第四章 第十八話 居住区にて――サワヤカに釘付けの猫神様
居住区には、数多くのマンションが並んでいた。
そして、中央部には巨大なプール。
建物の一階部分から二階あたりまでは、テナントになっており、さまざまな店が入っている。
「すげえ! リゾート地そのものじゃねえか!」
「プールは良いですね。いざという時に、生活用水が確保できますから」
「漣、さすがにそれは実利に偏りすぎにゃ」
明、漣、みかんがそれぞれ感想を述べる。
みかんがツッコミに回るというのは、珍しい。
テナントも、種類が豊富であった。
コンビニエンスストアについては、大手チェーンを完全に網羅している。
さらに運動施設、アニマルカフェ、レストランの数々。
「ここからは見えないけれども、裏側にスーパー銭湯も併設されているわよ」
冗談抜きで、俺もここに転居したいくらいだ。
設備の充実ぶりが、凄まじい。
「さいぜりや、ヤヨイ亭、そして……『サワヤカ』にゃ!」
みかんが、一つのファミレスの前で立ち止まる。
シズオカを代表するファミレスで、他の県からわざわざ訪問する人がいるほどの、大人気の店舗だ。
俺も何度か食べたことがあるが、レアに見えるのに安心して食べられるハンバーグは、他の追随を許さない。
「あ、奏はこちらよ。一軒家の地域もあるから」
少し離れた場所に、一軒家が立ち並んでいる。
プライバシーに配慮されており、家族向けにさまざまな工夫が施されているようだ。
「とりあえず、モデルルームやモデルハウスをいくつか回りたいのだけれども……これは、動きそうにないわね」
みかんの視線は『サワヤカ』に固定されている。
ちなみに、現時点では人は並んでいない。
「プレオープンだから。正式開業後は、多分研究員でごった返すと思うわよ」
「それなら、今楽しむしかないにゃ!」
みかんの言うとおりだ。
店舗によっては、午前中に「その日の」整理券受付が終了することがあるほどの、超人気店である。
最大9時間という待ち時間は、ニュースで報道されたほどだ。
明が身を乗り出して叫び、漣と奏がそれに続いた。
「俺も! 一度食べてみたいと思っていたんだ!」
「私も、興味があります。カントウでは、噂でしか聞いたことがなかったので」
「はい。……こんないいもの、口にして良いのでしょうか?」
最後の一人は、もう少し自信を持った方が良いと思う。
結希もそう思ったらしく、奏の手を握って、お店の方に向かって歩き出した。
「いらっしゃいませ! 7名様で、よろしいでしょうか?」
「いいけれども……テーブルを寄せて、大量の料理を載せられるようにしてちょうだい。一人、とんでもない子がいるから」
全員の視線が、みかんに集中する。
店員を含めて、である。
「分かりました。――厨房、例の方です! 控え室の店員を呼び出して、調理体制に入ってください!」
……これから、戦争が始まるような雰囲気であった。
そして、恐らくその予想は間違っていないだろう。
「とりあえず、この子にはゲンコツハンバーグを10個と、ライスをボウルに入れて持ってきてあげて」
「にゃ! 焼きたてを楽しみたいから、まずは3つにしてほしいにゃ!」
ちなみに、3つで2000キロカロリーに迫る。
舞先生の注文は、フードファイターでも厳しい戦いになるほどの量のはずなのだが……。
「俺も、そのくらいは食えるぜ! ただ、1個ずつ提供してくれ!」
「さすがに私は、1つにしておきます。オニオンソースで食べるのが、正式な作法ですよね?」
明と漣も、注文を行う。
「私は……オニギリハンバーグにしておきます」
「僕は、ゲンコツハンバーグ。久郎もそれでいいよね?」
俺は頷いた。
「私は……ゲンコツハンバーグ。一度食べてみたかったのよ」
どうやら舞先生は、初めてのようである。
「目の前で半分にして、断面を熱い鉄板に押し付けると聞いているわ。一体どんな感じになるのかしら?」
「テーブルの上に、紙が敷かれる。それを持ち上げて、油が跳ねるのを防ぐようにする。よく焼きにもできるから、好みで選んでくれ」
舞先生の問いに、俺はシステムを説明する。
藤花コーポレーションの長であっても、恐らくこの味ならば満足できるだろう。
それほどまでに、完成度が高いハンバーグなのだ。
久しぶりなので、俺も内心楽しみである。




