第四章 第十四話 特区始動――未来を変える者
「あ、兄さん。みかんは最高の待遇は要らないって。代わりに、マツサカ牛一頭丸ごとか、オオマのマグロ一匹丸ごとを求めているけれども……うん、うん。分かった。そう伝えておくね」
舞先生が、みかんの求めに応じて電話する。
その相手は、間違いなく舞の兄「藤花誠司」であろう。
いよいよ、シャレにならなくなってきた。
「みかん、質問がある。真面目に答えて」
舞先生は、真顔であった。
いったい何が、告げられるというのだろうか……?
「この技術、メアや奏の機体にも使えるの?」
それに対するみかんの答えは、簡潔なものであった。
「もちろんにゃ。なんでこんな簡単なことに、誰も気づかなかったのか疑問だにゃ」
簡単なこと?
これだけの技術革新が、簡単なはずがないと思うのだが。
「魔法は、同じ属性だと反発するような働きをするにゃ。土属性は……にゃ?!」
大慌てで、舞先生がみかんの口を塞ぐ。
「それ、トップシークレットよ。そして、その経済価値は計り知れないわ」
今漏らした部分だけでも、かなり見えてきた。
恐らく土属性を、関節部に付与することによる「斥力」を利用しているのだろう。
元々土属性は、磁力などのように「斥力」との相性が良い。
加えて属性を付与しても、他の属性のように反発力が強すぎず、その部分に熱を持つ、液体が溜まるなどのマイナス面も発生しにくいのだろう。
なお、土属性は今まで「不遇」扱いされてきた。
物理攻撃と変わらないため、もっぱら「壁づくり」や「トラップ」などに使われていたのだ。
上級者であれば、地震を起こしたり、割れ目を作って相手を落下させ、塞ぐことでダメージを与えたりすることもできる。
だが、コストパフォーマンスは極めて悪い。
そのため、あまり注目されていなかったのだ。
「あちゃあ……久郎やメアには、分かってしまったようね……」
「まあ、一通り色々なことを学んでいるからな」
「私の場合は、言わずもがなでしょう?」
理系にはあまり強くない俺でも、このくらいは分かる。
魔法に対する対抗手段は、バグとの戦闘でも求められるからだ。
メアに至っては、土属性と聞いただけですぐに理解できる事柄だろう。
「カメラなどに、異常なし。聞いていたのが身内だけで、本当に良かった」
舞先生が、スマートフォンで色々と確認している。
どうやら、本気で流出したらまずい技術のようだ。
「命令に近い形になるけれど……明、漣、奏。この三人には、転居してもらう」
転居?!
奏に至っては、ようやく手に入れた一軒家から、引き離すというのか。
ようやく、帰る場所を得られたというのに……。
「本当ならば、結希や久郎にも、転居してもらいたいくらいだけれども……久郎の場合は、家の方が安全。そして結希まで転居すると、さすがに隠し切れない」
第4世代の重要性を考えれば、関係者をより安全な場所に移動させることに、合理性がある。
とはいえ急な話であり、三人とも戸惑っているようだ。
「この際だから、ぶっちゃけるわね。区画整理を進めていた『特区』を、みかん専用の研究・開発拠点として本格稼働させることが、社内会議で決定したわ。全会一致よ」
「にゃ?! 最高の待遇どころではないにゃ!」
みかんの尻尾が、ぶわっと広がる。
芸が細かいというべきか、そんなところに会社の金をつぎ込んだことを責めるべきなのか、悩むところだ。
「ちなみに、先行整備区域はもう稼働しているわ。研究設備、居住区画はある程度できているから、好きなところを選んでいいわよ」
「ワンルームはあるのか? あまり広いと、落ち着かねえんだが……」
明の問いに、舞先生は小さく頷いた。
なお、奏はやはり「一軒家」を与えられるようである。
また元の一軒家に近い作りとなっており、可能な限り住んでいた状況を再現するよう、配慮されているようだ。
「学校へは、専用の車両で往復することになる。明、漣、奏の三人とも同じよ。それくらい、みかんがやらかしたことはとんでもないことなの」
舞先生によると、みかんが施した「改良」により、機体の性能が大幅に向上したとのことである。
それも運動性能、命中性能だけではない。
他にもさまざまな研究を、次々と社員たちに「丸投げ」しており、その結果、総合性能で28%もの向上が見られることになったというのだ。
「単に、反発力を利用した攻性防壁システムを作っただけなのににゃ……」
待て。
そのシステムは、聞いていない。
「洗いざらい、吐いてもらうわよ。冗談抜きに、みかん一人のせいで――いえ、おかげで、藤花コーポレーションがとんでもないことになっているのだから」
間違いなく、そうなっているだろう。
一体いくつのアイデアを「投げた」のか、予想もつかない。
「全員、これから藤花コーポレーションの『特区』――正確には、先行整備区域に向かう。いいわね!」
俺たちは、承諾するしかなかった。
みかんは、ただの天才ではない。
企業の開発計画どころか、未来そのものの見積もりを変えてしまう種類の異物。
それが、志田みかんという少女なのだろう。




