、ただの「騎士団長」としての自分ではない。

失った愛を取り戻すために、死の淵から這い上がってきた男の魂が、そこにあった。


ゆっくりと、重い瞼を押し上げる。

視界に映ったのは、見慣れた城の天井と、泣き腫らした顔で私を見守る婚約者、ソフィアの姿だった。


「………アルベルト様っ!……よかった!ああ、神様ありがとうございます!」


彼女の手が私に触れる。けれど、私は綾乃以外の女性に触れられることに嫌悪感を感じた。


私の心は今、ここにはない。


隣国の、あの銀色の王子に守られた「薔薇の令嬢」のもとへ、魂が叫びを上げている。


「………あ…の……」

掠れた声で私は呟いていた。


私の中には「二つの記憶」が激しく火花を散らしていた。

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