第四章 第二十二話 270億円の、猫神様
「とりあえず、1億円だけ残して残りは全部、株式に全ぶっぱにゃ!」
みかんの下した結論は、極めて合理的なものであった。
自分がこれから生み出す価値を考慮し、藤花コーポレーションの株価が上がることを前提として、ストックオプションを可能な限り行使する。
現時点で269億円分の、藤花コーポレーション株式を保有することになったのだ。
藤花コーポレーションの連結総資産は、300兆円を超える。
だが、資本金として登記されている金額は、3兆円。
その巨大企業の株式を269億円分も確保するというのだから、みかんの報酬が「とんでもない金額」であることは、容易に理解できるだろう。
その結果、みかんが保有する株式は、藤花コーポレーションの総議決権の0.9%弱に相当することになった。
まだ、株主提案権に必要な総議決権の1%には足りていない。
だが、極めてそれに近い値であり、成果によってはさらにストックオプションが追加されるだろう。
どれほどの影響力になるのか、末恐ろしい。
「まあ、そうするわよね。私でも同じやり方を取ると思うから」
舞先生の対応は、あっけらかんとしたものであった。
1億円あれば、当面お金の心配をすることはない。
そして、藤花コーポレーションの株価の上昇は確定的。
270億円規模の資産が、これからどれだけ膨らむのか、予測することすら困難なくらいだ。
「将来のマツサカ牛の、予約をしておくにゃ」
そういう単位の問題ではない。
一人の高校生が持つ金額としては、あまりにも大きすぎる。
しかも、これから確実に増加するのだから……末恐ろしい。
「みかん~。少しくらいのおこぼれがあっても、いいんじゃないか~?」
明が、つぶやく。
その気持ちは、嫌というほど分かる。
「だったら……この特区に、バーベキューができる場所はあるのかにゃ?」
「もちろん、設置してあるわよ。今度の休みに、皆でバーベキュー。栄養管理士も、その時に紹介するわね」
それが良い落としどころであろう。
ただし、具材の豪華さはシャレになっていないが。
「よっしゃ! 一生分の贅沢をしておくぜ……ぐえっ」
「品位を疑うような発言は、控えてください」
明の首輪についていたリードを、漣が引っ張って発言を遮る。
今のところ、みかんの方は使用されていないが……どうやら自分の運命が、漣に握られていることをみかんも再認識したようだ。
興奮がおさまり、何よりである。
「最高級の食材を用意するから。楽しみにしていてね」
「うにゃあ……マツサカ牛、純粋黒豚、ナゴヤコーチンでバーベキュー……最高にゃ~!」
みかんの資産から考えれば、この程度の豪遊は「おあそび」で済むだろう。
「奏や結希、久郎も参加でいいわよね?」
舞先生の問いに、全員頷いた。
「それじゃあ、今日はこれで解散ということで。みかん、今日泊まる場所は決まった?」
「前の部屋に残されていた資料を、まとめて置いてある部屋がいいにゃ」
いかにも、みかんらしい選択であった。
明、漣、みかん、奏と別れ、俺たちは家路につく。
特区からタクシーが出ているため、それを利用することになった。
料金は舞先生が払うとのことなので、負担なく利用できるのは助かる。
「なんだか、凄いことになったね……2週間後の、2年生との戦い。何とかなりそうな気がしてきた!」
結希が、興奮した声で話しかける。
「そうだな。少なくとも、完敗はあり得ないだろう。第4世代には、それだけの力がある」
しかも、現在開発中の装備も可能な限り、組み込まれる予定らしい。
かなり良い勝負になるのではないかというのが、俺の予測だ。
「まあ、その前に制服を取りに行き、モーションキャプチャーを行う必要があるがな」
「あ! 忘れてた!」
来週の月曜日に、制服が完成するようである。
その時にまた、皆で一緒に校外に行くことになるだろう。
「ついでに、中間試験も迫っている。勉強の方も、しっかり詰め込んでいくぞ」
「うう……分かった。頑張る」
結希の興奮は、現実の前に完全に消え去ったようだ。
とはいえ、制服を取りに行くのも、中間試験が迫っているのも事実である。
「大丈夫だ。俺が全力でサポートする。奏を含めて、な」
「うん。頼りにしているから」
そろそろ、結希の家にたどり着く。
そこで一緒に降り、俺は残りの道を歩いて家に帰ることにした。




