第四章 第一話 しっぽの形をした革命
ここから、第四章です。
メアと奏がクラスに加わって、数日が経過した。
メアは、家庭裁判所における手続きを無事終えており、俺たちと共にクラスの一員として加わっている。
奏も、最初は恐る恐るという感じであったが、結希のサポートにより、かなり打ち解けたようであった。
なおみかんは、メアの提言どおり、授業中であろうと遠慮なく眠っている。
睡眠時間というスキルがあるからとはいえ、少々うらやましい。
まだ朝早い時間帯なので、教室内にいるのは俺と結希、明、漣の4人だけであった。
奏は、もう少し後に来るのが日常的だ。
そしてメアは、肉体年齢に合わせて、朝ギリギリまで睡眠時間を確保しているとのことである。
「次のデカいイベントは……体育祭の対二年生戦か」
明が、予定表を指でなぞりながら言った。
5月の中旬に、体育祭が行われる。
その目玉となっているのが、一年生と二年生の模擬戦だ。
本来ならば、三年生も加わるのだが……前に述べたとおり、消息不明となっているためどうしようもない。
「うん……だけど今日、何か起こるような予感がする。それも変なことが」
結希が、わずかに肩を震わせながら明に答えた。
彼の予感は、無視できるものではない。
いったい何が、起こるというのだろうか。
「おまたせしたにゃ~! 志田みかん、完全形態にゃ!」
……どうやら、予感は的中したようであった。
みかんは、ネコミミデバイスを装備している。
そして、今回加わったのは……ネコシッポ。
いよいよ本格的に、猫らしくなってきた。
「やっぱり、開発素材や環境を存分に使えるというのはいいにゃ! じゃぶじゃぶにゃ!」
「てめえ、会社のお金で何を遊んでいるんだ?!」
明が拳を振り上げる。
漣も、それを止める気は全くないようだ。
みかんのネコシッポが、ピンと跳ね上がる。
「ふにゃ~! 結希、助けてほしいにゃ~!」
「僕も、呆れているよ……それ、みかん以外の誰がつけるの?」
助ける気は、皆無のようであった。
「久郎、最後の希望にゃ! 明が拳に、オーラを溜めているにゃ!」
バグを貫くほどの、明の拳。
直撃したら、ただでは済まないだろう。
頭の上にある、ネコミミデバイスはぺたりと折れ曲がっている。
そして、ネコシッポはふにゃりと垂れ下がっており、彼女の心境を表していた。
いや、待て。
これは、どういうことだ?
「明、待て。少し状況を確認したい」
しっかり観察する。
ネコシッポが、ゆらゆらと揺れていた。
緊急事態を脱したことにより、安心したのだろう。
安心した?!
ある事実に気づき、俺は愕然とする。
「もしかして、そのネコシッポ……感情によって動くのか?」
「そうにゃ。ネコミミデバイスと連動して、動くように設定したにゃ」
ネコミミデバイスは、脳波を感知して動いている。
そして、それと連動したネコシッポは、やはり脳波に連動した反応を見せているのだ。
「少し聞きたいのだが……ネコミミデバイス無しで、ネコシッポは使えるのか?」
「無しだと、ヘッドバンドかカチューシャみたいなものが必要になるにゃ」
それくらいの装備で、脳波が検出される。
もしそうだとするならば、これは画期的な発明品だ。
「データのログは、取っているのか?」
「もちろんにゃ。24時間、常にバックアップされているにゃ」
……つまり、こういうことになる。
みかんの「脳波」は、常にバックアップされているということになるのだ。
遊び道具に見えるこれは、脳波測定装置としても成立している。
ならば、次に確認すべきことは一つだ。
「そのネコシッポ、量産は可能なのか?」
「さすが久郎、お目が高いにゃ! 既に量産体制に入っているにゃ!」
当然、頭につける小型のパーツもセットになっているのだろう。
これは、低負担型BMI技術の試作品として、この上ないほどの性能を発揮している。
脳波を測定する際に、もっとも大変なのは「電極を、頭部全体につけなければならない」ということだ。
結果、睡眠に支障が生じる可能性がある。
また、じっとしていられない子供などの場合、測定不可能となるケースが多い。
だが、この装備が普及すれば、それらの問題がまとめて解決されることになる。
実用化され、量産が進めば、それこそ医学における革命と呼んでもいいだろう。
下手をすれば、某財団の賞が与えられるほどの技術である。
「これ、舞先生には既に伝えてあるよな?」
「当然にゃ。報告書も送って、研究費アップを勝ち取ったにゃ!」
俺たちの会話で、クラス内の雰囲気は完全に変わっていた。
「おはようございます……何か、あったのでしょうか?」
「おはよう……何、この空気」
「おはよう。あれ? どうしたのかしら?」
奏、メア、舞先生が教室に入ってくる。
真剣な表情の俺たちと、普段通りの3人。
恐らくすぐに、3人ともこの事態の「異常さ」に気づくことになるだろう。




