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〈執着の深淵〉sideステイル

執務の合間、私は吸い寄せられるように彼女の部屋へ向かった。


扉を開けると窓の外を眺めているアヤナーラがいた。

その細い肩が僅かに震えていた。


彼女の背後に立ち顔を覗き込むと彼女の頬に一筋の涙が伝い、彼女は石畳の向こうの城下町の方をじっと見つめていた。


なぜ泣いている…何が君を悲しませている?


私の心臓が嫌な音を立てて波打った。

私は彼女に全てを与えた。

なんの不自由もないはずだ。

彼女もあの日までは私だけを見ていたはずだった。

なのに、君は一体何を…どこを見ているのだ…


「アヤナーラ…いやアヤ、君は今何を想っているのだ」


背後から包みこみ彼女の涙を拭う。

この涙は私のための涙なのか…いや、違う。


「城下町に会いたい者でもいるのか?……アキトとやらにでも会いたいのか?」


奴の名を口にした瞬間、身体中に毒のような渦渦しいものが駆け巡る。


彼女が病の淵で、私ではなく縋りついた名。

今も彼女の心の中にはその男がいて、私には見せない表情を引き出している。


私がどれだけ彼女を深く抱こうとも、血を分け与えても、彼女の奥深くにある聖域には入る隙間もないのだ。


許せない…


彼女の首筋をなぞる指先が殺意を孕んで震えるのがわかった。

嫉妬などという生ぬるい言葉では足りない。

彼女の記憶、思い出、その涙の理由全てを奪い去りたい。


彼女の瞳に映るのが私ではないのなら、その涙が私のためのものではないのなら…全てを奪う。


私は私のやり方で君の全てを暴いてみせる。


私は彼女を押し倒し恐怖に怯える彼女に口づけした。

恐怖を感じている吐息までもが愛おしい。

私はそのまま彼女を狂ったように抱いた。

だが、私の心は満たされなかった。



「エミリー、彼女の湯浴みを頼む。

そしてユリウス、こちらへ」


私は彼女の夢の中を見ようと密かに禁書を調べていた。

そして夢の中や記憶を覗くことができる魔道具の作り方を発見し作り上げていた。


「例の魔道具を今夜持って来い…彼女が眠っている間に"アキト"とやらの正体を暴いてやるっ」


「殿下、もう一度考え直してくださいませ。アキトなる人物を国中で探しましたが発見出来ませんでした。殿下はアキトに囚われすぎております。ただ夢に出てきた見知らぬ誰かなのではないのですか?これ以上はアヤナーラ様の心を踏みにじる行為です!」とユリウスは必死になって訴えてきたが、私の心には届かなかった。



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