第四章 第三話 暴走するバカ、説教確定
モノリスの丘にたどり着いた、俺たち。
しかし、そこに明、漣、メアの姿はなかった。
「マイさんですね。メッセージが届いております」
鳥形の「メッセンジャー」が、こちらに近づいてきた。
VRMMOのこの世界では、基本的にチャットを使うことはできない。
そのため手紙を渡す、言付けを頼むなどの方法を取るしかないのだ。
メッセージを送ったのは、メアであった。
「なになに……バカが暴走。可及的速やかに、この場所に来てほしい、ね」
地図に示された場所は、中位のモンスターが出現する森であった。
少なくとも、初期装備で突入するような場所ではない。
「急ぎましょう! 初心者のデスペナルティは軽いけれども、なければそれに越したことはないわ」
まあ、最悪でもモノリスの丘に戻され、若干の経験値やアイテムが失われる。
そして、少しの間ステータスにペナルティがつく程度で済む。
とはいえ、放置するのは寝覚めが悪い。
「初期資金を、メッセンジャーに使う人、初めて見たよ……」
「それだけ、緊急を要するということだ。急ぐぞ、結希!」
俺たちは、指定された森に突入することになった。
「そういえば、キャラクターの名前は『マイ』なのかにゃ?」
「ええ。有名人だから、認証マーク付きで固定されたわ」
有名人を騙る者が出ることを、防ぐためのシステムだ。
とはいえ、キャラクター名を選ぶことができないのは、少し可哀想に感じる。
「まあ、あなたたちも名前で呼び合っているようだし」
「にゃ! 忘れていたにゃ!」
知らない人がいる場所では、本名は使わない。
そのルールを、全員忘れてしまっていたようだ。
「目的地は……あそこね。戦いが繰り広げられているわ」
明と思われる、拳を使って戦うキャラクター。
それに対峙しているのは、ブラックベア。
相当高レベルの敵であり、装備をしっかり整えていない状態では、経験を積んだ俺たちでも危ういほどである。
「おりゃ! やっぱり、硬いな~!」
明の拳が、ブラックベアに突き刺さる。
しかし、ダメージとしては軽微なものになっているようだ。
「ヒール・ウェーブ……もう、MPが尽きそうです」
漣は、回復魔法を連発している。
既に「クラス」として、回復魔法が使える職に就いているようだ。
奏が最初から「吟遊詩人」になっていたのと、同じ理屈であろう。
「石を投げて……何とか、意識をそらさないと」
メアが石を投げて、ブラックベアの敵意が明一人に向けられることを、必死に避けている。
攻撃力ではなく、敵意の分散だけを狙った動きだ。
とはいえ、このままでは全滅は免れないだろう。
「助けに来たわ! 『ブラスト・ウインド』!」
風系統の、中級魔法。
昨日始めたばかりなのに、もう使えるというのか?!
風の爆弾は、確実にブラックベアを捉えた。
大きく吹き飛ばされ、毛皮をドロップして消えていく。
その威力も、間違いなく一流レベルだ。
「舞先生、経験値のブースト、いくらつぎ込んだの……?」
「だから、50万円を超えてからは数えていないって」
ひどい、ひどすぎる。
とはいえ、システムで認められていることの範疇だ。
そして、最適の行動をBOTに命じておかなければ、この強さには至らないだろう。
舞先生なりに最善を尽くした結果と考えれば、納得できる。
「助かったぜ……ぐえっ」
こちらに駆け寄ろうとした明を、メアと漣が協力して食い止める。
漣はラリアットのような形で、明の進路を塞ぐ。
メアは回し蹴りで、足首を狙う。
くの字になった明は、そのまま地面に倒れ込んだ。
「おい! もう少しで死ぬところだったぞ!」
明の怒声に対し、漣とメアは冷徹に答える。
「一回、死んで頭を冷やしたほうがよろしいかと思いました」
「同感。興奮して、いきなり森に突撃した時は、さすがに焦ったわよ」
相当、怒りが溜まっているようだ。
気持ちは、よく分かる。
「あのね……明、初期装備って知っている?」
「おう! 俺の場合、武器無しでも戦えると書いてあったからな」
恐らく職業は「格闘家」系統なのだろう。
確かに、武器無しで戦うことはできる。
だが、防具無しで戦ってよいとは、どこにも書いていない。
「とりあえず、森を出ましょう。お説教はそれからということで」
舞先生のため息が、森に消えていった。




