第四章 第十三話 第4世代と、ささやかな願い
猫の事件があった翌日のヒーロー科。
そこは、ある意味修羅場であった。
「おはよう。奏」
「おはようございます。結希」
朝一番で、これである。
当然問い詰められ、洗いざらい「吐かされる」こととなった。
結果として、奏と明、漣、みかんの仲が深まり、より良い関係になったのは幸いである。
……また、身体のことについて、三人とも単に同情するだけではなく、さまざまな対応策を考えてくれた。
明は、自分の体にある無数の傷跡を晒し、奏だけではないと示す。
漣は、化粧品などでカバー率が高いものを探し、手袋が無い状態でも違和感を覚えないレベルまで改善できることを教える。
みかんは、今の研究が終わったら、よりカバー率の高い化粧品を開発することを約束する。
三人との関係は、劇的に改善した。
メアだけが、少し取り残されているような感じであるが……時間が解決してくれるだろう。
そして今度は、みかんのけたたましい声が、教室内に響いた。
「にゃふふ……超! 重大発表があるにゃ!」
全員、塩対応であった。
「結希、そこの計算は間違っているぞ。こちらの方程式を使うんだ」
「あれ? あ、そうか。そこで引っかかっていたんだ!」
「それでも、そこまでついて行けるのがうらやましいです。結希に負けないよう、頑張らないと」
俺たちは、数学の復習を行っている。
「メアは、武道に興味はないのか?」
「一通りは経験しているから。明が今通っている流派も、再現できるわよ」
「それは面白そうですね。ぜひ、手合わせしてみませんか? 明は最近、少し天狗になっているようですから」
こちらはこちらで、対戦予定を組んでいた。
「なぜにゃ! 誰も反応しないにゃ……」
そこに、舞先生が入ってくる。
舞先生の真剣な眼差しに、教室内に一気に緊張が走った。
「全員、席についてちょうだい。重大発表があるわ」
舞先生に、全員が顔を向ける。
「この差は、どこにあるにゃ?! 慢心、環境の違い……」
一匹だけ、俯いている者がいるようだが、誤差の範囲内だろう。
「第4世代の試作仕様が、完成したわ。既にあなたたち全員分、改修済みよ」
言葉にならない。
量産・標準運用されている現在の最新型は、藤花コーポレーションが開発した「第3世代」だ。
メアが使っている『トイ=ビン』は、特殊性から「第5世代」として取り扱われている。
その間には、想像できないほどの差があるはずなのだが……。
「今日の授業は、グラウンドでの実戦練習に変更。いいわね?」
これは、仕方がないだろう。
試作仕様がどこまで性能を発揮できるのか、確認する必要がある。
俺たちは、グラウンドに移動した。
そこで、機体を召喚する。
「フェイズシフト!」
召喚された機体の見た目自体は、全く変化していない。
いったいどこが、変わったというのだろうか。
「とりあえず、軽く運動してみて。それだけで、分かると思うから」
動き始めて……すぐに、差が実感できた。
明らかに、動きがスムーズになっている。
今までの第3世代であっても、ほぼ手足同様に動かすことはできた。
だが、今の機体と比較すれば明らかに、ラグが多かったことに気づかされる。
「すげえ! これならば……」
明が、空中で回し蹴りを繰り出す。
鋭い攻撃が、赤い機体から繰り出された。
そのままスムーズに着地し、すぐに次の動きに移行する。
「ひゃっほ~! 最高だぜ!」
第3世代の機体だったら、恐らく着地の際にバランスを崩して、次の行動に移ることができなかっただろう。
この動きは確かに、世代交代を感じさせるものであった。
「久郎のワイヤーも、強化されているから。向こうの建物ゾーンで、確認してみない?」
ワイヤーと背中のブースターを使って、立体機動を試す。
滑らかな動きで、明らかに今までとは「違う」ことが確認された。
「関節部の状態はどう? 動きが鈍くなっていたりしない?」
「極めて良好だぜ! あたたた!!」
明が、連続パンチを行う。
滑らかなその動きは、熟練の格闘家と比べても遜色ないものであった。
「少なくとも、短時間の使用において問題なし……はっきり言って、これは革命的よ」
舞先生が、みかんの機体に近づく。
「藤花コーポレーションの技術部門長として、ここに任命する。志田みかんを機体開発技術部門の最高責任者として扱い、最高の待遇を約束する」
?!
その言葉が持つ意味は、あまりにも大きすぎた。
つまり……この第4世代という概念を、実戦投入可能な形にまで押し上げたのは、志田みかんということになる。
「最高の待遇はいらないにゃ。ボーナスで、マツサカ牛一頭丸ごとか、オオマのマグロ一匹丸ごとがいいにゃ」
成果に対して、みかんが求めたものはあまりにもささやかであった。




