第四章 第七話 食べてもよい教会
「まず、食べていいものと食べてはいけないものを説明する」
ニカが、俺たちに向けて語りかけた。
初心者もいるので、必要であろう。
「庭などに生えている植物までは食べてよし。ただし、人が住んでいる家はダメ」
ついでに言うと、庭に転がっている石なども甘くて美味しい。
通常の飴のようなもの、金平糖みたいなものなど、種類が豊富である。
そのため、これだけでも十分楽しめるのだ。
「そして、今回は大物が用意されている。多分特別扱い」
この町では、イベント開催ごとにそのイベントに合わせた建物が建設される。
そして、イベント終了後に、みんなでそれを分けて食べているのだ。
だが大物というからには、恐らくそれとは違うのだろう。
「町はずれの教会。新しい教会を近くに建てるので、それを一棟丸ごと食べていいとのこと」
それは……完全に、みかん対策だろう。
みかんは以前、物置の整理を依頼され、中にあるもの「すべて」を食べる権利を得た。
だがそれだけでは飽き足らず、物置「自体」を食べてしまったのだ。
それが、出禁になった理由である。
「特別扱いにも、ほどがあるな……どこかの竜の子供を育てるゲームと、勘違いしていないか?」
明がつぶやく。
そのゲームだと、最悪「村一つ」を食べつくすこともできるらしい。
さすがにみかんといえども、そこまでではないと思いたいのだが……。
「あれはいいにゃ~! スイートキングダムに、無人島があったらにゃ~!」
……訂正。
どうやら元ネタのゲーム同様、森一つを食べつくすのも、みかんにとっては容易なことらしい。
いくらVRMMOで、実際の食事とは異なるとはいえ、ここまで食い意地が張っているのは異常である。
ブラックホール胃袋(馬並み)ではなく、もはやドラゴン並みではないだろうか?
「あと、建築中の建物は、絶対に食べないように。スイーツフェアリーたちが味見しているからといって、手を出したらアウトだから」
この国のアイテム、建物などは『スイーツフェアリー』と呼ばれる生き物が作っている。
彼女たち(基本的に、女性しか観測されていない)は建物を作りながら、自ら味見をしている。
そして、思った味と違う場合、壊して作り直すことも多い。
意外と「職人肌」なのだ。
「ゲームとはいえ、なかなかすごい設定ね……あれ? もしかして、ミツバチが元ネタなのかしら?」
舞の問いに、ニカが答える。
「多分、合っている。空を飛ぶこともできるし」
それに対し、みかんが補足する。
「間違いないにゃ。しっぽの針で、ひどい目にあったにゃ!」
出禁になる前に、散々「刺された」ようだ。
スイーツフェアリーはミツバチと異なり、何度でも針を突き立てることができる。
その時を思い出したのか、みかんの顔色が悪い。
「とりあえず、その教会に行かないか? 多分中のものはほとんど、運び出されていると思うが」
明の言葉に従い、解体予定の教会に向かうことにした。
現地にあったのは、かなり巨大な教会である。
二階建てで、さらに聖堂部分はステンドグラスなども残されている。
ただし、食べやすいようにいくつもの「亀裂」が入っているのが、特徴的だ。
そして、その隣で建築中の教会は、これよりもずっと立派な建物である。
せっせとスイーツフェアリーが外壁を作り、時々味見している。
「新鮮な、向こうの教会を食べたい……ひいっ」
スイーツフェアリーの鋭い視線が、こちらに向けられる。
どうやらみかんは「警戒対象」として、広く認識されているようだ。
「これ、僕たちだけで食べきれるかな……」
結希の懸念は、分かる。
少なくともこれを「食べきる」には、普通のプレイヤーであれば、最低でも50人以上必要になるだろう。
「それよりも、みかんに食い尽くされる前に口にすることを、考えたほうがいいと思うぜ」
明の言葉通りだ。
せっかく俺たちのために、用意してくれた「食べていい建物」。
みかん一人に食べつくされるのは、もったいない。
「あ、ドアの部分のチョコレート、上品で美味しい……クーベルチュールみたい」
奏が、ドアの破片を口にする。
俺も口にしてみた。
「確かに、高級感があるな。甘すぎないところが、むしろ良い」
高級チョコレートでも、甘すぎてあまり口に合わないことがある。
このドアは、俺の好みの味であった。
「何というか……すごい世界ですね。ゲームだからこそ、存在できるのでしょうが」
漣がつぶやく。
まあ、現実にこんな国があったとしても、衛生を保つことは不可能だろう。
そこは、ゲームならではだと言える。
この場所を選んだニカに、感謝しながら食べることにしよう。




