〈隣国の王子-解かれた封印-白竜との死闘〉sideアルベルト
目の前に君臨するのは文字通りの「天災」だった。
純白の鱗はあらゆる魔術を弾き返し、その咆哮一つで騎士たちを震わせる。
「総員、散れ! ここは私が食い止める!」
私は剣を抜き、身体強化の魔法を使い極限まで引き上げた。血管が焼き切れるほどの熱さが全身を駆け巡るが、今ここで私が退けば、背後にある町は一瞬にして灰になる。
「おおおおおっ!」
大地を蹴り、竜の懐へと飛び込む。
白竜の鋭い爪が私の肩を深く抉り、血が舞った。
痛い、という感覚はすぐに消え、代わりに集中力が意識を支配する。
(まだだ…まだ届く!)
白竜が氷のブレスを吐こうと顎を開いた、その瞬間。
私は全魔力を剣に注ぎ込み、一閃を放った。
『ーー白銀の一撃!!』
魔力を帯びた剣先が、竜の喉を貫く。
絶叫と共に白竜の巨躰が崩れ落ち、地響を立てて絶命した。
静寂が訪れる。
直後、勝利の歓喜が上がる中、私は膝をつきそうになるのを必死に堪え、剣を杖代わりにして立ち上がった。視界が赤く染まり、肩の傷からは絶え間なく血が流れていた。
「騎士団長!……深手を!」
「案ずるな!…帰還するぞ!」
これ以上出血が酷くならないよう布で肩を固定し、回復薬を飲み、部下たちの手を借りず、私は自分の足で馬に跨った。
弱みを見せるわけにはいかない。私はアースパーニャの盾であり、騎士たちの光なのだから。
しかし、城の門をくぐった瞬間、張り詰めていた最後の糸が音を立てて切れた。
石畳の冷たさが頬に伝わる。
「騎士団長!アルベルト騎士団長っ!」
遠のく意識の中で、騒ぎ立てる部下たちの声を聞きながら、私はなぜか、一度も会ったことのないはずの『彼女』の顔を思い浮かべていた。
隣国の王子に嫁ぐあの薔薇のような微笑みを。
(ああ、私は…何を考えているのだ…)
そのまま、私の世界は深い闇へと沈んでいった。
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その報せはヴァレンシュタットのステイルの元にも届いた。
ーーアースパーニャ公国の第二王子にして騎士団長のアルベルトが白竜を単独討伐したーー
「あの白竜を一人で討伐しただと!?…なんという強さなのだ…」
ステイルはアースパーニャのアルベルトの異常なまでの強さを警戒し始めていた。




