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第四章 第十六話 毒を一掃した、猫神様

 さらに、先行整備区域を進んでいく。

 研究者たちは、全員真剣に課題に取り組んでいるようであった。

 だが表情は明るく、希望に満ちているように感じられる。


「本当に、毒電波とは異なるものなのでしょうか……?」


 奏が怯えている。

 俺も全く同じことを、考えていた。


「まあ、色々と懸念が解決したのもあると思うけどにゃ」


 懸念?

 俺たちの疑問に答えたのは、舞先生であった。


「研究者の中で、ろくでもない奴らが片っ端からしょっ引かれたの。まあ、無能だったり、悪質だったりする輩だったから、助かったのは事実だけれども」


 みかんと舞先生の説明によると、このような経緯があったそうだ。


 みかんは、技術顧問として採用された。

 だが、あえてそのことを隠し、新人の一研究者として行動していたというのだ。


「資料の整理と、ゴミ集め。こき使われたにゃ……そういう人に接する態度で、本性が分かるにゃ」

「隠していたのは、わざとよね? きちんとアクセスログ、残っているわよ」


 資料の整理の際に、さまざまなデータベースにアクセスしたようである。

 これにより、研究結果を横取りしている人間の判別に成功。

 また、脳波検知と組み合わせることで、人を踏みにじるような行為を行っている人物の特定も行われた。

 さらに、ゴミから集めた証拠と組み合わせることで確固たるものにした上で、藤花コーポレーションのトップである誠司に直接送信したというのだ。


「それだけじゃないわよ。囮になって、性交を強要していた研究者を特定。写真があるけれども、見る?」


 嫌な予感しかしない。

 だが、見ないという選択肢はないだろう。


 そして、そこに写っていたのは……想像通り、ろくでもないものであった。

 下半身をむき出しにして、壁にめり込んでいる研究者。

 モザイクは、あえて見当違いの場所にかけられていた。

 肝心の汚物だけは黒塗りされ、その横にAIによる『3センチ』という測定結果の注釈が入っていた。


「管理者向けの掲示板に、この画像が流された時は何事かと思ったわよ」

「いい仕事をしたと思っているにゃ。汚物は隠してあるから、児童向け番組でも流せるくらい健全にしたにゃ」


 吹き出す明。

 肩を震わせ、必死に笑いをこらえている漣。

 あきれ果てた、絶対零度の視線を向けているメア。

 ……そして、目の焦点が合っていない奏。


「みかん! お守りを渡して! 早く!」

「にゃ! ……漣、笑っている場合じゃないにゃ! 奏にメンタル系の回復魔法を急ぐにゃ!」


 何とか、奏の意識が現実に戻ってきたようだ。

 かなり激しい、フラッシュバックを起こしていたのだろう。


「ごめんなさい。私の配慮が足りなかったわ」


 舞先生が、奏に謝る。


「いえ、大丈夫です。……あの時、みかんがいてくれたら、と思っただけですから」


 一言が、重い。

 それだけ悲惨な環境に、置かれていたのだろう。


「成果を横取りする上司、人の心を踏みにじる同僚、性交を強要する責任者……どれも、証拠が足りなくて処分できなかったの。それを、みかんが一掃した。この意味、分かる?」


 舞先生の問いかけは、とんでもないものであった。

 それは……専門機関が、長期間をかけて行うほどの成果である。

 そして、時間をかけたとしても解決できるとは限らない。

 それほどの「毒」を一掃したというのだ。


「そりゃあ、猫神様扱いされるだろうな。それこそ神様でもなけりゃ、不可能だと俺も思うぜ」

「当然でしょうね。それこそ女性研究者にとって、女神にしか見えないでしょうから」

「なぜ、納得するにゃ?!」


 明と漣の意見に、みかんが反論する。

 だが、これほどまでの「奇跡」を見せつけられれば、そうなるのは必然であろう。

 しかも、その後わずか三日で『新技術の開発』を行い、機体の『段階』を一つ進めた。

 これはもう、崇拝の対象になるのは間違いないことだ。


「高級住宅は要らないと言っていたから……あんなことになっているわ」


 門のところには、黒い招き猫が鎮座していた。

 人の背丈ほどもある、立派なものである。


「この先は、見たくないにゃ。せめて黒い招き猫にしてくれと、頼んで正解にゃ」


 完全に「聖地」として、扱われていた。

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