第四章 第十話 見えざる観測者
2026年6月7日に、一部修正を行いました。
<ログアウト>
俺たちは、視聴覚室に戻ってきた。
かなりの時間を過ごしたため、恐らく今日はこれで授業を終えることになるだろう。
「ふぅ……色々なことが分かったわね。検証としては極めて有意義だったわ」
舞先生が、椅子の背もたれに体を預けるようにして、大きく伸びをする。
それに対し、俺は文句を言うことにした。
「いきなり、あんなことをされたら驚くだろう! 下手をすれば、トラウマになりかねないぞ!」
「そうにゃ! 冒険中に力尽きるのとは、わけが違うにゃ!」
みかんも、同意していた。
それに対し、舞先生が返答する。
「とはいえ、今からデスペナルティを経験するから、その刀で首を落としてくれと結希に頼むの? その方がトラウマになると思うけれども」
そういう問題ではない。
「事前に意図を伝えるなり、方法はあったはずだ。話をずらさないでくれ」
俺の言葉に、舞先生が観念したようだ。
「分かったわ。なぜ、このような形で検証したのか、説明するわね」
舞先生によると、命が尽きた瞬間に、自分の中の「一部」が吸い取られるような感覚があったとのことである。
この感覚が何を意味しているのか、知る必要があったとのことだ。
「事前に伝えていたら、多分、こちらを見ている何者かに警戒されて、この現象は発生しなかったと思うの」
「警戒……運営はそこまで、暇ではないだろう?」
俺の問いに、舞先生は首を振る。
「いえ……運営かどうかは分からない。でも、少なくともみかんは、特別扱いされていたわよ。あなたたちの行動は、筒抜けになっていると考えたほうがいい」
言われてみれば、確かに。
古い教会をわざわざ「用意」されるくらいなのだから、運営は間違いなく俺たちに着目しているのだろう。
「つまり、死亡時に何かが起きること自体を、誰かが隠したがっている可能性がある。そういう認識で良いのか?」
その問いに、舞先生は頷いた。
「それと、もう一つ……これは、言うべきかどうか迷ったのだけれども……」
舞先生が、メアの方を向く。
メアが小さく頷いた。
どうやら、ループに関係したことであるようだが、一体何を告げられるのだろうか。
「あなたたちのパーティーに、ニカって子がいるわよね。その子とは、後々敵対する可能性が高い。彼女は『ゾディアック』の一員なのだから」
「ゾディアック? なんだそれ?」
明が、首をかしげる。
「黄道帯、あるいは黄道十二宮を指す単語です。ということは……何座なのでしょうか?」
明の問いに答えたのは、漣であった。
しかも、既に黄道十二宮の方だと当たりをつけたうえで、星座を尋ねている。
判断能力の高さを、再確認した。
「ニカは『かに座』よ。これは、前のループで確認したから、間違いないわ」
衝撃的な事実である。
だが、疑問点はいくつも思い浮かぶ。
「おっと。久郎は誤解していると思うから、まず説明するわね。彼女たち『ゾディアック』は、クマサカとは別の組織。第三勢力と考えてちょうだい」
それで、疑問点のいくつかは解消された。
クマサカの手に、更なる強大な力があるとしたら、それは最悪の構図だ。
それが否定されただけでも、救いではある。
「ただ、純粋に敵とも言い難くて……実際、彼女たちのお店をお気に入りとして使っているのも事実だから」
舞先生が以前、俺たちを連れて行った「Needle&Scissors」。
ニカはそこの従業員であった。
ということは、もしかして他の店員も……?
「あ、久郎は気づいたみたいね。そうよ。ジャンナが『さそり座』で、店主が『ふたご座』」
十二人のうち、三人が所属している店。
そして、そこで俺たちは新型の制服を受け取り、さらにコラボイベントのモーションキャプチャーを披露することになる。
いったい、どういうことなのか。
「ゾディアックは、一枚岩の組織ではないの。それに、たとえ敵でも使えるものは使う。それが私のスタンスだから」
舞先生の答えは、あっけらかんとしたものであった。
「補足するわね。今の『ブレイブ&ウィッシュ』では、βテストは行われていない」
メアが、舞先生の説明を引き継ぐ。
彼女が体験したのは、かなり前のループにおける話らしい。
そこから技術は、着実に進歩し続けているとのことであった。
「推定。ゾディアックの側に、完全な形でループを認識している人物が存在する」
メアの言葉は、衝撃的なものであった。
メアがループを把握し、舞先生も前回のループの記憶を持っているというのは、俺たちにとって非常に強いアドバンテージである。
その優位性が、相殺されかねないのだから。
「ゾディアックについては、もう少し補足説明が必要ね」
舞先生が、説明を続けた。
ゾディアックは、いずれ俺たちと敵対すること。
それを乗り越えて進むことだけが、この世界を救う手段であること。
いきなり世界規模の話をされて、俺たちは目を回しそうになる。
だが、舞先生の眼差しは真剣なものであった。
これはもう、逃げられないことなのだろう。
俺たちは、覚悟を決めることにした。




