第四章 第八話 魅惑のモフモフパラダイス
「げぷっ……僕はもう、いいかな……」
「俺も同感だ。さすがに甘いものを食べすぎた」
教会一つ分の、スイーツ。
たまに塩キャラメルなどの部分もあるが、いくら何でも量が多すぎる。
俺たちは次々と、脱落していった。
「甘いにゃ。美味しいにゃ。塩味のプレッツェルがたまらないにゃ~!」
一人だけ、例外がいる。
だがそれは「特殊な訓練を受けている」レベルだろう。
「みかんは、ここに残して……次のところに行く。みかんが出禁になっている場所」
ニカが、俺たちにそっと伝えた。
どうやら、この教会はみかん用の「エサ」として使うようである。
再び、ポータルにたどり着く俺たち。
そして、今度は舞先生が受付係にお金を支払った。
「さすがに二回連続でおごられるのは、大人としてまずいと思うから」
舞先生らしい。
もっとも、ポータルの利用料金は移動距離を考えると、それほど高いものではない。
そのあたりは、現実世界との大きな違いだ。
魔法陣が起動する。
そして、たどり着いたのは……色とりどりのヒツジたちが、群れを成している牧場であった。
また、カラフルなイヌ、ネコなども、あちこちに姿を見せている。
「モフモフパラダイス。女性陣が喜びそうだから、選んでみた」
「うぉ~! 可愛い~!」
一番初めに反応したのは……明であった。
群れに向かって突撃しようとした、その瞬間。
首元に、何かが巻き付いた。
「ぐぇっ! これ、首輪じゃねえか!」
「投擲用に改良した、捕獲アイテムです。明、伏せ!」
アイテムを使ったのは、漣。
そして、命令に従って明は、地面に伏すことになった。
「3回まで、命令を行うことが可能になっております。次は……ステイ!」
「ちきしょう。現実にはこんなアイテムはないから、油断していたぜ……」
カラフルなイヌの一匹が、明に近づいてきて顔を舐める。
「どうやら、仲間だと思われたようですね。やりましたね、明。家族がふえますよ」
「微妙にずらした上で、不謹慎なネタは止めてくれ……」
とりあえず、明は落ち着いたようだ。
なお、みかんが「出禁」になっている理由はひどいものであった。
ヒツジの群れを「ジンギスカン」など、料理の名前を叫びながら、追い回したのだ。
せめて「わたあめ」ならば、まだ同情の余地があったのだろうが……。
「あ、ネコちゃん。おいで」
奏が、指を差し出す。
緑色のネコが、鼻先をチョンと指にくっつけた。
「気に入られたみたいね。基本的に友好的な子が多いから、安心して」
俺たちも、動物と触れ合う。
「このヒツジ、撫でていると眠くなってきそう……ふぁ~……」
「あ、言い忘れていた。ここのヒツジ、撫でていると眠くなる。不眠症治療に使われるレベル」
舞先生が、目を剥く。
「それ、本当?!」
「本当。既に関連技術として、特許出願もされている」
それは、凄まじい。
しっかり食事をとった後であれば、長時間のログインは認められている。
そして、睡眠がうまく取れない人にとって、このヒツジの力は「画期的」なものであろう。
「アニマルセラピーと同様の効果も、確認されている。認知症の患者が、笑顔を取り戻しているくらい」
ニカが、さらに衝撃的な事実を告げる。
アニマルセラピーの問題点は、アレルギーの人には対応できないこと、飼うための手間がかかることなど、さまざまだ。
その問題をVR空間で解決できるとするならば、その恩恵は計り知れない。
「モフモフパラダイスに、家を買って永住している人もいるみたい」
気持ちは、よく分かる。
今撫でているネコの質感は、本物と遜色ないのだ。
しかも、エサやフンの処理などの手間いらず。
現実のように、家具を傷つけたり、世話に困るようないたずらをしたりすることもない。
それは、永住してでも触れ合いたくなるというものだろう。
「地価が高いから、かなりゲーム内で稼ぐ必要はあるけれどね」
人気スポットだけに、そうなるのは当然だろう。
ただ、少し疑問を感じる。
「VR空間なのだろう? 牧場の増設などは、できないのか?」
「かなり、コストがかかると思う。より高度な処理を求められるだろうし」
ニカの説明は、納得できるものであった。
この「本物」そっくりの質感を、再現するだけで、かなりの処理能力を必要とするのだろう。
「わわ、助けてください~! 身動きが取れません~!」
振り向くと、奏がネコまみれになっていた。
「ちくしょう。こっちは完全になめられているのに……」
ステイ状態で、顔を舐められまくっている明。
完全に、同類として扱われていた。




