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〈銀の王子と琥珀の騎士…2〉

私は学園でしばらくアヤナーラ嬢を観察した。

すると毎日同じ時間に学園の庭を通ることがわかった。


「…僕の話聞いてくれるかなー」とニヤける。


翌日、私は学園の庭で待ち伏せした。


「こんにちは、アヤナーラ嬢。」と満面の笑みで話しかける。


「…こんにちは、ルカヌス殿下。」驚きながらも笑顔で返してくれた。


それからしばらくの間毎日彼女を待ち伏せし、少しずつ話が長く出来るようになってきていた。


ある日のこと、「…あの、ルカヌス殿下、毎日こちらに来られておりますが、もしかして何か大事なお話でもあったのでしょうか…?ルカヌス殿下は普段こちらは通られないですよね?」と聞いてきた。


「いやね、毎日兄上が君に付き纏っているだろう?君は息苦しくないかな…と思って。君のことがね、心配になったんだよ。」とじっと見つめる。

今まで見てきた女性たちは、"君が心配"という言葉に弱い、さらに見つめるとすぐにコロッと好意を向けてくれるのだ。

だから、彼女もその一人だと思った。


…しかし、「ご心配いただきありがとうございます。私は息苦しくはありません。むしろ、ステイル殿下が会いにきてくださるのがとっても嬉しいです。」と顔を真っ赤にし照れながら言ってきたのだ。


私はまたチクッと胸が痛み出した。

何故、あの冷徹な男が愛されるのだ…と。


それからもしばらく毎日アヤナーラ嬢に会いに行った。


さて、今日はどんな話をしよう。

彼女は甘いものが好きだったな。

今、城下町で流行りの店があると聞いた。

彼女にその話をしてみようか。

…いつの間にか、私は彼女との会話を楽しみにしているような気がした。


「やあ、アヤナーラ嬢。今日は天気が良いね。そういえば、君は甘いものが好きだったよね?」

そう話しかけていると、辺りの風が急に冷たくなった。

なんだ?と思って後ろを振り返ると。


「ルカヌス。お前は一体何をしている?」

と殺気を帯びた表情でこちらを睨みつけている兄上がいた。


…今まで一度も話をしてくれなった兄上が、私に話しかけてくれている。

私を…私だけを見てくれている。


「…やあ、兄上。やっと、僕を見てくれたね。」ニタリと笑う。


兄上は「アヤナーラ嬢、私の後ろへ」と彼女を後ろに隠す。


「ふうん。兄上と話がしたい時は、アヤナーラ嬢と話せばいいんだね。やっとわかったよ。アヤナーラ嬢、毎日話をしてくれてありがとう。また明日ね。」と兄を挑発する。


そんなやり取りに彼女は心配そうな顔をしていた。


翌日も私は学園の庭に来ていた。

すると、兄がアヤナーラ嬢の手を取り歩いて来たが、私を見るなり引き返そうとする。


「やあ、兄上。こんにちは、アヤナーラ嬢。兄上、僕はアヤナーラ嬢と話がしたいんだ。いくら婚約者だからと言って彼女を独占しないでよ。僕にだって話をする権利はあるでしょう?」とニタリと笑う。

また兄が私を見てくれている。その目には憎しみが込められているが。


「ねぇ、アヤナーラ嬢、こんな嫉妬心剥き出しの、独占欲に塗れたこの男のどこがいいの?この人のこと、僕よく知ってるんだよね。どんなに冷徹で感情がなくて誰にも関心がないってこと。」そう言って、兄の前で幼き頃の話を彼女に聞かせた。


兄はずっと顔を顰め、俯いている。

「ね、兄上。事実だから悪口ではないよね?こんな男のどこに惚れる要素があるのか、僕には全くわからないよ」と肩をすくめる。

これで彼女も目が覚めるだろうと思っていたのに、彼女の顔を見た途端、胸がギュッと苦しくなった。


何故なら彼女はその目に涙を浮かべていたのだ。


「…ルカヌス殿下には、そのように接しられていたのですね。…きっとルカヌス殿下はとても寂しかったのではありませんか?」と一筋の涙を流しながら慈愛の表情を向けてくる。

「…でも…ステイル殿下は…いつも孤独でした。教師にも感情を持たないよう教えられていたのです。私はその教えに反してしまいますが…感情は必要だと思います。ですから、ステイル殿下が笑顔になってくださるなら、私はずっとステイル殿下のおそばにいたいと思っております。」

