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第四章 第二話 検証授業――忘れられていたもの

「今日の授業は、視聴覚室で行うから」


 舞先生の言葉が、教室に響き渡った。


 ちなみに「視聴覚室」と呼ばれているが、単に「映像を見る」場所ではない。

 最新鋭のPCを備えた、戦闘シミュレータも配置されているのだ。

 俺は、恐らくそれを用いるのだろうと思っていた。


「ふにゃ!」

「いい加減、起きろ! 移動教室だぞ!」


 見慣れた光景。

 最初は奏も戸惑っていたようであるが、もはや「こういうもの」だと、受け入れたようだ。


「うう……ひどい夢を見たにゃ。ゲロをかけられて、なぜかおじさんと結婚して、珍味を食べまくっていたらとんでもないものが出てきて……」

「睡眠学習、うまく働いていないの? 大丈夫?」


 結希が心配する。

 普通に夢を見ていたということは、睡眠学習のスキルが発動していなかったということ。

 心配になる気持ちは、分かる。


「大丈夫にゃ。今日の授業で扱う予定の範囲は、もう頭の中に入っているにゃ」


 どうやら、杞憂だったようである。


 俺たちは、視聴覚室に向かった。

 そこにあったのは……家で使っている、ヘッドセット。

 クラスの人数分揃えられており、圧巻である。


「ふにゃ?! なぜこれが、ここにあるのかにゃ?!」

「ふふん。ついに私も、VRMMOデビューよ!」


 舞先生が、ドヤ顔でとんでもないことを述べた。


「戦闘データがフィードバックされている可能性を強調して、ようやく遊ぶ許可が得られたの」


 一応、名目上は戦闘データの検証授業ということらしい。

 だが、舞先生は既に「遊ぶ」と明言している。

 果たして、授業という体裁を保つ気持ちはあるのだろうか?


「これ、面白いわね。BOTをあえて許可して、その出来によっては大きな経験値やアイテムが手に入る。普通のオンラインゲームとは、考え方が全く異なるわ」


 BOTとは、プレイヤーがログインしていない間に行動するプログラムのことである。

 通常のオンラインゲームでは、プレイしていないにもかかわらず経験値やアイテムを入手するこれについては、禁止されていることが多い。


 しかし『ブレイブ&ウィッシュ』は異なる。

 禁止どころか、むしろ「より良いプログラムを作り、BOTに定型的な作業を行わせる」ことを「推奨」しているのだ。

 実際、時間あたりにどれだけのアイテムを集めたか、どれだけ敵を倒せたかなどのコンテストが定期的に開催されるほどである。


「さて、どのくらい稼げているか、楽しみね」


 恐らく舞先生の場合、課金も思いっきり行っているだろう。

 経験値の効率上昇など、課金によって得られるメリットは大きい。

 そのあたりは「商売」であるため、個人的には仕方ないと認めている。


「みんながいるのは、どのエリア?」

「にゃ。王都エリアの『キャットニップ』という喫茶店にゃ」

「分かった。そちらに向かうわね」


 果たして、どんなキャラクターになっているのやら。

 BOTを使っていたとはいえ、わずか1日でそこまで強くなれるとは、考えにくいのだが……。


<ログイン>


「さすがに、もう来ているということはなかったにゃ」

「少し、安心したよ……あれ? 何か忘れているような気がするのだけれども……気のせいかな?」

「奇遇だな。俺も何かを忘れているように感じている」


 俺たちは『キャットニップ』で、舞先生が来るのを待つ。


「あれ? この時間に全員いるのは、珍しいね?」


 ニカが、こちらに声をかけてきた。


「そうだ。ニカのことを忘れていた! ……と、思う」

「俺も、もう一つ大事なことを忘れているように思うのだが……」


 そこに、舞先生が到着した。


「お待たせ~! どう、この格好!」


挿絵(By みてみん)


 明らかに、課金装備であると分かる出で立ちであった。

 最高レベルの素材を惜しみなく使った、超高級品の装備一式。


「それ、いくらくらいかかったのかにゃ?」

「50万円を超えたあたりから、確認していないけれども……」


 うわお。

 さすがブルジョア階級、規模が異なる。


「ところで、私たちはいいのですが……メアさん、明さん、漣さんは『モノリスの丘』にいらっしゃるのではないでしょうか? プレイするのは、初めてですよね?」


「あ!!!」


 それだ。

 思いっきり、忘れていた。

 そして、他の面々は普通のプレイヤーとして登録されており、どうしたらよいのか分からずに戸惑っている可能性が高い。


「あらら……戦闘訓練を行おうと思ったけれども、前途多難なようね……」


 とりあえず、全員揃ってモノリスの丘を目指すことにした。

 初期装備のままでは、戦うこと自体が厳しいだろう。

 舞先生の懐に、頼るしかなさそうだ。

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