第四章 第二十話 それぞれの住まいと、自由な猫神様
俺たちは食事を終え、サワヤカを後にした。
ちなみにみかんは、玉ねぎソースが七割、ドミグラスソースが三割、であった。
「モデルルーム、モデルハウスはこちらよ」
いよいよ、生活する場所の説明が行われるようだ。
「完全なワンルームは無いけれども、居室と台所が分かれた1Kになっているだけだから」
そのくらいならば、ワンルームとほとんど変わらない。
仕切りがあるか、そうでないかの違いだけだろう。
「助かったぜ! あまり高級そうなところは、勘弁だからな!」
「同感にゃ。狭いところの方が、落ち着くにゃ」
明とみかんが、喜んでいる。
「みかんの場合は、研究スペースが必要でしょう?2Kの部屋を想定しているわよ」
以前、世界が救われる確率を計算して心を病み、大量の計算結果が印字された紙が残された部屋。
そこも2Kであったため、納得できる。
「私も、2Kが良いと思います。また、明は訓練用のスペースが必要であるため、同じく2Kがふさわしいと考えます」
漣の意見は、正しいものであった。
訓練用の部屋と、寝室を分けるというのは理にかなっている。
「メアも、同じ扱いでいいかしら? もう少し、良い部屋も用意できるわよ」
「大丈夫。これならば、十分快適に過ごせるから」
メアにも、2Kの部屋が用意されることになった。
「で、奏の家はこんな感じ。一室を、防音仕様にしているから」
やや小ぶりな一軒家であり、一人で住んでいても何とか管理できる範疇であろう。
掃除用ロボットなどを使えば、衛生面でも問題なさそうだ。
「他の方々が、2Kなので少し気が引けます……」
「それは、我慢してちょうだい。家の中で、服を脱ぐこともあるでしょうから」
そうだった。
奏は特殊な事情があるので、集合住宅のような場所では問題が生じる。
合理的配慮の範疇であろう。
「うにゃあ……もっと狭い部屋の気分も、あるにゃ……」
みかんが、悩んでいる。
そこに、舞先生の追い打ちが入った。
「ちなみに、みかんは「空き部屋全て」にアクセス権があるわよ。ビジネスホテル並みに狭い部屋も、用意してあるから」
「にゃにゃ?!」
どうやら、みかんの生態はある程度予測済みだったようである。
ビジネスホテル並みに狭い部屋を用意することで、その時の気分次第で寝る場所を変えることができるようだ。
「一番狭い部屋だと……こんな感じね」
モデルルームの一角に、その部屋は存在していた。
ベッドとテーブルの間が狭く、椅子を使うとベッドに当たるほどのスペースしかない。
さらに浴槽も丸みを帯びていて、最低限お湯に浸かることができるというレベルのものであった。
「狭いところに行きたい場合には、こういう部屋を選ぶといいわ」
ちょうど、あ〇ホテルの部屋のような感じである。
狭いところが好きなみかんにとって、これは逆に「魅力的」であろう。
「みかんのスマートフォンで、どの部屋も開くようになっているから。スマートフォンに表示されたQRコードを扉の読み取り機にかざせば、利用履歴に残るから安心してね」
なるほど。
VIP扱いを嫌うみかんの性質を逆手にとって、あえて狭い部屋という選択肢を示す。
しかも、どの部屋を利用しているのかが、藤花コーポレーション側で把握できるという状態。
これは「スパイ対策」として、極めて洗練された構造であろう。
「僕、スパイに同情したくなってきたよ……」
「奇遇だな。俺も同感だ」
結希の言葉に、俺が返答する。
普通であれば、みかんは「VIP」として扱われ、最上級の居宅が与えられる。
だがそこは「神殿」と化しており、恐らく撃退用のトラップも満載であろう。
次に「高級住宅地区」を探すのが、定番であろう。
だが、そこにもみかんの姿はない。
さらに万が一、普段使っている部屋がバレたとしても。
みかんは、自由に部屋を選ぶことができるのだ。
しかも、建物内には無数の監視カメラなどがあり、全てをごまかすのはまず不可能。
加えて、その情報にアクセスできる者は、藤花コーポレーションの警備中枢に限られている。
その状況での「かくれんぼ」なのだ。
「あと、これが今回の報酬の目録。確認しておいて」
舞が、みかんに冊子を手渡す。
報酬の目録が「冊子」になっている時点で、マツサカ牛とオオマのマグロどころでは済まされないだろう。
いったい何が、記載されているのだろうか?