少し照れたように、それでも兄上を本当に大切にしていることが伝わってきた。


兄は彼女のその言葉を聞き、涙を流していた。

兄が涙など流すことは無いと思っていた。

…兄上にも感情が生まれたのだ…


瞬時に私も彼女にそのように愛されたい…と思っていた。


その日の夜、学園の寮の部屋を誰かがノックした。

執事がドアを開けると、そこには兄上がいた。


「少し話がしたい…」


全く信じられない光景だった。

今まで目も合わせようとして来なかった兄上が、わたしの部屋に来て話をしたいだと⁈

動揺する気持ちを抑えながら、兄を招き入れる。


「ルカヌス…今までの私の態度は、お前を傷つけていたのだな。すまなかった。私は年に一度しか会えないお前と、どう接すればいいのかすらわからなかった。だから、いつも話しかけられても逃げていた。それがお前を傷つけているとは知らずに…。本当に悪いと思っている。」


…私は思わず目を見開いた。

あの兄上が謝罪をしている。

アヤナーラ嬢…君はどうやってこの氷のような心を溶かしたのだ?


「……だが、これだけは譲れない。私の孤独を救ってくれたアヤナーラ嬢だけは…彼女だけは絶対に誰にも渡さないっ!お前が話したいならそれくらいなら……まあ許すが…」


兄の突然の訪問。そして謝罪。

私は一晩中眠れなかった。

あんなに不器用で、独占欲が強くて、それでも必死に謝ってきた兄の姿。

あの冷徹な兄を変えたアヤナーラ嬢。


翌日の放課後、私はアヤナーラ嬢をいつもの庭に呼び出した。


「アヤナーラ嬢……一つだけ君に伝えたいことがあるんだ。」


彼女はいつものように、首を傾げながら澄んだ瞳で私を見つめる。


「僕は…兄上を困らせたくて君に近づいたんだ。君を傷つければ、あの完璧な兄が取り乱すと思ったからね。……でも、君と話すうちに僕は君という『光』に、救われたいと思うようになっていた。」


私は彼女の一歩手前で足を止め、わざと意地悪く、でも精一杯の親愛を込めて微笑む。


「好きだよ。アヤナーラ。兄上よりもずっと、僕の方が君を幸せに、笑顔にする自信があるくらいに。」


彼女は呼び捨てにされたこと、告白されたことに驚きのあまり目を見開く。その頬が真っ赤に染まるのを見て、胸の奥がまたチクッと痛む。けれど、今度はその痛みが心地よかった。


「……でも、君が選ぶのは僕じゃないことはわかってる。昨日、あの人が流した涙を見た時にわかったよ。」


私は彼女の手を取り、騎士のようにその甲に軽く口づけをした。


「だからこれは、僕の『負け宣言』だ。兄上には内緒だよ?あの嫉妬深い人なら、今頃物陰からこちらを睨んでるかもしれないからね。ただ、これだけは言わせて?僕も君の騎士として、君を守らせてくれ。いや、君を必ず守る。」


私が目線を上げると、彼女は泣き出しそうな、でもどこか安心したような顔で僕を見ていた。


「……ありがとうございます。ルカヌス殿下。あなたのそのお気持ち、一生忘れません。」


「ふふ。一生なんて重いなぁ。……さあ、行きなよ!向こうで、顔を真っ赤にした兄上が待ってる。」


彼女は振り返り、駆け出していく。

その先には、案の定、不機嫌そうな顔をして立ち尽くすステイル兄上の姿があった。

二人か合流し、兄上が彼女の肩を抱き寄せ、私が口づけた手の甲を拭き、兄上が見せつけるかのようにその甲に口づけ、こちらを鋭く睨む。


本当に嫉妬深いんだからと思いながら、二人に向かって、高らかに手を振ってみせた。

どろどろした劣等感や兄に対する憎しみが、驚くほど軽やかになっていた。


その後私はひたすらに鍛錬に励み、学園を卒業した後は、騎士団に属することとなる。


そして、国王直属の近衛騎士団の騎士団長の座に就くことになる。

その頃には爵位も与えられ、広大な領地を収める公爵になった。

でも、それはまだ先の話だ。

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